探検家ジョンマーに第一子が誕生~~~樹歴808年、9月6日
樹歴808年、9月6日となりました。
本日も、ワタクシが異世界ニュースをお届けいたします。
解説はみなさまもお馴染みの
「俺だ」
よろしくお願いします。
では、トップニュースです。
~~~探検家ジョンマーに第一子が誕生~~~
世界トップの探検家にして冒険者のジョンマーさんに第一子が誕生しました。たいへんに喜ばしいニュースですね。
「奴の偉業は俺でも感心せざるを得ないな」
たしかに、世界樹の106層までを単独で制覇するだなんて人間では偉業ですものね。
「いやいや、俺はそんなツマラナイことを言っているのではない」
え? では何をそんなに感心しているのですか?
「ジョンマーは738年の生まれだったよな?」
え~、ちょ~~とお待ちください。
資料だと……727年の生まれになってます。
「更に、この俺を驚かせるかよジョンマー!」
あの? どうしたって言うんですか?
「まだ気づかないのか? 年齢だよ、ジョンマーの年齢を考えてみろ!」
81歳ですね。
「そこで驚けよ! 81歳で子供を産ませてるんだぞ! 平均寿命が48歳のヒューマンが!」
ほんとだ!
「だが……文字通りに不自然ではあるか…? これは調べてみる必要がありそうだな」
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伝説によれば、この大地は貝なのだという。
そうして、貝の大地を貫く世界樹を地下へ地下へと潜った先に『裏』の大地が存在するのだという。
とはいえ俺らみたいなしがない冒険者に『裏』まで行こうとする気概はない。
なら、どうして世界樹に挑むのかといえば。
生きるためだ。
世界樹の内部の迷宮には魔力が凝っていて、種種様様な素材を採取することができるのだ。
俺たちのような冒険者のほとんどは、素材を採って、街で売ることで、生計を立てていた。
とはいえ、世界樹の内部には凶悪な魔物がうろついている。
低層はそうでもないが、深く潜るほどにヤバイ魔物が出没するのだ。
だから命と金とを天秤にかけて、冒険者のほとんどは低層にたむろしているのが現状だ。
しかし。
そのぬるま湯のような現状が破られた。
偉大なる探検家にして冒険者でもあるジョンマーが世界樹の50階層に何かを隠したというのだ。
誰かが言った。財宝に違いない、と。
誰かが言った。長寿をもたらす秘薬に違いない、と。
いずれにせよ、お宝ではあるはずだ。
50階層は、俺たちのようなうだつの上がらない冒険者でもパーティーを組めば挑めないことはない絶妙な階層だ。
だから、俺らは今日も世界樹を深く潜る。
けれど……。
俺に関しては、ココまでみたいだ。
明日を挑むことは無理そうだ。
「たす、けて……」
もう首までスライムに取り込まれていた。
仲間に救助を求めるけど、連中はとっとと尻をまくっていた。
しょせんは仮初めのパーティということか…。
危なくなれば、己の命こそが大事なのだ。
服が溶かされる。
皮膚がヒリヒリと痛む。
「死にたく……なぃ」
せめてジョンマーの秘宝を……。
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ジョンマーが老衰で亡くなった。
そのしばらく後のことだ。
冒険者たちのあいだで、世界樹の50階層に彼の人が財宝を隠したという噂が飛び交った。
誰が。
どのようにして。
何を目的に。
噂の真偽は不明だったが、一攫千金の夢物語に冒険者どもは動いた。
ベテランという名のロートルも。
ルーキーという名の田舎者も。
誰も彼もが世界樹に挑んで、ほとんどが帰らなかった。
ジョンマーの噂の直後。
樹歴810年がもっとも世界樹の迷宮へ挑む冒険者が多かったのだが、冒険者組合の発表によれば、日に平均991人が潜る一方で、出てきた人数は313人ということになっている。
組合員でなかった野良も合わせれば、更に犠牲者の数は増えるだろう。
実際、810年から815年にかけては世界樹の広げる夜葉は濃密で、例年ならば枝葉の隙間からこぼれる星のひとつとて観測されなかったとされる。
よほどに世界樹は栄養を摂取できたのだろう。
樹歴833年
既にジョンマーの秘宝の噂が忘れられた頃のことだ。
とある冒険者パーティーが18階層でスケルトンを討伐した。
30階層より下に出没するスケルトンが、20階層よりも浅い場所でうろつくのはかつてないことである。
しかしながら犠牲者は出なかった。
初心者パーティーを引率していた冒険者組合の指導員が手もなく倒したのだ。
さて。
このスケルトンは不可思議なことに左手に紙片を握りしめていた。
びっしりと書き込まれた文字は、東方の文字だ。
残念なことに読める者がパーティにいなかった。
もしも東方の出身者なり、文字を読める学者なりがいたのなら、驚喜したことだろう。
なにせ紙片に書かれていたのは、仙術のひとつだったのだから。
それも生気をみなぎらせ、肉体を強化させ、寿命を飛躍させる類のものだったのだ。
これがあれば、ジョンマーのように単独で世界樹の100階層に挑むことも可能だろうし、老人となっても機能を失わずにいられる。
大金を山と積んでも惜しくない紙片であった。
が、パーティに文字を読める者はいない。
そうなると、ただの小汚い紙でしかなかった。
この紙片は、スケルトンを討伐した指導員が用を足した際の落とし紙として使われ、それで終わりだった。
いい落ちがついた!
それとですね、1話に齟齬があったので大幅に文章を追加してます。
もう読んでしまった方には申し訳ありませんが、最後のほうの追加分だけ読んでみてください。
※この世界の夜と朝について。
この世界の『夜』は世界樹が枝葉をしげらせて世界を覆うことで訪れます。
『朝』は逆に広がった枝葉が収束することで訪れます。
なので、世界樹にちかい場所ほど夜は長くなります。
また、世界の果ての際では、断崖の向こうから広がった別の世界樹のものと見られる枝葉が、表の世界の世界樹の広げた枝葉と接触する様子が確認されていることで、裏の世界があるのだと確信されてもいます。