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 何事かと小声で尋ねてみたが、待てども返事は来ない。

 まるで墓穴の中のように、周囲の風さえ音一つ立てない不気味な静けさに包まれていた。先ほどまでと空気が違う。急にぐっと気温が下がったような感じだ。

 何かあったのだろうかと一気に不安が押し寄せてくる。

 転んだのだろうか。だが、そんな大きな物音はしなかった。

 だとしたら、誰かに捕まった? 途端、脳裏に昨夜の男がよぎった。思い出すと、恐怖と不快感に総毛立った。ミナは両腕で己を抱いて、今にも震え出しそうになる身体をさすった。

 ――ど、どうしよう……。

 やはり危険のあるとわかっている場所で一人にされると心細い。前に立って、導いてくれる人がいないとどこへも進めないのだ、とミナは改めて自分の不甲斐なさを呪った。

 だがここで狼狽えていては計画の一割も達成できない。一人になってしまった以上、一人でやるしかない。ジャックの安否もわからずじまいだ。

 ――なんとかしなくちゃ。せめてジャックの行方だけでも……!

 逃げてしまいたい自分を奮い立たせる。ジャックを誘ったのは私だ。私に責任がある。一旦クスリについてはおいてでも、彼を見つけ出さなければいけない。それに私は――あの父の娘だ。

 ――彼を助けないと。

 ミナはスカートの左のポケットに触れた。そして目を閉じ心の中で父を思い描いた。大丈夫、いつだって父は私を助けてくれる。ミナの騎士で、強くて優しい唯一の味方。

父を感じ、ミナの動揺が治まってくる。そして語りかける。「どうしたらいい?」すると彼は忠実に答える。――むやみに動くな。身体ではなく頭を使え。

「そうだった……」

 亡き父の言葉を思い出し、ミナは目が醒める思いだった。

 とても簡単で大事なことを、人は感情に支配されるとこうもたやすく忘れてしまうのだ。こういうときこそいたずらに動いてはいけないのだと、彼はよく言っていた。そしてそのために必要なのは、何を差し置いても平常心。

 胸を押さえ、すう、はあ、とゆっくり深呼吸をしてまず自分を落ち着かせた。

 自分を宥めるのに成功すると、大きな音だけはたてない、と胸に誓った。

 というのも、同類で集う愛好、同好クラブなどはとかく雰囲気を大事にする。それをぶち壊す大きな音は一瞬で敵とみなされ、大声で助けを呼ぼうものなら助けてくれるどころか潰しにくるだろう。

 よし、これでゆっくり静かに行動することに決まった。少し落ち着いた。それから? ミナは角を見据えた。ここを曲がっても問題はない? 曲がってもジャックがいなかったとしたら、どうしたらいい?

 彼のほうから未だ動きはない。声を最後に近くにいる気配すら感じられない。穴にでも落っこちたのだろうか。いずれにせよ、彼の身に何か起きたことは間違いない。

 男性で、騎士見習いで、自分より強くて頼もしくても、彼はまだ年下だし半人前で未熟だ。放っておいて一人で脱出できる力はないだろう。つまり、

 ――……行くしかないみたい。

 探さないと。

 ミナは勇気を振り絞って歩き始めた。手に汗を握りながら、ゆっくり、慎重に。なるべく音を立てずに。もう少しで角を曲がる。もし、その先に目を覆いたくなる光景が広がっていたら、どうしよう。怖い。でも、ダメ。進まなきゃ。

 ミナはあと一歩で角を曲がるところで一旦止まった。この瞬間だけ目を閉じるのを許してほしい。

 ミナはギュッと目を閉じ勢いづけて踏み出した。

「……――ッ、きゃ!」

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