愚かな人形師
前回の「傀儡」を読まないとわからないかもしれないです。
変わらず、暗い話です。
ご了承ください。
これは彼女のためだ。
彼女を護るためにやっていることだ。
なのに、どうして、こんなことになってしまったんだ。
愛する彼女はもういない。
彼女を護るための家ももうない。
かつて愛した彼女たちもいなくなってしまった。
逃げないように、誰とも会わないようにしていた。だから、彼女は誰にも会ってはいないはず。
彼女を奪おうとした奴らはみんな排除した。
彼女に害成すものは何一つなかったはずだ。
それなのに彼女はいない。
それは、彼女が自分自身で出ていき、家をコワシタということ。
護るための盾を自ら壊したということ。
どうして、どうしてどうしてドウシテ。
俺は彼女を護りたかっただけだ。
俺は彼女を深く愛していただけだ。
それに彼女も答えていたはず。
なのに、どうして彼女はいなくなった。
確かに俺は彼女を殴ったり、蹴ったり、罵声を浴びせたりしたこともある。
でもそれは愛情の証明で。
事実、彼女は抵抗も反論もしなかった。
俺たちは愛し合っていたはずだった。
なのに、俺が出かけて帰ってきたらすべてが壊されていた。
毎日、愛の言葉をささやき、毎日、愛の行動を示していた。
その大事な場所が壊されてしまった。
彼女がコワシタのか、別の誰かが壊したのか。
ああ。そうか。そういうことか。
誰かが彼女を奪ったんだ。
彼女だけじゃない。
かつて愛した彼女たちも奪われたんだ。
なるほど。合点がいった。
ああ。気が狂いそうだ。
彼女を奪った奴が許せない。
必ず見つけ出して、彼女を救い出してやる。
彼女を奪った奴は☓してやる。
悲惨な☓に方で☓してやる。
きっと彼女は、俺の助けを待っている。
それを考えたら、どうしても口角が上がってしまった。
愛する彼女のため、自分を愛する彼女のため。
「どんな手を使ってでも助けてみせる。」
頭の中で助け出すプランも何通りも考える。
『誰を?』
背後から愛する彼女の声がする。
振り返ってみれば、赤いランプがたくさん灯っていた。
その赤いランプの中心で彼女がとても美しく笑っている。
ああ。赤い光に照らされてとても美しい……。
『誰を助けるの?』
もう助ける必要はない。
彼女はそこにいるんだから。
彼女に向けて手を伸ばす。
だが、その手は彼女に届かず、別の人物に掴まれた。
彼女を囲むように立つ紺の制服に身を包んだ者たちの一人だった。
ただ、驚いたように目を見開いていると、俺の手に手錠がつながれる。
『もう、お終いよ』
彼女はそう言って、背を向けて歩いていく。
どんなに名前を呼んでも、どんなに叫んでも彼女は振り向きもしなかった。
もう、彼女は俺を愛していない。
もう、彼女は俺のものじゃない。
なら……いらない。
彼女に向かって走る。
懐から包丁を取り出しながら走る。
だが、すぐにその勢いは殺された。
制服の男たちに取り押さえられる。
彼女はもう見えない。
私を檻に閉じ込めていた人形師は檻に入れられた。
もう、私を縛るものはない。
私に繋がれた糸はない。
すべてを断ち切った今、傀儡はやっと人間になれた。