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秋葉の空  作者: 毒舌メイド
第二話 ベビーフェイス“正義”
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ホームルームクラッシャー楓



本日、火曜日。天気は晴天なり。



昨日の夜に通った角を三回曲がり、見えてきた校門の周りは登校してきた生徒たちで賑わっている。そういえば女子と二人きりで登校するのは初体験だなと振り返ると、相変わらず袖を抓んだ野々山が小さく首を傾げた。



美少女と登校。実にロマンチックだと言いたいところだけど、なんだかなぁ。



恋人というよりもペットの散歩という比喩の方がぴったり合いそうなのは何故だろう。野々山って小動物っぽいところがあるからかな?



そんなわけで、学園では優秀で意外にファンが多い(この信憑性に欠ける噂は釘宮に教えてもらった)僕が、同学園で一番嫌われ者であり、一番美少女の野々山を連れて闊歩する道は嫌でも注目を集めてしまう。



無視されることには慣れていても、注目されることに慣れていない野々山は僕の後ろに隠れてしまう。



「何見てんだよ」

 


僕の棘のある一言で一時的に注目は霧散する。不良っぽいとか思われてしまっただろうか?

 


でも、そんなことは僕の知ったことじゃない。事実、見た目は金髪なので不良と言われると否定はできない。以前の僕ならこうして周囲に牙を剥くような真似は逆立ちしても出来なかっただろう。



友達だからかな。



野々山と友達になったことは僕の人生に大きな影響を及ぼしていた。少なくとも自分の生き方を変えるほどに。



可憐さんに「秋葉をよろしくね」と言われたこともあるし、しばらくは敵が多い毎日を送ることになるだろうけど、いつかは慣れるだろう。人の噂も七十五日って言うし。



優等生から不良へ。



我ながら思い切った人生選択だと思う。



遠巻きに僕らを一目見ようとやってくる野次馬を視線で威圧しながら昇降口まで辿り着く。きっと一時間後には僕らの噂が学園中に広がっていることだろう。



「あんまり気にするな」

 


後ろで小さくなっている頭に手を乗せてやると、いつもの「……ん」が返ってきた。



僕らが進む道は自然に拓ける。誰にも近づかれないというのはこんな気分なのか。野々山はこんな辛い気持ちを抱えて毎日登校していたのかと思うと、少しだけ胸が痛んだ。



たくさんの野次馬にお披露目をして、ようやく辿り着いた教室は既に噂が流れた後のようで扉を開けた瞬間、妙な沈黙の後にどよめきが波のように広がっていく。



その中で同じように目を丸くしている釘宮を見つけた。いつもなら鬱陶しいくらいに絡んでくる釘宮も、今回ばかりは空気を読んだのか声をかけようか躊躇うように視線を泳がせている。



そうだよな、お前はそっち側にいる方がいいよ。僕みたいなろくでなしにも分け隔てなく接してくれるお人好しのお前は、仲間に囲まれて笑顔で過ごす方がお似合いだ。



袖を抓む力が少し増したのを感じた僕は、こちらに注目する敵地のど真ん中に足を踏み入れる。ぴったりと後ろについてくる頼りない足音は野々山だろう。でも、今はその頼りなさが僕に勇気を与えてくれた。



椅子を引いて堂々と席につく。野々山もすぐ隣の自分の席についたけれど、僕の袖から手を放すことはない。



いや、放しましょうよ。妙な誤解されるからさ。



案の定、周囲からひそひそと声が漏れる。



「え、これってどういうこと?」



「あの二人付き合ってるの?」



「いつから?」



「でも昨日の昼休みに教室の前で抱き合っていたよね」

 


あ、それ事故ですから。



「私も見た! やっぱり二人はデキていたんだね」



「いやーん。私、姫島くんのこと狙っていたのになぁ」

 


今、最後に発言した女子に是非、挙手を願いたい。



「ちくしょう政宗の奴、いつの間に女をたらしこむようになりやがった……しかも相手はあの難攻不落の野々山秋葉かよ」



「姫島、これから帰り道には気を付けるんだな……背後に」



「野々山秋葉は俺の嫁、俺の嫁、俺の嫁、俺の嫁、俺の嫁……」

 


今の雑音は聞かなかったことにしよう。背筋が凍るような殺意が伝わってきた。



それを遮るように予鈴が鳴り、少し遅れてやってきた担任の篠山楓の声によって生徒たちは落ち着きを取り戻す。いつもと変わらない(というか僕にとっては昨日から始まった新学期なんだけど)ホームルームが始まる。



唯一、日常と違うのは生徒たちの緊張した空気と、僕の袖をいつまでも放そうとしない野々山がいるくらいだ。



っていうか、いい加減放せよ。



「あら、姫島くんと野々山さんは仲良しになったのね。担任としてはとても嬉しいけど、そこまで見せつけられちゃうと、ちょっと嫉妬しちゃうぞ☆」

 


生徒たちの緊張した空気を読んだのか、場を和ませようと発言したみたいだけど、穏やかな声とは裏腹に目が笑っていない二十九歳独身がそこにいた。



「……ちっ」

 


舌打ちで返事をした野々山が袖を放すことはない。もしかして今日一日これで過ごさなきゃいけないのか? 便所とかどうすればいいんだよ。



「えーと、これは先週の合コンでも男を釣れなかった先生に対する嫌がらせなのかな? そうよねー、あなたたちみたいな何もしなくても肌に張りと艶があるティーンズ世代と違って、私は毎朝毎晩の集中保湿がなければ枯れてしまうような通夜通夜砂漠肌ですもの、あはは。おかしいわよねー。アラサーって括られるのが嫌で二十九歳という短い一年に縋りついている私はあなたたちから見たらさぞ滑稽に見えるわよね。でも、あなたたちだってあと十年もしたらアラサーって呼ばれることの辛さが分かるようになるのよ! まだ二十九歳なのに、三十代扱いされる辛さを思い知る日が必ず来るのよ!」

 


完全に情緒不安定だ。被害妄想でしかないはずなのに、僕たちティーンズ世代は朝から理不尽な説教を受けていた。



「なーんちゃって☆ あ、そうそう。今朝、近所で火事があったみたいだけど、この時期は気が緩みがちになるから、みんなの家でも火の取り扱いにはくれぐれも注意してね」

 


何が「なんちゃって☆」だよ。全然誤魔化せてないからね。



ちなみに僕はその現場にいました。こいつが犯人です。



結局、終始僕の袖から手が放れることなく朝のホームルームが終了した。っていうか、短いホームルームの内容のほとんどが担任の被害妄想による罪なき僕らへの糾弾マシンガントークで潰されてしまい、本当に伝えるべき話題がおざなりになっていたのは如何なものかと思います。



さすがに授業中はノートをとらないといけないので、野々山の右手は離れていたけど、休み時間が訪れる度に磁石のように吸いついてきたことは言うまでもないだろう。



そして授業中、釘宮が何度もこちらを振り向いては目が合うとすぐに顔を逸らしてしまうのがもどかしかった。



絡んできたうちは鬱陶しいと思っていたけれど、ここまで露骨に避けられるとさすがに辛いものがあるな。

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