サマーラの戦い ~セロフ攻略戦
時は戻って、北十字軍地上部隊はサマーラへ進軍中。
両軍共に準備を整え、互いに会敵の時を待っていた。
そして王都領最初の町、セロフにてサマーラの戦いの火蓋が切って落とされる…。
北十字軍は王都領サマーラへ向け着々と兵を進めていた。
サマーラへの道は険しいが、短い一本道だ。
北十字軍の進軍スピードでは2日もあれば十分であった。
23日の明朝
進軍を再開しようとした軍団司令部に航空隊から伝令無線が届いた。
その内容は
敵航空基地に攻撃準備中の多数の機影あり。
進軍中の師団は空からの攻撃に注意されたし。
というものだった。
しかし王都領はもうすぐそこにあった。
それでもこの軍団の軍団長である
親衛隊第2装甲師団長レンテム・アーケン上級大将は
進軍を焦る必要はない。一層慎重に進め。
王都領は目前だが、敵も目前に居ることを忘れるな。
と語り、より多くの偵察隊、観測隊で斥候を行いつつ兵を進めた。
そして配属されている可能な限りの数の自走対空砲やレーダー観測車を臨戦態勢にさせた。
しかしそれは杞憂に終わった。
先述したとおり統合軍は陸軍機動兵力による侵攻妨害を断念している。
したがってその任務は空軍が行うことになっていたのだが…。
ウラル空軍基地は決して大きくない。
統合空軍はこういった規模が小さい基地でも運用できる爆撃機や攻撃機を保有していなかった。
故にウラル空軍基地の保有する航空機は制空戦を専門とする戦闘機や迎撃機がほとんどを占めていた。
北十字軍の進軍中の兵力がほとんど機械化されており、対空迎撃態勢も万全であると予想されていた。
以上を考慮してウラル空軍基地は妨害攻撃を中止。
来るべきサマーラの防空戦に備えた。
北十字軍航空隊の偵察機もレーダーに捉えていた。
しかし迎撃をしなかったのは、ウラル空軍基地の防衛のための兵力の温存というのもあった。
23日2135進軍中の軍団が王都領境界線以北20㎞に到着した。
サマーラヘの攻撃は夜が明けてからである。
24日午前、北十字軍は進軍を開始し、それを察知したサマーラを守備する統合軍残存兵力の砲撃が始まった。
北十字軍の前線は統合軍による熾烈な砲撃を受けつつも確実に前進していた。
後方では北十字軍砲兵が展開準備を進め、航空機もサマーラで勃発するであろう航空戦に向けて準備をしていた。
24日1635、日も傾き始めた頃、
軍の先頭を行く北十字軍親衛隊第2装甲師団は王都領境界線を越え、第一の町セロフの目と鼻の先まで進撃していた。
不思議なことにこれまで敵の本隊どころか、斥候にも遭遇していない。さらにここでずっと続いてきた砲撃も止んだ。
レンテム将軍はセロフにて何らかの敵の罠が用意されていると判断。
セロフへの進軍を25日の明朝まで持ち越した。
25日、夜も明け始めた頃に親衛隊第2装甲師団がセロフへと進入した。
町は不気味な静けさに包まれていた。
突然、遥か南東の方向から轟音が鳴り響いたと思うとセロフに潜む全ての統合軍兵力が行動を開始した。
セロフの統合軍の作戦開始と同時に北十字軍増援に対する進軍阻止砲撃が開始されたのである。
このため、親衛隊第3装甲師団以下の北十字軍は第2装甲師団に次いでセロフに進入することは厳しくなり、第2装甲師団は孤立した。
セロフでは統合軍の作戦が着実に実行されていた。
第2装甲師団の大半の部隊には随伴歩兵は配置されていない。
これが北十字軍の弱点だったのだ。
まるで歩兵のように柔軟性のある動きをする統合軍のMk.Ⅳ装甲車に北十字軍の戦車たちは翻弄された。
そして見事に作戦は成功し多くのT-34が撃破された。
しかしM-1はそう簡単にはいかなかった。
統合軍の戦車がいくら命中弾を浴びせてもまるで貫通しないのである。
北十字軍将兵も始めこそ混乱していたが、次第に状況を把握し、そして攻勢へと転じようとしていた。
統合軍は作戦の綻びを察知し、多くの損害が出る前に兵を退いた。
この行動は北十字軍に反撃の策を講じさせる時間を与えてしまったのである。
これが命取りであった。
その頃後方では阻止砲撃は依然として続いていたが、北十字軍の増援は多少の丘陵地を何とか越えてセロフの東西左右に展開しつつあった。
この報を受けレンテム将軍は側面の部隊のセロフ入りを以てセロフ攻略を再開すると決定。
セロフ北部にて集結している第2装甲師団の残存部隊に待機命令を出した。
彼は決して統合軍は積極的攻勢に出ないだろうと確信していた。
それを踏まえての待機命令である。
そして彼は次のような作戦を立案した。
まずM-1全車両を列の先頭に配置し、どのような障害が出現しようともそれを突破しセロフを駆け抜ける。
残る装甲戦闘車輌はM-1により誘き出された敵を速やかにかつ、可能な限り撃破。
増援と合流し次第、セロフ内の残存兵力を殲滅する。
この作戦を聞いた第2装甲師団の将兵は攻勢の準備を整え、作戦開始の時を待っていた。
彼らの士気は十分すぎるほどであった。
25日の深夜、日にちももう変わろうとしている時に作戦は開始された。
東西から現れた機械化歩兵達に統合軍はひどく混乱した。
それだけではない。
北より真っ直ぐに進んでくるM-1の軍団に統合軍は反撃すらままならなかった。
不用意に動けば撃破され、動かなくてもいずれ炙り出され撃破される。
後退しか統合軍に残された手は無かった。
始めの奇襲が失敗した時点で、この勝敗は決していたのである。
26日の午後、セロフは陥落し、北十字軍は確実に王都へと迫っていた。
補足:soon…