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「ねえフレデリカ。私、ものすごーく眠い」

「そう」

 隣にいるフレデリカにそう告げると、彼女はくすくすと笑うだけでまじめに取り合ってくれない。

 ミナは授業の前、いつものようにリク王子の部屋の前で待機していた。だが、今日はいつもと違うところがある。

 一つは王子を起こす係に、ジャックだけではなく女官も参戦することになったこと。というのも、ジャック一人の戦力が今日はガタ落ちしているからだ。もう一つは、ミナの気分がこれ以上ないくらいに最悪なことだ。

 なぜそんな変化が表れたのかというと、それは昨夜の尾行事件のせいだ。

 昨夜、ジャックと共に王子を尾行しなんとかクラブに侵入はできた。が、帰る間際、残念なことに王子に見つかってしまった。あのとき門番の男がいなくなっていたのは王子に告げ口をしていたからだそうだ。それで王子は出口付近で、勝手な行動を犯したミナたちを待ち構えていた。運悪く見つかり、そのあとはもちろん帰ってから大目玉をくらった。リク王子からではなく、――女官に。

 クラブの煙あるいはニオイのせいで二人とも体調が万全ではないうえ、こう朝までくどくどと説教をされれば気分は最悪である。二人が部屋に戻されたのはつい一時間ほど前。だから本当に眠いのだ。ミナは次々出てくるあくびをかみ殺した。

「私ね、頭も痛いし、お腹も痛いし、膝も痛いし、顔も痛い。眠すぎて今にも倒れてしまいそう」

 思いつく限りの体調不良を挙げてみる。自分がどれだけ今この場に居たくないかを、少しでもわかってフレデリカに同情してほしいと思ったのだが、彼女は呆れたように首を振っただけだった。

「やめなさい。そう言っていると本当にそうなっちゃうわよ」

「だってぇ……」

 一歳年上のフレデリカにぴしゃりと窘められ、ミナは肩を落とした。

 ――本当に全身痛くなって動けなくなればいいのに。そしたら授業、休めるじゃない。

 そのほうがずっと楽だと思う。

 女官に怒られたのは慣れているしもう過ぎたことだからいいとして、問題はこれから顔を合わせなければならないリク王子だ。

 彼の顔をきちんと見たのは、昨日が初めてだった。

 ――くやしいけれど、とても綺麗な瞳だった。

 睥睨されていることなんてどうでもよくなるくらい、ミナは彼の瞳に心奪われていた。

 怒りを孕んだ双眸は、暗がりの中で煌々と輝いていた。緑が強めの美しい碧眼。こんな形で初めて目が合うことになるとは予想していなかった。

 正面から彼の端整な顔を見るのも初めてで、つい魅入っていると、彼はバツが悪そうに舌打ちをして顔を反らした。

 ミナは彼のこの行動になぜかひどく傷ついた。そんなに……そんなに私のことが嫌? 

 そしてこんなちょっとしたことでショックを受けている自分に当惑した。わけがわからない。感情を持て余し、思いきり叫んで泣きたい衝動に駆られたが、必死に抑え込んだ。

 これしきの事で泣けば、余計に自分がわからなくなりそうだったから。

 だが、ますます嫌われたのは明らかである。だけど、目が合ったことによって、ミナは初めて彼に人間として認識されたような気持になった。向けられた感情がたとえ怒りだったとしても。

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