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「ここを左に曲がって、四つ目の、門前に石膏でできたマリア像のある家だ。一人で行けるか?」
「……ッ」
「あ……っと」
顔を近づけ過ぎただろうかとリクは咄嗟に身を引いた。小声で話す必要があったから近づいただけなのだが、時々免疫のない少女に必要以上に驚かれたり、はたまた勘違いされたりすることがあるのだ。
どうやら自分は女性に警戒心を抱かせるどころか愛情を抱かせる容姿らしい。それがいいことなのか悪いことなのかよくわからない。今のところ得のほうが多いけれど。少女はもじもじと通りを見たり、不安げにこちらを見たりした。
ああ、なるほど。この少女の場合、単に一人で行くのが怖いらしい。
普段ならついていくのだが、リクとしては今夜はさっさと中へ戻りたかった。
なぜなら今夜も尾行していないとは言い切れないからだ。――あの不出来なガキの召し使い共が、だ!
女と遊んでいることは知っているだろうが、ふとしたことで一緒にいるのが年端もいかぬ少女だと知られれば面倒だ。あらぬ誤解を受け、ますますあいつらの好奇心掻き立てかねない。思い出すと腹が立ってきた。リクは急き立てる。
「大丈夫だ。誰も追って来ない」
「でも……」
「あの男なら、今はいない」
少女が恐れているのはここへ連れてきた男、バイヤーのエリックだろう。リクは早く行ってほしいので今のうちだということを強調した。
しかし念のため足場の悪い通路をそっと進みながら前方に顔を出し、通りには誰もいないことを確認した。続いて後方、隣の建物の路地を確認するため少し歩いて角に頭を出して我が目を疑った。
「――ッ!」
「……? あ、あの?」
急に固まったリクに、背後から少女が恐る恐る尋ねた。
「シッ! 急げ! 早く走って行け!」
「は、い……!」
リクの切羽詰まった様子に少女は状況を理解し、反対側の通りへ向かって走った。すぐに彼女の気配はなくなった。きっと大丈夫だろう。
それよりも、リクは眼前の光景にはらわたが煮えくり返っていた。これまでの比ではないほどの強い憤怒。
暴力を働く男にたいしてなのか、尾行してきた少女にたいしてなのか。何にたいしての怒りなのかよくわからないが、殺してやりたいことだけははっきりしていた。
彼はそっと気配を殺して近づいた。
居合わせているのは四人。男三人、少女一人。
この男共の後ろ姿には見覚えがある。傍で控えている二人の名は知らないが、少女の輝く頭部を掴んで今まさに連行しようとしている一人の名は知っている。バイヤーのエリックだ。そして、そのウザったいほどきらきら光る髪の少女――これもよく知っている。
初めて会ったときから眩しくて、直視できずにいるとても遠い存在の使用人。暗がりでもよく目立つ金の髪を持つ少女。
――ミナ。




