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秋葉の空  作者: 毒舌メイド
第二話 ベビーフェイス“正義”
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新たな指針、策士釘宮

さて、そんなわけで昼休み。今日からは釘宮も食事に参加する。母さんが作ってくれた三人分の弁当を片手に体育館裏へ向かうと、釘宮が首を傾げた。



「あれ、今日は屋上に行かないの?」



「ああ、学園の美少女たちを連れて歩いていると嫌でも目立つから、出入禁止の屋上はしばらく使えないんだよ」



「やだぁ、美少女なんて褒めてもチューしかしてあげないよ☆」

 


いらねぇよ。



「……私も屋上に行ってみたい」

 


今は無理だ。それにお前は一度、屋上に行ったことがあるだろう。一緒に飛び降りたことを忘れたとは言わせないぞ!



「周囲の注目が落ち着いたら、そのうち行けるよ」



「じゃあ、前みたいに屋上でママとイチャつくのはまだ先かぁ」

 


僕がいつお前とイチャついたよ?



「……むぅ」

 


どうして野々山が不機嫌になる?



乙女心ってマジで分からねぇ。さっきまで機嫌が良かったと思ったら次の瞬間には怒っていたりするし。女子の取り扱い説明書という本を出版したら、ミリオンセラーになるだろう。少なくとも僕は愛読書として毎日、肌身離さず持ち歩く自信があるね。



「っていうかさぁ、最近ママは何をしているの? 昨日、軽音部に行って一発芸を披露したらしいじゃん?」

 


弁当を食べていると、釘宮がそんなことを訊いてきた。



「ああ、野々山って学園でのイメージが最悪だろ? だからイメージアップを試みているんだ」



「……いめちぇん」

 


残念だけど、それとはちょっと違うな。っていうか、お前絶対にその言葉の意味を分かっていないだろ。まぁ、いきなりイメチェンされても困るんだけど。



明日からいきなり釘宮みたいなアグレッシブな女子に変貌されたら、学園が大騒ぎになってしまう。そういう意味では、一生理解してほしくない言葉でもあるよな。



「でも、どうしてママがそれを手伝うの?」



「こいつが不器用だからだよ」

 


軽く頭に手を乗せると、野々山は「……あぅ」と小さく呻く。自宅以外では孤独でいることが当たり前の環境で育ったこいつが、今さら誰かと普通に触れ合うなんて器用なことを出来るはずがないのだ。



「それは釘宮もよく知っているんじゃないのか? お前ら小学生から一緒なんだろ?」



「一緒って言っても同じクラスになったのは初めてだもん。ねぇ、野々山さん」



「……ん」



「野々山って昔からこんな感じだったの?」



「うーん、本人の前でそれを訊きますかぁ。幼い頃から他人を拒絶している印象はあったかなぁ。あたしが完全に拒絶されたのはつい最近だから、実はあまりよく知らないんだけどね。そう考えると、あたしらってほとんど接点がなかったんだね」



「……あぅ、ひどいことを言った」

 


自覚があるだけ成長したよ、お前は。



「いいよ、別に気にしてないし。それに野々山さんはライバルだからね」



「……らいばる」

 


いつから、何が理由で敵対しているのか分からない。こうして一緒にご飯を食べたり、共同生活をしているところを見ると、結構仲良く見えるんだけどな。



「ママは将来あたしがもらうから野々山さんにばかりべったりされるのはいただけませんなぁ」

 


勝手に決めるなよ。本人の意思を尊重しようぜ、お前ら。特に野々山。どれだけ僕が振り回されていると思っているんだ。



「…………めっ!」



「なんでさっ?!」



「……釘宮志穂は知らないだろうけど、私たちは挙式も済んでいるの」



「なあああぁにいいいぃ?!」

 


挙式ってもしかして僕の誕生日の悪夢のことでしょうか? 黒歴史なんだから掘り返すなよ。



「……証拠はこのみが持っている」

 


あの写メのことか。早いところ始末しねぇとな。



「ちょっとママ?! どういうことなのか詳しく説明してもらおうか! あたしというものがありながら……この泥棒猫ッ!」

 


昼ドラかよ! ふんぞり返って勝利の余韻に浸る野々山が恨めしい。おかげで僕は新たな修羅場を迎えてしまった。お前と出会ってから毎日一度は修羅場が訪れるから退屈しねぇよ、ちくしょう。



「落ち着け、釘宮。挙式じゃなくてケーキ入刀だ」



「具体的過ぎて凹むし……」

 


今にも泣きそうな顔で俯く釘宮を見て僕はさらに焦る。



「いや、野々山が泊まりに来た日が僕の誕生日で、このみが面白がって僕らにやらせただけだから。あのときはみんなが野々山のことを僕の彼女だと勘違いしていたから」

 


現在、その誤解が完全に解けたと言いきれないのが歯がゆい。そんな僕が自称未来の嫁という新たな美少女を家に招いたことを、姫島家の女性陣はどう解釈しているのか気になるところだ。



まさか、本当に愛人だと思われていないだろうか? 否定したいところだけど、妹に半裸の二人を目撃されてしまった以上、言い逃れは出来そうにない。マジで僕の印象は大暴落だよ。それなのに、野々山の印象を少しでも良くしようと日々努力を惜しまない僕を神様が救ってくれる日がくることを切に願う。神様なんて信じていないけどね。



「じゃあ、あたしがママの心を射止める余地はあるってことね!」

 


沈んでいた表情が晴れる。急に元気を取り戻した釘宮は調子に乗って「あーん」をしてきたけれど、丁重にお断りした。野々山の視線が痛かったし。



「あのさ、釘宮は本気で僕のことを好きなのか?」



「うん、好きだよ。むしろ愛してる。いつだって抱かれる覚悟は出来ているよ」

 


即答した上に何か余計な下ネタも混ざっていた。でも、ここまで素直に好きだと言われると照れるな。



「真面目に考えておくよ。今は気持ちだけありがたく貰っておく」



「あたし、本気だからね」



「……むぅ」

 


また野々山が不機嫌になる。分かってるって。今はお前のイメージ回復が最優先。それが片付くまで僕は恋に現を抜かしたりしないから安心しろよ。頭を撫でてやると、猫のように目を細めて野々山の機嫌は良くなった。



最近、こいつの扱いに慣れてきた気がする。野々山秋葉の取り扱い説明書でも出版してみるか。絶対に売れない自信があるが。



「あー、野々山さんばっかりズルイ! あたしも撫でて!」

 


仕方なく釘宮も撫でてやる。共同生活を送る上で、この二人を平等に扱わないとちょっとしたことで喧嘩するから。



「えへへ、ママの手は大きくてあったかいねぇ」

 


この幸せそうな顔をする釘宮は嫌いじゃない。こいつと本当に付き合うことになったらきっと毎日こうして頭を撫でることを要求されるんだろうけど、正直それも悪くないと思った。でも、僕と付き合うということは漏れなく野々山が付いてくるわけなんだけど、本当にそれでもいいのだろうか?



まぁ、どの道イメージアップにはしばらく時間がかかりそうだし、今から考えることではないか。



「それで野々山、昨日のモノマネは予想外に好評だったわけだが、もっと万人受けする特技とかないのか?」



「…………………………」



「黙るなよ! ないならないでいいからさ」



「……あぅ、没個性だ」

 


個性の塊であるお前がそれを言うか。お前が没個性なら、僕なんて物語に登場していないくらい個性ないぞ。



「イメージアップねぇ……そんなの簡単じゃん」



「え?」

 


僕が寝る間も惜しんで色々考えても良い案が浮かばないというのに、こいつはどうしてこんなにも自信満々な顔でそんなことを言えるのだろうか。



「そういう広範囲への影響を狙っているなら生徒会選挙に出ればいいじゃん」

 


完全に盲点だった。この作戦なら選挙活動をしながら野々山のことをみんなに知ってもらえて、当選しなかったとしてもイメージアップは期待できる。まさか釘宮にこんな決定的な助言をもらえるとは思っていなかった。



「それだ!」

 


生徒会選挙は試験終了から立候補を受付開始する。野々山が赤点を回避出来れば出馬は可能。



「……ん、やる」

 


野々山が珍しくやる気になっていた。



「……生徒会長に、私はなる!」

 


どこの麦わら海賊王だよ。別に会長にならなくてもいいから。イメージアップができれば十分な収穫なんだし。



「じゃあ、まずは試験で赤点をとらないことだな。もちろん、釘宮もだぞ」



「え、あたしも?!」



「当然だ。僕の家に泊まり込みで勉強をしているんだから、期待しているぞ」



「夜は期待してもいいよ」



「キモいぞ」



「……ん、キモい」



「野々山さんまでひどいッ!」



「やっぱりお前は今夜から部屋の隅で拘束させてもらうからな」

 


目的が明確になったところで、これからが本当の戦いだ。



というわけで、この寄り道だらけの物語はようやく最終章を迎えることになった。



それじゃ、ハッピーエンドに向かってもうひと頑張りしてやりますか。

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