コボルト族とケットシー族とのあいだに戦端が開かれる~~~樹歴326年、9月20日
樹歴326年、9月20日となりました。
本日も、ワタクシが異世界ニュースをお届けいたします。
解説はみなさまもお馴染みの
「俺だ」
よろしくお願いします。
では、トップニュースです。
~~~コボルト族とケットシー族とのあいだに戦端が開かれる~~~
以前から揉めていたコボルト・ケットシーの両族ですが、9月19日の未明にセルム平原にて戦端が開かれたもようです。
「避けられない戦だ。コボルトはケットシーの領内で産出される鉱物を購入し、その鉱物をコボルトはこまごましたアイテムに造形、そのアイテムをまたケットシー族が購入して、エルフや人間に売っていた。だが、これではコボルトが損をしている。そう告げ口をしたのが人間の商人だ。連中はケットシーを通すことなく、俺たちに売るべきだと交渉したのだ」
妥当ですよね?
「問題は妥当かどうかじゃない。コボルトが人間の商人を追い払ったことだ」
ええ?!
どうして商人を追い払ってしまったんですか?
「ひとことで言えば、コボルトは馬鹿なのだ。損をしていようとも、ケットシーとの長らくの付き合いという信義を選んだのさ」
はぁ? それでどーして戦争になったんですか?
「人間だよ。連中が裏でいそいそと画策したのさ。コボルトとケットシーが共倒れになったところで、美味しいところをさらおうとしたんだろうが…」
が?
「仄暗い遊びに興じていた連中は、エルフにも手をだしたんだろうな。逆鱗に触れて、街ごと皆殺し。ただ残されたのはコボルトとケットシーの確執だというわけだ。そして、その確執は人間の商人が頭を捻って考え出したものだ。どうしたって、戦争は避けられなかったんだよ」
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ゴーゴーと炎を巻いて家が、街が燃えている。
エルフの魔法で家畜が、人が、みんな死んでいく。
あの日からどれほどが経ったのか。
僕はたった1人。
焼け野原になった街の跡に居た。
僕の座り込んでいる前には苗木が1本。
リーゴの木。
寒い時期に、真っ赤で甘酸っぱい果実をつけるんだ。
僕はそのリーゴの苗木を植え終えたところだった。
たった1本だけ焼け残っていた苗木だった。
「はぁ」
溜め息がこぼれて、体が横に倒れる。
限界だった。
僕の体は半分以上が焼けてしまっていた。
火傷じゃない。
焼けてしまっていた。
リーゴの実。
もう1度、食べたかったなぁ。
目を閉じる。
きっと僕の体を栄養にして、何時か、美味しいリーゴをたわわに実らせてくれることだろう。
そう思うと、ちょっとだけ。
死ぬのが恐くなくなった。
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樹歴411年
コボルト族とケットシー族が協力して村を拓く。
場所の選定は揉めたが、大きなリーゴの樹がたっている平原に決まった。
いいや、決めさせられた。
誰が。
どのようにして。
何を目的に。
村を築くあいだにも色々とあった。
コボルト族とケットシー族の喧嘩は絶えず、憎しみは何年も何年も続いた。
それでも。
寒い時期に鈴なりに実るリーゴを食べる時は、コボルト族だろうとケットシー族だろうと、関係なくニコニコと笑顔で頬張って、喧嘩も憎しみも忘れたのだ。
樹歴420年
村は町となって、町は街になっていた。
リーゴの大樹は街の中央にそびえて、変わることなくリーゴを街の人々に振る舞っている。
ここが、かつて人間の街であったことを知る者は……もう居ない。
たとえ明日、地球が滅びんとも。今日きみは、リンゴの木を植える。
この言葉から着想を得ました。