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王宮や貴族に仕える人々の朝は早い。ほとんどの国がそうだろう。
日が昇る前に起床し、主のために、着替え、食事の用意に始まり働きアリのように忙しなく城内を駆け回る。
しかし、ミナたちの場合は違った。
王都中心部にある国王たちの暮らす城から離れたところにあるこのひっそりとした離宮に暮らす彼女たちの主は、昼過ぎまで起きてこない。
仕事の時間が迫りつつある頃、主の部屋の前で待機しているミナは、部屋から聞こえてくる声に、いつもの苦い思いを抱え、はあっと深いため息を吐いた。
「今日も苦戦してるね……」
ミナは顔を歪めながら、隣にいる透き通った水色の髪にどこか艶めいた雰囲気を持つ美しいフレデリカという女性に呟いた。フレデリカはこちらを見て、
「ふふ、殿下らしくっていいじゃない」と、気落ちしているミナとは反対にちょっと楽しそうに笑った。
「冗談じゃないよ、このままじゃ私たち切られちゃうかもしれないのに……」
「それはそのときに考えればいいわ」
職を失うことが怖くないのだろうか。
しれっと言いのけるフレデリカに対して、相変わらずマイペースで肝が据わっているなあと感心した時、ドアが勢いよく開いて一人の少年が出てきた。
「はあ、やっと終わった……! ああ、おはようございます」
息を乱し何やら苦労の後が見えるこのミナより少し背の高い少年は、ジャックといって、騎士見習い兼小姓である。彼は今、手のかかる主の世話をやっとのことで終えたところだ。
「お疲れ様。いつも大変だね」
私たちも大変だけれどね、と口には出さずに付け加える。本当、ミナたち三人はこの城の主には手を焼いているのだ。
ミナの労いにジャックの表情がかすかに晴れる。そのまま通り過ぎようとしているところを、ミナが後ろから問いかける。
「今日はもう出て行くの?」
「ああ、うん。ホントは一緒にいたいんだけどさ」
「そう……あ、ゴメン、引きとめちゃって」
ミナがそう言うとジャックは人の良い笑顔を見せてから、さっさと階下へ降りて行った。
本日はジャック無し……か。
たとえ数時間といえども、疎外されるのはあまり居心地がよくないのでジャックにはいてほしかった。
まあ、仕方ない。それを決めるのはジャックではなく主なのだから。
「ねえ、やっぱりあなたたちって付き合って――」
「ないよ!……失礼します」
ミナの寂しそうな表情が、離れるのが辛い恋人同士のように見えてしまったらしい。フレデリカの何度目かの問いにきっぱり否定すると、姿勢を正し、戸口に向き直る。
さあ、仕事だ。