美猴王自稱為斉天大聖 -猿は己を斉天大聖と呼ぶ-
ソーンの過去が語られる……
そして、ベンジャミンのネタ色が濃くなってゆく……
その昔、仙人に憧れて修行をつんだ神童があった。
少年はあまりに才覚に恵まれていたために、あっという間に師をも追い越して、天帝の庭の仲間入りを果した。
そこで少年は自ら「斉天大聖」と名乗り、ありとあらゆるわがままを尽くして、大いに天を混乱におとしめた。
罪人として天を追放されはしたが、天帝のはからいによって、仙籍だけは消えることがなかった。
ひとの噂では「大地の精霊の化身」といわれたこの少年は、花果山は水簾洞をねじろにして、地上のあらゆる国を攻め、あらゆる王たちを跪かせ、浮浪児たちの王国を築き上げたという。
その地で王を名乗っていたのだが、天は悪逆非道に手を染めた少年を赦しはしなかった。
やがて天軍が押し寄せ、水簾洞の浮浪児たちをひとり残らず殺してしまうと、少年は怒り狂って天の軍に盲進した。少年は顕聖二郎真君によって捕えられ、ついに仙籍を奪われた。
しかし、時すでに遅く、少年は怒りのあまり大地の精を吸い上げて、妖魔と化してしまっていた。
火焔山の洞のひとつに、孩児聖嬰大王洞はあった。
「やつは、美猴王だったのよ!」
洞の奥で肘置きにもたれかかりながら、ルージュは不快極まりないといった表情で、尻尾を大きく振っていた。
「ま~ でも、どーして妖怪が人間の味方なんかしてるんでしょ~ねぇ? もしかして、あいつも三蔵法師を狙って……」
横座りで首をかしげるシルバの言葉に、ルージュが毛を逆立ててうなった。
「三蔵法師は俺のもの! にゃんとしても手に入れる!」
そばに控えていたゴールが兄の裾を引っ張った。
「ところで、びこーおーって誰?」
「そういや、アンタはまだ生まれてなかったわねぇ~……」
シルバは懐から鏡を取り出して、弟に見せた。
「ほーら、これが美猴王。天からこの世に下ってきて、何万もの妖怪や人間を苦しめ、時には残虐に殺したという大悪党よ」
過去を映し出す鏡を覗き込みながら、ゴールは呟く。
「ふーん、つまり僕らのヒーローってわけ」
すべての話を聞き終えたとき、ジョーゲンの数珠を握る手はかたかたと震えていた。
「悪逆非道の限りを尽くした美猴王……それが、俺の過去だ」
嫌われても、恐れられてもいい。ソーンは跪いた。
「この旅が無事に終わるまででいいんだ。どうかその間、俺に、あんたを守らせてくれないだろうか」
低く頭を垂れたソーンの前に、ジョーゲンが立つ。
「ソーン、そのまま、動いてはなりませんよ」
ジョーゲンは釈丈でソーンの肩を一回ずつ叩き、経を唱えた。それから同じように跪き、ソーンの顔を上げさせた。
「あなたのしたことは、今あなたがしていることで、贖われています。
あなたは報いを受けている。そして、罪に向き合い、償おうとしている。あなたは、美猴王という名を『過去』と呼びました。あなたはもう、ソーン以外の何者でもないのです」
マメだらけの手が、そっとソーンの頬を包んだ。
「ともに天竺へ赴こうと約束したとき、私はあなたの罪を赦したのですよ、ソーン」
ソーンは苦笑した。
「……こんな俺でも、いいのか」
「ええ」
ジョーゲンはゆっくりと頷く。
「あなただから、良いのです」
ソーンとジョーゲンとの周りを、その他が入り込めない美しく眩い光が包み込んでいるので、白竜とベンジャミンはヘヤノスミスに追い遣られていた。
「これだけ公然と告っといて何で気づかねーんだこの女は」
「クサイ台詞をこうも流しそうめんのわんこ蕎麦なみに吐きつづけられるなんて二日酔いの窓際係長よりも上手ですよ新宿の地下クラブにいる同じような髪型の男たちの弟子ですかねそれにしても少女漫画並みのメロドラマをこうも見せつけられていると純粋に胃がもたれてきますねもはやリア充ですらないです」
「ところで、ヘヤノスミスって何だよ」
「あなたは我々の聖典『魂喰う者』を知らないんですか」
そうして夜は明けていった。