命は大事にしましょう
急展開です。
この世界には、精霊や魔法というものが存在する。それは一部の精霊を除き、基本的には見えないものだ。
しかし、精霊や魔力によって生を繋げた人間には時折、それが見えるようになる。
現に私がそれだった。
一度自殺を図った私は、時折視界の端に変うかった物を捉えていた。
最初はただ幻覚が見えているだけで、なんの疑うこともなかった。
しかし、ある時父が魔法を使っているのを見て、気付いたのである。それが魔法を元にする、魔力の根源だと。
この世界で魔法を使うことができる人間は多くもなければ少なくもなかった。
魔法を使うためには、人間に備わっている魔力を使う。それを外に送り出す、回路が必要だった。
その回路が存在しない人間は魔法を使うことができない。また、逆も然りで、回路はあっても魔力がなければ魔法など使えないのだ。
ただ、後半の人間には一つだけ魔法を使う方法があった。それは、内側の魔力を使うことはなく、外側の魔力の力を借りることである。
しかし、外側の力を借りるには、それらを見ることができなければならない。そもそも、基本的に見える人が少ないのだ。
世界の力を借りて魔法を使う者などあまりいない。
世界の力を借りるには、見えない物が多すぎる。
さて、ここまで言わせていただいたが、私は魔法を使うことができない人間であった。
そして、今回とうとう私にもツキが回ってきたようである。なんと、私は魔力が存在しないけど、回路が備わっている人間だったのだ!
もし、この世界の力を借りて、魔法を使えば、彼を助けられるかもしれない。
しかし、少々それには問題があった。
幼い頃から魔法を使えなかった私は魔法の使い方など知らないのだ。
「ぎゃあああああああ!! どうなっているのよぉおお!!」
ハルに連れられて来たのはヘルヴィンの洞窟。
しかし、どうもヘルヴィンの洞窟は穏やかではなかった。
どんどんと先へ進むハルを追いかけて、突き進んだ先にあったのは見た目が完璧に蛇である生き物。黄色の皮には緑のまだら模様が浮かんでいる。首は無数にも存在し、その赤黒く光る瞳がこちらを見ていた。
こんな大きな蛇はたとえ、ファンタジーな世界であったとしても見るのは少ないだろう。
そんな蛇は私たちを見つけた途端に襲いかかってきた。ドレスを着た私は、避けることもままならなく、ハルにまたも助けられる。
「なんなんだ、こいつらは!」
叫ぶように怒鳴るハルは蛇からの攻撃を避けるために、岩へと飛び移る。
私との距離は遠くなり、蛇はハルへと意識を集中させた。
「ハルはいつも来ているんじゃないの!?」
うねうねと首を動かして、蛇はハルに食らいつくように、口を開き、噛み付く。しかし、さすが王子様だ。簡単に蛇を避け、足場を移す。
「今まではいなかった! もしいたら、来るはずがないだろう!」
「はーー? じゃあ、なんで突然蛇が現れるの……よ……」
そこで思い出したのは、ゲームの公式ガイドブックを読んでいる光景だった。
巨大な蛇が突然現れる、なんて現象は、ゲームの中でも、ある一定の条件を満たせばある。
毎度、蛇っていうことではないが、巨大な生物ならば、きっと間違いないはずだ。
身体の芯が震えた気がした。だけど、高鳴る鼓動が、生を実感させて、足を動かした。
「ヒドラがここにいるってことは……ミシャンドラの宮殿?」
ミシャンドラの宮殿とは、ハルが呪いを受ける原因となったものだ。
ミシャンドラは悪魔ーー後にハルが宮殿を超えて、魔王の力を手にするきっかけとなるものだ。
ハルは、ここで魔王の力の片鱗を手にするのだ。
「おい、ミシャンドラの宮殿ってなんだ!?」
魔法を使用しながらこちらにも聞こえるように叫ぶ。
だけど、私は返事をすることは後にして、スカートの裾を引きちぎった。
「今そっちに行くから、魔法を使わないで待ってて!!」
ヒールがついた靴を脱ぎ捨てて、裸足で駆け出す。岩は冷たく、少し尖っていたが、足を怪我することはなかった。
「おい! こっち来るんじゃねぇって言っただろうが! あぶねぇんだよ!」
ハルの元までたどり着くと、第一声が拒絶の言葉で思わず殴りたくなる。しかし、私に言われた通り魔法を使わずに蛇の攻撃を避けてくれたようだ。だが、先ほどよりも少々大きくなっている。
「で、一体何なんだよ」
蛇の攻撃を避けて、死角へと回る。すぐさま攻撃をしようとするハルを引っ張り岩陰へと隠れた。
ハルはどうもそれがお気に召さなかったようで、ずいぶんと不機嫌な声を漏らしている。
「あれはヒドラよ。魔法を使うたびにその魔力を食べられるから、攻撃したって意味ないの」
記憶が正しければの話だが。
これはあえて言うのをやめといた。
「なんでこんな化け物がここにいるんだ。今まではいなかったぞ」
「……多分、誰かがここへ穴を開けたの」
「穴……?」
これ以上はわからないわ、と首を振り、蛇はの方へと視線を向ける。
蛇は舌をちろちろと出して、獲物を探している。見つかるのも時間の問題だろう。さて、どうしたことか。
ミシャンドラの宮殿に迷い込んでしまえば、戻ることは不可能に近い。
先へと進まなきゃいけないのだ。
「ハル、あの蛇に気付かれずに先へ進むよ」
一歩間違えれば死と言うことに気付いてしまい、身体が震える。
それに気付いたのかとハルは私の手を取り、ぎゅっと握り、こちらに笑みを向けた。
「なんかあったときはついでだ、守ってやるよ」
照れ臭そうに笑うハルに、自分の弱さを突きつけられた気がした。
守りたいとか思いながら、守ってもらうなんて、なんて情けないのだ。
ぎゅっと手を握り返して、これからの作戦を少々考えることにした。
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