気をつけろ。
天城爽には気をつけろ。
そう言われたのは、高校に入学してすぐの事だった。
天城爽という人物は愛される人間だ。
それは可愛らしいという意味ではなく、優しく人当たりの良い彼はその社交性と控えめな行動の中に隠された気の利いた働きによって、尊敬や感謝、信頼を獲得していった。
その一つ一つはほんの些細なことであったし、誰も気に留めないような内容でしかなかった。だが、相手にとってそれがどれほどの価値観であるかによってその重要性は大きく変わってしまうのだ。
天城爽はそれをよく理解し、どうにもならないと判断する一歩手前で、アドバイスなり手助けをする。そんな人間だったのだ。
それが計算なのか、無意識なのかそれは誰にもわからないけれど、それでも助けられた人物にとっては天城爽は神様のような人物だった。
天城爽と居れば大丈夫。
そんな安心感と、その存在ありきの人生観。
紛れもなく関係を持った彼らは例外なく天城爽に依存していた。
そしてそこで思い出すのだ、
天城爽には気をつけろ。
彼と関わったが最後、彼に依存した生活をしてしまうと。