地球観察人
もし、宇宙人がこの星を観察したらと思い、書いてみました。
夜空が輝く夜。
私は煙突の上に座っている。
この町有数の大きな工場の煙突。
いったい、いつになればこの世界は変わるのだろう。
待てども待てども変わらない。
私は昼間に買った携帯を取り出して開いた。
これが、この世界の人が道端で、家で、学校で使う機械だ。
文字以外と画像以外には何も映ってないというのに、なぜこの機会をこの世界の人達は見るのだろう。
わからなかった。
「報告を」
頭の中に声が鳴り響いた。
定期的な母星からの通信だ。
「今日、私はこの星の住人が使う携帯というものを買いました。」
「結果を」
「この世界の人々は他人とのつながりを求めているようです。」
「ならばなぜ、そのような機器を持ち歩くのか。」
「それは、現実で本当の人間に会えないからです。」
「彼らは現実で本物の人間に接触している。」
「しかし、彼らが接触しているのは皮をかぶった人間にすぎません。彼らは本当の自分を殻の中に閉じ込めています。」
「確認。」
「今日の報告は以上です。」
頭の中の声が鳴りやんだ。
なぜ、なぜ彼らは本当の自分を殻の中に閉じ込めるのだろうか。
これまで観察してきた人々は、会社の同僚に対する態度、家族に対する態度、友人に対する態度、それぞれ使い分けていた。
私の星では、誰もが包み隠さず本音を言い合う。
なのに、なぜ。この星の人々は自分の真の願いを隠すのか。
遠くから、調査員の一人が飛来してくるのが見えた。
重量の干渉を無くすためにヒッグス粒子を取り払う機械が動く時に発する青白い光の残光が見える。
「ソイニ、あなたまだ観察をしているの?」
「ええ、まだわからない事が多くて。」
「わからないこと? そんなの簡単じゃない、この星の連中はみんな汚い。それだけよ。」
「いいえ、そんなことはないわ。 この星の人達は確かに…自分の欲望の事しか考えない人が多い。」
「それが、私がこの星に這いつくばる虫けらどもを見て出した答えだわ。」
「ええ、そうね。 だけど」
「だけど?」
「私は、この星の人々が美しいと思う。 欲望にまみれながらも、かすかに自分の罪に気づいて自分を正そうとするこの星の人々が美しいと思う。」
「いみわかんない。」
「そうかいもしれない。 もしかしたら、私はこの星に魅せられてるのかもしれない。」
「あなた、何を言ってるの。まだそんな事を言うのなら上の人に報告するわよ。」
「それでもいいわ。」
それでも、私はこの星が好き。
この世界が好き。
この、汚らしい泥の中でもがきならがらも正しい自分を探そうとするこの世界が好き。
「あなた、正気じゃないわ。」
同僚はそう言って飛び去って行った。
質量の干渉をなくすヒッグス粒子を取り除くために光る化学反応はとても綺麗だ。
もし、この任務から外されたらどうしよう。
地球を観察する任務から外されたらどうしよう。
そんなのはいやだ。
例え、この星の住人が汚くても、自分の事しか考えずに他人の事は考えずとも、私はこの世界が
―――――――――この星が好きだ。
まだ、この星を見守る任務から外れたくない。
確かに、この星の住民は生きてはいけないような人達ばかりだ。
自分の利益しか考えず、他人を助ける事は考えない。
しかし、私はそんな人達が大好きだ。
時に迷いながら、思い悩みながらも最後は自分の良心に勝てずに他人を助けるこの星の住民が大好きだ。
だからこそ私は、この星に残りたい。
そう思いながらも、同僚が告げ口をしたのだろう、母星からの通信が来た。
「ソイニ調査官」
「はい。」
「母星代表、ランルがここで正式に命ずる。」
「汝、地球調査員ソイニ調査員は今後も調査を続けたし。」
「いいのですか!?」
「厳密な審議の上で決定した、汝ソイニ調査員はこの星に住まう生命を理解し、深く理解を示している。故に、我々審議会は汝が適切な地球審査員だと判断した。」
「ありがとうございます!」
何も映っていない通信機器の画面へと深くお辞儀をした。
「続いては、汝を地球転生調査委員としての役割を命ずる。」
「それは……それは本当ですか!?」
「ああ。私たち審議会はそなたが適切な調査員だという決定を下した。」
「ありがとうございます!」
見えていないと思うが、私は通信機器へと向かって深くおじきをした。
「汝、ソイニ調査員はたくさんの地球の人々の生き様を見てきた。」
「YES」
「ならば、汝なら本当に正しき地球人の奥深き心の心理を見つめだせるであろう。 期待しているぞ!」
私の頭の中で声が鳴り響き終わるのと同時に私は大きな渦の中に巻き込まれるのをを感じた。
グルグルと、目のまわりそうなくらいの勢いの渦の中私はかきまぜられる。
やがて止まったかと思うと私は一人の女の子の中にいた。
ああ、私はこの女の子として生まれ、育ち、欲望にまみれ、死んでいくのか。
そう思うと、どこか切なく、嬉しい気がした。
それでもいい。
私はこれから人として育ち、生きて、そして死んでいくのだ。
そう思えば対して自分の星に未練はなかった。
そして私は、渦の中へと吸い込まれていった。
酔った時に書いてしまった作品ですw
読んでくれた方、ありがとうございました。