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その風はさくら色に香り

作者: 翁納 葵

やわらかな、やさしい風はその音から吹いてきました。まだ空気の冷たい、梅の花も開かぬ早春に。


夏目友人帳 参・肆 音楽集。

めったにCDを買うことのない私が、取り寄せまでしていただいて手に入れた大事な一枚です。


原作の漫画、白泉社の『夏目友人帳』の緑川ゆき先生は、私が今、一番お会いしてお話ししてみたい漫画家さんです。

いちばんせつない、あやかし譚。そんなコピーそのままの、やさしい、やさしいお話たち。

主人公夏目の、あやかし達へのあたたかなまなざし。それらのせいで自身の人生を大きく狂わされているのに。

真のやさしさはきっと、悲しみの中にしかいないのでしょう。高く積もった雪が溶けゆくように、固いつぼみがほどけゆくように、いつかやわらかな春はやってくる。だから――。


アニメの音楽を手がけられた吉森信さんの、このサウンドトラックCDに寄せる言葉たちもきらきら静かに光っています。

ひねもすきらりきらり。吉森さんのお人柄が垣間見えるようなゆったりと穏やかな題名。

私が夏目友人帳を知り、興味をいだいたのはふと耳にしたこのアニメの音楽からでした。

多くを語らず、静かに小さなほたるの光を眺めるほほえみ。そんな情景が浮かぶ、水晶のような音の粒たち。

乱暴に掴まれるのではなく、おいで、とやさしく手まねきされた私はいつしかたぬきニャンコを側に置き、夏目といっしょに木洩れ日を見上げていました。


たまゆら。水晶のふれ合う音が響く、ほんの一瞬。そんな儚い人間の一生のうちに、こんなすてきな作品に出会えたこと、本当に感謝しています。



ちなみに、私のおすすめトラックは15番『小さきものの集い』。思わずくすりと笑ってしまう、かわいい曲です。

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