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掌編集(二千字お題もの)

俺と先輩のロジカルシンキング

作者: 汁茶

作中の論理パズルはインチキです。まともな問題ではありませんので、解けません。



 うだるような暑さが続くある夏の日の午後。写真部の部室に俺と先輩は二人っきり。

 汗で濡れた白いブラウスが先輩の肌にはりつき、透けて見えた白いブラジャーに俺は誘われるように口を開く。

「ブラとお揃いですか?」

 額を汗が伝うのは暑いからだけではないだろう。全身がこわばる。

「はい」

 俺の心を見透かしたように先輩は妖しく微笑んだ。




 期末試験の結果は散々で、特に数学は赤点で追試を受けるハメになってしまった。

 そのことを先輩に話すと「キミは論理的な思考を養うべきだ」と言われた。

 俺には物事に正直に反応し、直感で答えるところがあるそうだ。けど写真に論理など必要ないだろう。

『必要なのはなぜそこでそれを撮るのかという論理的な思考だ』先輩が常々言っている言葉。数学は論理だとも。

 で、先輩に数学を教えてもらうことになったのだが……ダメだった。

 数字と記号のかたまりの前に三分と持たなかった。

 見かねたように先輩は言った。

「私が今はいているパンツを当ててみなさい」





 俺は健全な男子高校生。健全な男子高校生は先輩のような美少女がはいているパンツに興味がある。つまり俺に数学への興味を持たせるにはパンツ当て問題がよい。

 それが先輩の論理的推論らしい。

 筋道立った論旨に俺は反論できなかった。正直な自分がうらめしい。

 先輩が出したルールは『パンツ全体の半分以上を占める色を当てる』『質問は三回まで』『先輩は「はい」か「いいえ」でのみ答える』『必ず嘘の答えを言う』だった。

 正解すればそのパンツを今ここで脱いで俺にくれるという。俺に解けないのを見こしているのだろうか。何か口惜しい。

 不正解ならば自分で自分のパンツをかぶった写真を先輩に渡すという約束。何に使う気なのか。なお、撮るのは俺自身だ。


 で、一回目の質問「ブラとお揃いである」には「はい」つまり白ではない。

 ……あれ? 違う? 「ブラとお揃いではない」であって白ではないとは言ってないぞ? つい衝動で訊いたが、もっといい質問があったのでは?

 微笑んだままだが先輩は瞳の奥で馬鹿にしているような気がする。勘だが。

 問題になっているのは色だ。しまパンだったらブラとお揃いではなくても白を使っているかもしれない。考えてると頭の中がぐちゃぐちゃしてきた。

「集合は質問をX、Yとし答えを0と1に分け真偽表を組み立てるんだ」

 先輩、それは混乱の魔法か何かですか?

 いい質問を……いい質問を考えねば……。

「XとYを縦に並べてWを上につけたら卑猥な気がしませんか?」

 何言ってんだ、俺ーっ!

 この質問にはさすがの先輩も面食らったようだったが、すぐに表情を戻し、

「いいえ」

 と答えた。

 質問を二つ使い切った。慎重に行かねば。

 だが、待てよ? この問題、俺に勝ち目はあるのだろうか? これは勘だが絶対に解けないのではないだろうか? 先輩は俺をからかっているだけでは?

 ならば質問にこだわる必要など無い。試合に負けても勝負に勝つには――ある方法が閃めく。

「先輩は処女ですか?」

 またもキョトンとした先輩の顔が羞恥なのか怒りなのかみるみるうちに赤くなる。パンツ問題を出したわりにはウブな反応だが、これで確信した。この試合には勝てない。

「もっとマシな質問をすると思ってたんだけど。いいえ」

 先輩は処女。心の中でガッツポーズ。

「三つの質問は終わったけど何色だと思うの?」

「うーん青」

「残念、ハズレ」

 俺にはがっかりした。そう言いたそうだ。席を立とうとする。

 だが、まだだ。

「証明、してください」

 先輩の動きが止まる。

「先輩の証言だけでは真偽は分かりません。確かめるためには先輩のパンツを見る必要があります」

 先輩の表情が固まり、場に緊張がはしる。ややあって先輩は弾けるように笑った。

「よく気がついたね。私の言葉だけでは証明にならない。その通りだよ」

 先輩はそう言ってスカートを手にかける。俺の心臓は高鳴り、ゆっくりとたくし上げるのに見とれていた。カメラに手を伸ばすのも忘れるほどに。

 姿を見せたのは紺色のスパッツ。


 ……


 スパッツだとぉ!?

「私はパンツをはいてない」

 勝ち誇ったような笑み。

 蒸れないんですか、夏ですよ? 違う、そうじゃない。俺が言うべきことは、

「それも本当かどうか確かめる必要がありますよね」

 飢えた獣のようにスパッツを睨んだ。

「残念。無色というのが答えで、はいているかいないかを証明する義務は無い。四回目の質問は無い」

 スカートを下ろして先輩は答えた。

「ま、いいところに気づいたからキミのパンツ写真は勘弁してあげよう」

 そう言って俺の肩をたたき、

「これに懲りたら論理的思考を養うといい。それじゃ追試頑張って」

 呆然とした俺を置いて先輩は帰っていった。





 後から考えるとはいていないというのも嘘だったのだろう。

 けれど先輩を見返すために俺は猛勉強した。

 そして迎えた追試当日、俺は答案を白紙で出した。

 再び先輩の補修を受けるために。



 ――次こそ脱がす。


 それが俺が導き出した論理的結論だから。

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