プロローグ
かつて人だったモノがあちらこちら転がっている。
まだ五つにもならない子供は呆然と己の両手を見つめていた。自分が何をしたのか理解ができなかった。
「早く、早く逃げるぞ!」
爆発により顔面に大きな火傷を負った少年は蹲る子供を背負う。そして迷う事なく走り出した。
まもなく追手の声が迫り寄ってくる。顔に重傷を負った少年の体力は限界がある。視界だって霞んで見えていない状態だった。こうして走れるのが不思議だった。そして少年から垂れる血が追手の追跡を手助けしているだろう。
このままでは二人揃って捕まってしまう。
少年は子供を降ろすと子供の顔をしっかりと見つめた。
「いいか、よく聞け。このまま真っ直ぐ走れ。何があっても振り向くな」
バシンっと背中を叩かれた子供はよろめいた。戸惑いと躊躇いの表情に安心させるように笑ってやる。
「大丈夫。おれは後から行くから。約束する。おれが嘘ついた事があったか?」
子供は頭を降った。
「だろ?じゃあ行け!」
もう一度背中を押すと子供は走り出した。
小さな足で一生懸命走っている。うまくいけば、あの子は大丈夫だ。
闇の彼方から怒声がどんどん大きくなってくる。少年は笑みを浮かべて振り返った。そして雄叫びをあげると全速力で走り出した。
追跡者達へ突撃するために。
ー おれはどうなっても構わない。ただ、あいつが無事に生きれるならそれでいい。
どうか辿り着いてくれ。
避難所に、モスタクバルに。
夜の暗闇に、少年の叫び声と乾いた銃声が響き渡った。