宣戦演説
統合戦争終結から四半世紀、人々は平和を謳歌していた。
統合暦25年 2月15日 正午前
浮かれている人々の目を覚まさせるかのように、ある一つの演説が放送された。
「──全世界のパンゲアの民へ。
私はクロイツ帝国宰相のモンタナ・ランド・クロイツである。
本日は重要な報告をすべく、申し訳無いが割り込みという形で放送させていただく。
まず初めにあなた達に尋ねたいことがある。
――戦争を覚えているか?25年前このパンゲアを襲った大戦争を。
――苦しみを覚えているか?25年前諸君等の味わったあの苦しみを。
――屈辱を覚えているか?25年前私達が味わった屈辱を!
我々が統合政府の門の元に下ってから早25年。
私はあの屈辱を忘れた日は無かった…。
都市は爆撃で廃墟となり、森や山は焦土となった。
無数の兵の命が散り、多くの民間人が死んでいった…。
どれだけ勇猛な兵士も、どれだけ精巧緻密な兵器も数の暴力の前にはガラクタ同然だった。
我々は負けた。完膚なきまでに叩きのめされた。
統合政府は反統合主義者を我が祖国、クロイツ帝国という牢獄に監禁した。
あなた達は信じているか?「オーパーツ」が指し示した未知を。
そして知っているか?その正体を。
統合政府はこれに備えるために諸君等の税から多くを軍拡に捻出している。
気になりはしないか?
未知というだけで何も判らないだろう。
そんな物のために諸君等の労働の結晶を大量に使われては堪ったものではないだろう。
だが判らないのは当然なのだ。
当の軍人でさえ知る者はほぼ居ない。
知っているのは統合政府や各国首脳陣のみ。
そして絶対に公にしてはならない。
だが、折角だから私が今ここで諸君等に伝えておこう。
統合政府がひた隠しにしている、
統合戦争の引き金となったその正体を。
それは――――――――――
(以降5分27秒間ノイズにより放送が妨害される)
···くまでも自分達を主導者として世界を統合するために。
さらに奴らはそれに反対する我々反統合主義者を迫害し、ついには世界戦争まで起きてしまった。
だが、今度は我々の番だ。
奴らが、世界が我々を脅かす存在だと見なすのなら、我々は世界を、奴らを脅かしてやる。
平和を謳い、怠惰の限りを尽くし、のうのうと眠りこけている連中を叩き起こしてやる。
我々の旗を、我々の軍喇叭の音を、我々の闘いを思い出させてやる!
あの地獄を思い出させてやる。
“空に輝くは純白の翼を抱く北十字。
その輝きは天と地を分かつもの。
変わらぬ永劫のもの。
前線遥か北方70マイル、クロイツの地未だ誰も踏まず。
我々は闘いに負けずして戦争に負けたり。”
あの戦争での戦場の勝者は我々だ。
あなた達に今一度問おう!
あなた達は戦争を覚えているか?
あなた達は平和を愛し、戦争を憎んでいるか?
私は闘いを、兵士達を、そして祖国を愛している。
パンゲアの民よ!
あなた達が平和を愛し、祖国を愛しているのなら、武器を手に取れ。
そして、闘おう。愛するもののために。
事はすぐに起こる。
平和を告げる鐘が戦争の始まりを告げる鐘となるのだ。
ビック・ベンの鐘が鳴る時、新たな混沌の始まりとなる!
――統合暦25年2月15日、
我々クロイツ帝国は統合政府及びその連合国に宣戦を布告する!
さぁ諸君、暗く激しい、終焉の時代の始まりだ!!」
正午を告げるビック・ベンの鐘がロンドンの街に鳴り響いた。
補足
:統合軍の軍備について
この世界の技術は「オーパーツ」の解析により大きく発展しました。現状の兵器開発の進捗度はこちらで言う20世紀中頃辺りです。しかし大推力エンジンや電子演算技術の開発は停滞しているため、戦略的ロケット兵器は実用化されていません。パンゲア自体非常に特異的な電磁波がよく観測されるので、電子機器が発展しづらいのも一因でしょう。それに高効率な燃料の精製技術も確立できていません。したがって今後は「オーパーツ」の解析を進めると同時に、取り合えず今の開発方針のままで軍拡を続けています。
:ビック・ベンについて
グレートブリテン王国の王都ロンドンにある、王宮兼ブリテン連邦議会議事堂の時計塔です。統合戦争後の講和会議や平和条約調印がここで行われました。毎日正午に鐘が鳴ります。
:“空に輝くは純白の翼を抱く北十字。
その輝きは天と地を分かつもの。
変わらぬ永劫のもの。
遥か北方70マイル、クロイツ地未だ誰も踏まず。
我々は闘いに敗北せずして戦争に敗北したり。”について
終戦直後のクロイツ帝国、時の皇帝ジュリア・ハバロフ・カイゼルクロイツ(戦後に崩御)が戦争終結直後の放送で行った終戦報告演説「新たな時代」の冒頭の言葉です。
“純白の翼を携えて我々の象徴、北十字は空に輝いている。
その輝きはこのクロイツとパンゲアを分けている。
これは未来永劫変わらない事実である。
統合国軍の前線は本土の遥か北方70マイルで終戦を迎え、 未だにクロイツの地に統合国の者は誰一人として踏み入れていない。
我々は戦場で敗北したのではなく戦争で敗北したのだ。”




