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部屋に入るとまず飛び込んでくるのは大きな天蓋付きの寝台だ。
ビロードの飾り布は真紅と金をふんだんに使っていて、ミナからするとちょっと“どぎつい”。
他の家具や調度品も金色がギラギラに光っていて目が痛い。他の部屋はむしろ質素で落ち着きがある。片田舎の小さな離宮に、ここだけ別世界のようだ。完全に浮いていて、ミナはこの部屋が好きではない。ついでに言うと部屋にいる人間も好きではない。
「本日もよろしくお願いいたします……殿下」
部屋の中央のテーブルの前で、肘を付き手に顎を載せ、不機嫌そうに窓のほうを向いている主に対して挨拶をした。しかし、相手は襟足を少し伸ばした亜麻色の頭を見せるだけで、こちらを向く気配は全くない。無論返事もない。
――もう、いやになる!
ミナは持っていた鞄を机の上にドン、とわざと大きな音を立たせて置いた。
返事くらいしてくれたっていいだろう。第一、いい年齢、いいご身分でありながら仕事をしないとはいかほどか!
腹が立って、もう一度書類の詰まった鞄を机に叩きつけてやった。失礼ともいえるほどの態度であったが、誰も気にしていない。見ていない。まるで、ミナなんかいないみたいに。
憤るミナの隣で、フレデリカは自分の鞄から本を数冊取り出し、未だそっぽを向いている主のほうへ差し出した。
「リク王子。本日は好きなのをお選び下さいませ。私が読んであげますわ」
「……ふーん?」
リク王子と呼ばれた人物の亜麻色の髪が揺れ、ゆっくりとこちらに顔を向けた。
不健康そうな青白い肌に、やや中性的な顔立ちをしている。大抵の人には年相応に見えるだろうが、彼の中身を良く知っているせいか、二十二歳には見えない。長い睫毛に覆われた碧眼は一度もミナを捉えることはなく、不機嫌そうに細められ、差し出された本に視線を落としている。多分、選んでいるのだろう。フレデリカが順に中身をパラパラとめくってあげている。
「これでいいや」
王子がある一冊を手に取った。
「かしこまりました」
フレデリカが他の本をしまい、リク王子の隣に腰かけた。選んだ本を手に取り、机に突っ伏し寝る態勢に入った王子のことなど気にもせず朗読を始めた。その光景を見ながら、ミナは泣きたい気持ちでいっぱいになった。
――なんだかなあ……。