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ゴブリンが降るのは12日から15日にかけてとエルフが予報~~~樹歴1056年、9月10日

樹歴1056年、9月10日となりました。

本日も、ワタクシが異世界ニュースをお届けいたします。


解説はみなさまもお馴染みの


「俺だ」


よろしくお願いします。


では、トップニュースです。



~~~ゴブリンが降るのは12日から15日にかけてとエルフが予報~~~



そろそろ季節の変わり目ということで、エルフからの予報が発表されました。


「今年は例年よりも暑かったからな、ゴブリンどもも随分と繁殖してるだろうよ」


ですね。これを受けて、各国は対応を急いでいるようです。


「たったの2日間しか猶予がないからな。その2日の間で如何に領内に兵を配備できるかが、後の被害の多寡につながる」


各国もそこのところは理解しているようで、国境を挟んで睨みあっていたリモシー国とテラライ国は停戦協定を結んだようです。


「この時期に軍を発している時点でお粗末な話だ。とうてい国内の配備はずさんになるだろうな」


ですが、まだ両国は増しですよ。

ウスター平原で干戈かんかを交えていたジャムジャム族の王弟軍と王太子軍は争いを継続するようですから。


「終わったな、ジャムジャム族。周辺国は迷惑なことだ」


続報です!

エルフの発表によりますと、59年の観測史上、例に無いほどの大量のゴブリンが降るそうです!


「ほぉ。だとすると…あれが生まれるかもしれんな」



ゴブリンは謎の生物だ。

分かっているのは、世界樹の葉の上に産まれ、成長するということ。

あと、季節の変わり目…とくに夏の終わりのある日の夜明けに、一斉に地上にこぼれてくるということだ。


「来たぞ!」


同僚が空を指さす。


夜明けだった。

頭上を覆っていた世界樹の枝葉が見る見るうちに収束していく。


その光のなかをゴブリンがこぼれて来た。


「多い!」


悲鳴のような声をもらしたのは、誰だったか。

もしかしたら、俺自身の声だったかもしれない。


例年ならば粒のようでしかないゴブリンが、帯のようになって降ってきた。


「行くぞ!」


十人長が何時になく張り切った掛け声をあげる。


「応!」


俺たちもヤル気に満ちた声を返す。


走りながら


「あれだけいたら、噂になっているのも居るかもしれんな」


隣りにいた幼馴染が、ってもいない皮算用をする。


「ま、死なないように頑張ろうぜ」


言いながらも、俺だって期待してしまっていた。


そのゴブリンはひと目で他のゴブリンと違うと分かるらしい。

そして、その珍しいゴブリンを生け捕りにできたのなら、陛下からとんでもない褒美がいただけるのだ。


ニヤニヤ、ニヤニヤ。

周囲を見たら、誰も彼もが笑っていた。


これから死ぬかもしれないというのに…。


けど、そういう俺も笑っているのだろう。



ゴブリンが降ってくると予報がでた、その日。

世界中に噂が広まった。


奇跡のゴブリンが落ちてくるかもしれないと言うのだ。

どのようなゴブリンなのか詳細はつまびらかにされず、それでいて、見たらソレだと分かるのだという。


誰が。

どのようにして。

何を目的に。


真実は不明だったが、人々はこれを信じた。

特に王侯は、奇跡のゴブリンを生け捕りにした者には褒美を下すと沙汰をだした。


とはいえ。

樹歴1056年の晩夏に奇跡のゴブリンが発見されることはなかった。


ソレが見つかったのは翌1057年の2月。

ジャムジャム族によってである。


樹歴1056年のジャムジャム族の内紛は王弟派の勝利に終わっていた。


とはいえゴブリンを放置しての勝利である。

平原は縦横無尽に荒らされ、ジャムジャム族は滅びるという向きが大勢をしめていた。


これが案に相違して、ジャムジャム族がいまだ健在でいられたのは、ゴブリンどもが平原を荒らさなかったからに他ならない。


この予想外の安寧で息を吹き返したジャムジャム族は、被害が出る前にと軍団を発したのだ。


そして彼等は見る。

1匹……いいや、1人の美しき少年に率いられたゴブリンどもを。


この緑色をした少年こそ、奇跡のゴブリンであったのだ。


生け捕られた奇跡のゴブリンは、ゴブリンを率いていたことからゴブリン・ロードと呼称され、金欠に喘いでいたジャムジャム族は大金と支援をもって、隣国にゴブリン・ロードを売ることになる。


さて、このコブリン・ロードは言ったものだ


元来がゴブリンとは自分と同じように美しい容姿をしているのだと。

それが世界樹の枝葉からこぼれて、大地に激突して


「死んでしまうのです」


しかしながら、だ。


ゴブリンは世界樹の葉を食べている。

神薬の原料として知られている世界樹の葉を、食料としているのだ。


死んだところで、生き返った。

蘇生した。


が。蘇生したところで世界樹の効能は切れ、ひどく醜い容姿で、知性の欠片かけらもない、あのゴブリンとなってしまうのだ。


ゴブリン・ロードはたまたま死ななかった個体だった。

大怪我をしただけで済んだ、幸運な個体だったのだ。


このゴブリン・ロードは大金でもって次々と別の国に売られることになる。


美しい容姿をした、大人しい少年なのだ。

威信を示すには、かっこうの生き物だった。


樹歴1105年


ゴブリン・ロードは、とある帝国に生きていた。


2代に渡って皇帝の遊び相手となって、信用され、長年の蓄積の知識でもって重用をもされていた。


人々は忘れていたのだ。

この少年の姿をした生き物が、ゴブリンであるということを。

季節ごとに、同胞はらからを無惨に殺されるのを見せつけられ、内心は血の出るような怒りと屈辱に満ち満ちているのだと。

思いもしなかったのである。


樹歴1118年


ゴブリン・ロードが遂に動く。

彼は怠惰に堕ちた皇帝一族を糾弾するや、貴族どもの総意を得て帝国の頂点に座るのだ。


この後、樹歴1122年


ゴブリン・ロードは神を名乗り、天からこぼれたゴブリンを率いて周辺国に戦火を振りまくこととなる。

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