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秋葉の空  作者: 毒舌メイド
第二話 ベビーフェイス“正義”
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天才の片鱗



午後の授業が始まり、まずは成績改善を目標にした僕らは来週に行われる実力試験でイメージ回復を目指すことにした。試験といっても問題内容は一年生で習ったことのおさらいで、一年生レベルの問題をどこまで理解しているのかを確認するものである。だから、実力試験という名称で呼ばれているわけだけど、一年生の問題の集大成だと考えればそこまで気負うことはないだろう。だって一度、習っているわけだし。



成績改善のためにしっかり勉強すると僕に誓った野々山はすぐ隣で黒板の内容を必死に書き写している。その無表情からどことなく本気が伝わってくるのはとても嬉しい。



でもな、野々山。今お前が必死に書き写している部分は次の試験には出ないぞ。と、教えたらきっとやる気を失くすだろうからあえて言わないでおこう。普段からこれくらい真面目にノートをとっていればこんなに焦ることもないのに、要領の悪い奴だ。



話し合いの結果、今日から六日間こいつに家庭教師をしてやらないといけないので、しばらくは帰宅が遅くなることを家族に伝えておかなくては。



タイムリミットは六日しかないのだ。



たったの六日間で一年生の一年間をおさらいしなくてはいけない。これは地味に骨が折れそうだぜ。



五限目と六限目の間の短い休み時間で先程の授業内容の理解度を確かめるために野々山のノートを見せてもらって、僕は絶句することになる。



お前のノートは釘宮の教科書かよ。



昨日、野々山家で夕飯をご馳走になったときに聞いたのだけど、野々山は小学生の頃に習字を習っていたらしく、字はとても綺麗で読みやすい。そのはずなのに、このノートはとても見られたものではないのだ。



まず色がない。明らかに勉強しない奴が書く斬新なモノクロページがそこにあった。



「お前、色ペンとか持ってないのかよ」

 


落胆しながら言うと、野々山は少しムキになったように頬を膨らませる。



「……じゃあ政宗のノートはどうなの?」



「見せてやるよ」

 


僕が先程の授業で使っていたノートを見せてやると、野々山は不敵に失笑してみせる。



「……ふっ、女の子のノートじゃないんだから」

 


これだからガリ勉くんは。とでも言いたそうな上から目線に腹が立つ。つーか、お前のノートこそ女の子のノートとはかけ離れているだろう。お前、自分が女子高生だっていう自覚はないのかよ。



いろいろツッコミたいところはあるけど、今は置いておこう。それよりも、見逃せないものがこのノートにはあるのだから。



「それで野々山、これは何だ?」



「…………うきゅぅ」

 


ノートの余白部分に所狭しと描かれた落書きを指摘すると、野々山は可愛らしい声で鳴きながら顔を紅潮させて俯いた。ノートを見せるのを渋っていた理由はこれか。



お前、初めて出会ったときの面影がまるでないぞ。頼むよ、みんなの中にある学園一のクールビューティーという印象を崩さないでくれ。そもそも、屋上で話したときは知的で饒舌な印象を受けたのに、今ではただの舌足らずな我が儘お姫さまという破壊ぶりだ。



昨日、校門を出た辺りから妙に幼く見えていたけれど、このページになるまで黙って見て見ぬふりをしてきた僕の優しさに少しは報いてくれよ。もうさすがにフォローしきれねぇぞ。



読者のみんなも違和感を覚えながらここまで読んでくれているんだから、登場人物としての責任は果たせよ。まぁ、少なくともツッコミしか能がない僕みたいな影の薄い奴よりはよっぽど個性的で羨ましいんだけどさ。だって「……ん」って言うだけで誰なのか理解してもらえるくらいキャラが濃いんだぜ、お前。



いいよなぁ、僕も何か自分だけの魅力とか個性がほしいよ。幻○殺しとか、飛天○剣流とか、ふんふ○ディフェンスとかさぁ。だってこれでも一応、主人公だし。僕が持っているとしたらATフィールド(他人を拒絶しているから)みたいな地味な能力じゃん?



どうせATフィールドで拒絶するなら「私は拒絶する!」とか言ってみたら個性も芽生えるだろうか? いや、パクリは良くないよな。え、そもそもお前は語り部なだけで主人公じゃない? そんなバカなッ?!



ひとつ真実を明かしたところで閑話休題。



ここからは野々山秋葉の落書きについて徹底的に語ろうか。



「……いや、やめて! ……落書きについてはこれ以上語らないで!」



「珍しく『!』が多いじゃないか。何を動揺しているんだ? それよりお前って絵も上手いんだな。意外だったよ。さらに羨ましい。つーか、その才能が妬ましいわ」

 


特にこのハガ○ン兄弟はマジで本物かと思ったよ。でも、兄弟に錬金術で攻撃を受けているこの冴えない男の子は誰なんだろう?



背中に『まさむね』って書いてあるんだけど、まさかなぁ。その隣のページにはフ○ーザ様に尻尾で拘束されて背中を殴られる男の子が描かれている。鳥山明先生のファンなら誰もが知っている名シーンだよな。あのときベ○ータが流した悔し涙には多くの男子がもらい泣きしたことだろう。かくいう僕も泣いた男子のひとりだ。



でもおかしいな? この落書きの男の子はベ○ータじゃないよな? 隣のページでハガ○ン兄弟に挟み撃ちに遭っている健気な『まさむねくん』によく似ているように見えるけど、気のせいだと思いたい。



その他にも紳士的な赤ん坊に死ぬ気弾を撃たれて脱皮する『まさむねくん』や、親子か○はめ波(これはマジで原作そっくりなのでこの後お願いしてコピーさせてもらって部屋に飾ろう)を受けて原形を留めていない『それ』にも矢印で『まさむね』と注意書きされている。他にもたくさんの『まさむねくん』があの手この手で被害に遭っているのだが、彼の名誉のためにこれ以上は秘匿させてもらう。



お前『まさむねくん』にどんな恨みがあるんだよ? っていうか、少年漫画読みすぎだろ。ひとつだけこれだけは無視できないから追記させてもらうけど『まさむねくん』では鬼の背中になったオーガには敵わねぇよ。っていうか、人類にはまず無理だろ。



真剣に授業を受けていると感心していたのに、お前が必死になっていたのはこっちの方だったのかと落胆する。



「それで、何か言うことはないのか?」



「……我ながら力作かと」

 


うるせぇよ『まさむねくん』に謝れ!



腹の底から溜息が漏れる。幸先不安になってきたぞ。

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