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「ん……んんっ」

 しばらく深い眠りに落ち、充分に身体を休め疲労が抜けてきたところで、ミナは物音で目が覚めた。

 ドアを開け閉めするような音。隣の部屋のフレデリカだろうか、と目覚めたばかりのミナはおぼろげながら思った。

 ところでいまは何時だろう。少し頭をずらして部屋の中を見渡すと、ずいぶん暗くなっている。そういえば、カーテンは開け放したままだ。と、その考えを読み取ったようにカーテンが勝手に閉められた。あれ、カーテンって自動だったかな、と怪訝に思っていると枕もとに置いてある灯りも勝手についた。灯りまで自動……? と未だ寝ぼけたことを思っているとそばで人が動く気配がし、ようやく誰かいることに気づき、ミナは肝を冷やしがばっと勢いよく掛布団を退けて上体を起こした。

「――!!」

「おう、生きてたか」

 驚いて跳びあがるミナをよそに、知っている声が何でもないように言い放った。

 目を凝らすと、橙の灯りにぼんやりと、見たことのある人物の顔が間近に浮かび上がってきた。

「へ……? 殿下……?」

 ミナは間抜けな声を上げた。なぜこんな所にリクがいるのだろう。しかも当たり前のように枕元に腰かけ、足を組み、ぼさぼさ頭のミナを見下ろしている。あとなんか近い。

 部屋を間違えた? いやいやそんなわけない。狭さといい匂いといい、ここは間違いなく慣れ親しんだミナの部屋だ。だがリクがいる。ではこれは一体なんなんだ?

 状況の理解が追いついていないミナに、リクが尋ねる。

「ずっと寝てたのか?」

「え? ええ、まあ、はい」

「具合悪いのか?」

「……? いいえ」

「腹はすいたか?」

「あ~……そういえば食べてない……すき、ました……」

 空いていたはずなんだけれど、途中からくたくたで食べる気力さえ失っていたことを思い出す。おそらく夕食はもう下げられてしまっただろう。

 本当は食べたかったのだけれど、とにかく眠ってしまいたかったので我慢することにしたのだ。しかし時間が経ってみるとやはり空腹は空腹のままだ。お腹すいた。空腹を思い出すと、タイミングよく、ぐうぅ、と腹の虫が鳴った。

「あはは……スミマセン」

 照れ笑いで誤魔化すと、リクがテーブルからトレーを持ってきた。そこに物を置いた覚えはなかったのでミナは小首を傾げた。

「飲め」

 コップを渡され、中には水が入っていた。一口ごくりと飲むと、久しく喉が潤った感じがして生き返った心地がした。

「むぐっ!?」

 コップを離したちょっとの隙に、何か甘い香りのするものを突っ込まれた。

 落ちないようにその甘い何かに手を添え、齧ってみると、果物の載った菓子のようだ。土台のサクッとした生地ですぐにタルトだとわかった。

「……ん、これタルトですね! 久しぶりに食べました、美味しいですね!」

「そうか……良かった」

 ミナが顔を輝かせて言うと、リクはなぜかほっと安心したような表情を見せた。ところで、なぜタルトがここにあるのだろう。それより第一の疑問はリクがここにいることだけれど。リクはリスのようにタルトをもぐもぐ頬張るミナを、微笑をたたえながら見つめる。

 こうして見ると、ただの美形の好青年だ。男性なのだと意識して緊張してしまう。そのせいで時折咀嚼が止まりそうになる。

 こちらが本来あるべき姿のリク王子なのだろうけれど、そういう意味では、いつもの駄々っ子王子でいてくれるほうがミナにとってはいいかもしれない。

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