世界樹に魔王の種子が確認される~~~樹歴801年、9月12日
樹歴801年、9月12日となりました。
本日も、ワタクシが異世界ニュースをお届けいたします。
解説はみなさまもお馴染みの
「俺だ」
よろしくお願いします。
では、トップニュースです。
~~~世界樹に魔王の種子が確認される~~~
実に…実に、62年ぶりに魔王の種子が確認されました。
「う、うう……ぅおおおおおおおおお!」
分かります! 分かりますよ、その気持ち!
この放送を視聴してくださっているみなさまも、同じく感動と興奮の声をあげてくださっているでしょう!
「62年……長かった。長すぎだ…」
ええ、本当に。
「世界中のジジイやババア! 死ぬなよ! 死んじゃならねーぞ! いよいよ始まるんだからな!」
エルフの観測によれば、種子が弾けるのは5年後とのことです。
「5年か……それだけあれば、充分な準備ができそうだな」
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世界樹は約50年に1度、世界中の邪気を集めた真っ黒な種子をつける。
それこそが通称『魔王の種子』。
魔王の種子は、夜の枝葉に運ばれて大地に落ち、割れて、1体の異形を生む。
形は大概が人の相似形だけど、過去には9本の尾をもったキツネだとか、8つの頭と尾っぽをもった竜だとかが生まれたこともあるらしい。
その魔王は、そう呼ばれるだけあって、ありとあらゆる魔物を従える。
従えて、魔物以外のありとあらゆる生き物を襲う。
ハッキリと災厄だ。
でも、そんなことは大した問題じゃない。
むしろ統率されている分だけ、対処がしやすいと考える向きもあるほどだ。
だったら、なんでこんなにも注目されているのかといえば。
この魔王が生まれた後にあるのだ。
魔王が生まれると、世界樹は、この世界を護るために自動的に異世界から人間を呼び寄せる。
いわゆる『勇者』という奴だ。
世界樹から魔物への特攻能力を付与された、この勇者。
男だったり、女だったり。
若かったり、老いていたり。
大昔には集団で呼び寄せられたこともあったらしい。
で、だ。
俺たちはこの勇者に注目するのだ。
だってさ、こいつ等がおもしれーんだ!
「え! なにこのステータスの数値!」
驚いてやれば、俺らのことを見下すみたいに満足そうに笑うのだ。
ぷぷぷ! ステータスって何だよ?
能力が数値化できるはずねーだろ!
その場にいた全員が夜になって酒場で大笑いだって――の!
この勇者を如何に調子にのらせたまま世界中を巡らせて、魔王を討伐させられるか。
それが50年周期の、世界最大のイベントなのだ。
生きている間に是非とも体験したい娯楽なのだ。
この勇者が世界を巡っている間だけは、どんなに仲の悪い国だろうと戦争をしない。
そんぐらいなんだ。
ところで俺は…ワシは王様だ。
勝手にワシらが四天王とか名付けた魔物のうちの1体を勇者が討伐したので、今回は頑張った勇者をねぎらう役目をもらっている。
これは世界中の王という王がクジを引いて、見事にワシが勝ち取ったのだ。
もっともこんな面白イベントを見逃せないと、世界中の王やら大商人が、武官文官に変装して参加しているのだけど。
おっと! 勇者がご入場だ。
すげええ!
王の面前だというのに、堂々とワシの…王様の顔を直視して入ってきてる。
ふつーは顔を伏せるだろ?
え? 異世界だと違うの!
最高だぜ!
ほら、そこ。笑いを我慢しなさい! ばれちゃうだろ!
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樹歴200年前後から始まったとされる勇者の観察。
誰が。
どのようにして。
何を目的に。
このイベントにおける一体感は凄まじい。
勇者という異世界人がいるおかげで、知性ある彼等彼女等は自分たちがこの世界の住人であるという意識を強くすることができるのだ。
樹歴666年
6並びの年に、映像を遠方まで飛ばす技術が何者かによって発明されると、樹歴672年の勇者イベントで活用されて、大盛況となる。
だが彼等は興味をもたない。
魔王を討って元の世界に戻った勇者が、どうなって、何をしているのかを。
知らないのだ。
異世界で、貝の世界の在ることが広まりつつあるのを。
やがて貝の世界は、異世界人の科学によって『在る』ことが把握されるだろう。
把握されてしまえば、異世界人は時を待たずに遣って来るに違いない。
平和か。
戦争か。
どちらにせよ。
その時、貝の上の世界の住人が大同団結して迎えられるかは。
勇者の活躍にかかっているのだ。
貝の上の大地に到達する前に、異世界は過剰な科学で滅びるに違いない
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