表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

クイズ好きの彼女

作者: 結葉 天樹

「それでは問題です」


 今年もあと五分で終わるというその時、年越し蕎麦をすする俺に向けて、茉莉まつりが指を突き付けた。


「年越し蕎麦は、どうして年末に食べるのでしょう?」

「蕎麦は他の麺よりも切れやすいから、『その年の厄を断ち切る』って意味で食べるんだろ?」

「正解」


 あっさり答えられたことに茉莉は少しつまらなそうだった。恐らくその問題を出してくると思っていたから年越し蕎麦に関しては予習済みだ。


「じゃあ、大晦日に現れる秋田県男鹿半島の鬼――」

「なまはげ」

「……正解」


 不貞腐れた。

 茉莉はこうやってことあるごとに仕入れた知識をクイズにして俺に出題してくる。だけど大抵が巷で話題になっていることや季節のネタなので、その傾向は簡単に読める。まあ、お陰で世間の話題には敏感になっているので、ありがたくもあるのだが。


「なかなか孝輔くんに参ったって言わせられないなあ……あ、ミカン取ってー」

「はいよ」


 さっき買ってきたミカンを炬燵に突っ伏す茉莉の前に転がしてやる。


「んー、甘くて美味しい!」


 そして、ミカンを食べて機嫌はすぐに直った。喜怒哀楽がころころ変わる茉莉の表情は見ていて飽きない。


「今年も終わりだねー」

「そうだな」


 今年が終わるまであと三分。まったりとした時間を過ごす。


「明日の初詣、何時に出かける?」

「混みそうだし、午前中か夕方ぐらいがいいかもな。寒いから甘酒を飲むのもいいな」

「それでは問題です。甘酒はいつの季語でしょう?」

「夏」

「むー」


 危なかった。今のは昨日、ネットで偶然見たから答えられたんだ。

 茉莉も今の問題は結構自信があったらしい。腹いせに炬燵の中で脚を蹴られた。


「ふあぁぁ……なんか眠くなってきた」

「疲れてる?」

「……まあな」


 大晦日なのに今日はバイトがあった。夕方に終わってから茉莉と待ち合わせて、買い物をした。今日は閉店が早いのでギリギリだった。


「ほらほら孝輔くん。テレビでもカウントダウン始まったよ!」

「ん……そうだな」

「あー、寝たらだめだって!」

「そんなこと言っても……」


 疲れと炬燵の暖かさ、年越し蕎麦を食べた満腹感で……だめだ、眠い。

 テレビの中でアイドルとファンが告げる時間がまもなくゼロになる。


「もー……あ、そうだ」


 何かを企んだような声が聞こえた。また新しいクイズを思いついたのだろうか。


「ふふふ……ごー、よーん、さーん、にー、いーち」


 近づいてきた?

 だけどごめん。眠くてもう付き合えない――。


「ゼロー!」

「――っ!?」


 唇に押しつけられる柔らかい感触。ふわりと香る甘い匂い。その不意打ちに俺は一気に目が覚めた。


「な、え……ちょ、お前?」

「えへへー、あけましておめでとう。孝輔くん」


 覚醒してすぐに目に入ったのは口元に指をあて、悪戯な顔ではにかむ茉莉の顔。


「それでは問題です」


 顔が赤いのは照れなのか、それとも炬燵で温まったからか。


「今のキスは去年最後のでしょうか、今年最初のでしょうか?」


 参った。二つの意味で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ