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秋葉の空  作者: 毒舌メイド
プロローグ ポーカーフェイス“無表情”
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不真面目な優等生



春休みに髪の毛を染めた。



特に理由があったわけではなく、母に頼まれて薬局へ買い物に行ったときに、目当ての商品を探していると整髪料コーナーで髪染めを見つけ、並んだサンプルはどれも似たような色なのに種類がとても多いんだなぁと思ったら、本当にこの色になるのか試してみたくなった。



そんなどうでもいい理由で髪の毛を染めたことで、うちの母さんや妹はとても心配していたけれど、これはずっと優等生だった僕がしたことだから余計に心配させてしまったのだろう。



一回の染色では茶髪が限度という情報を携帯で調べた僕は、無難にナチュラルブラウンを選んだのだけど、まさか自分にここまで茶髪が似合わないとは思ってもいなかった。



慣れないことはするものじゃないよな、なんて思いながら鏡に映る自分の前髪を人差し指で弄び、もう少し明るい色なら似合うんじゃないか? と思いついた僕は再び薬局に走り、数ある染色の中でこれなら自分に合うのではないかと手にとった候補は三つ。



金髪、銀髪、明るめの茶髪。候補が多いときは消去法に限る。



まず、もうすぐ新学期が始まるというのに銀髪はないよな。いくら校則が緩いとはいえ校門で帰されそうだし。じゃあ、明るめの茶髪にするか? いや、これは放置した時間によって完成度が変わるわけだから、素人が下手に挑戦したらせっかく新しく買い直してきたのに、あまり明るくならなかったなんて目も当てられない悲劇を招くかもしれない。



というわけで、時間の加減さえすれば明るい茶髪にも染色できる金髪を選ぶことにしたわけなんだけど、前夜遅くまで起きていたせいでほとんど徹夜だった僕は染色の最中にうっかり眠ってしまい、起きたときには目も覚めるような超サイヤ人に生まれ変わっていたのだ。



さすがにこれはまずいと思い、黒染めを買って来ようか迷ったけれど、二度も薬局へ買い物に行った労力と、このあとの予算を鏡に映る自分と葛藤した結果、このまま黒染めして染色費を無駄にするくらいなら金髪として開き直ってしまえという考えに至った。



実はこの染色失敗談には続きがあり、僕が使い残した染髪料をこっそり使った妹が新学期から先生に茶髪を注意されるという兄妹揃って恥ずかしい染色エピソードとなった。



どうでもいい話はここまでにして、突然だけどカミングアウトします。



僕は嘘つきだ。



この物語は僕が語るという時点で嘘が多分に含まれている『騙り』であることを予めご理解いただきたい。



そして、この物語を語る上で、どうしても無視できない人物を先に紹介しておこう。



野々山秋葉は、高校二年生に進級した僕の隣の席に座る女子生徒だ。



とはいえ、僕が彼女のことを認識したのは始業式の日ではく、その四日後の何の変哲もない月曜日の昼休みだった。



これは隣の席の女子のことなんていちいち気にしない無頓着な性格というわけではなく始業式が木曜日だったので、三日出席して休みを挟んでわざわざ登校するのが面倒だった僕が春休みの期間を限界まで(春休みは有限なので限界を軽く四日は超えているが)満喫した結果だと釈明しておく。



つまり、僕はお世辞にも真面目な生徒ではないのだ。



入学してからの一年間で最低限の人間関係を築いた僕が、わざわざ二年生の初日というだけの理由で登校する必要性を感じるはずがない。



そもそも始業式なんてものはクラス替えがあり、進路調査表と新たな教材を配るだけの半日授業で、プリントは後日でも受け取れるし、翌日の授業は初日ということもあって進行は緩い。



そう考えたらわざわざ登校しようとは思わないだろう?



真面目な奴ほど馬鹿をみる時代なのだから不真面目な僕は賢くこの三日間を欠席したわけだ。



この空白の三日間でもう二度と手に入れられないような友人ならば、今後の人生においてそいつはそれほど価値はないという偏見に塗れた考えを持つ薄情な僕だからできたことなのだと胸を張って宣言しよう。自慢にもならないけどね。



とはいえ、家でも学園でも真面目な優等生で通っている僕が自宅でサボるわけにはいかないので、遊び歩いていたことを家族はもちろん知らないし、途中で他校の不良に絡まれて(失敗した金髪のせいで)負った喧嘩の傷だって階段で足を滑らせたと言ったら素直に信じてくれた。



日頃の行い(表向き、上っ面とも言う)が良いので誰も僕を疑おうとしない。



学園には登校中に交通事故に遭ったと連絡を入れたので、喧嘩でわざと派手に殴られて怪我をしたのも計算の内だったりする。今、頭に巻いている包帯の下だって本当は無傷で実際に怪我をしているのは右の頬とバットで殴られた左腕だけ。その左腕も三角巾で吊ることで大袈裟に見せている。まぁ、おかげで不良たちを返り討ちした僕はその臨時収入で延長した休日を思いきり満喫できたわけだ。



今朝、学園に登校して職員室に挨拶に向かったら、担任の篠山楓に怪我の程度を本気で心配されたくらい優等生の仮面は健在だ。新しいクラスメイトもみんな僕を心配して休んだ日の分のノートを写させてくれた。まぁ、金髪に染めたことにはみんな驚いていたけどね。



人間関係なんてチョロいもんだ。



すべてが思い通り。



……だから、僕の人生はこんなにも退屈なんだ。

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