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 『滅』


 手紙を開くと真っ先に飛び込んできたのは禍々しい赤いインクで殴り書きのような荒々しい筆遣いで書かれた文字。手紙を透けて裏側からでもその文字は認識できた。

 恨み辛み憎悪嫌悪が濃縮されたが如きその一文字手紙に周囲にいた者達がざわめきながら手紙の受取人から一歩下がる。


 不幸の手紙か?いやいやそんな甘いもんじゃねぇぞ、あの手紙。脅迫状?いや殺害予告か?


 様々な憶測が飛び交う中それまで固まっていた手紙の受取人がゆっくりと顔を上げる。その顔に浮かぶのは恐怖かそれとも怒りか。

 固唾を呑む周囲だったが………彼の顔が確認できると同時に周囲はさらに遠ざかっていた。

 いまや受取人の周囲はちょっとした結界でも張られたかのように人気がなくなっていた。


 顔を上げた受取人の浮かべていたのは恐怖でも怒りでもなく色気たっぷりなそれこそ恋人から恋文でももらったかのような蕩ける笑顔を浮かべていたからだ。


 こわっ!!


 ギャラリーの心が今、奇跡の一致を見せた。


 周囲を混乱と恐怖のどつぼ叩き落した受取人………フェイ・ラードンはまるで愛おしい人に触れるかのように手紙を懐に納め、上機嫌で食堂を後にした。

 鼻歌でも歌いだしそうなその背中を凍りついたギャラリー多数は見送るしかなかった。


 「………結局、あの手紙はなんだったんだ?」


 ぽつりと零れた誰かの疑問に答える声はなかった。





 『婚姻届』


 気色の悪い口説き文句の連なった分厚い手紙と共に出てきた婚姻届を私は即座に使用不可能なレベルにまで細切れにした挙句、台所にまで走っていき目を丸くする厨房の面々をよそに赤々と燃え盛る竈に放り込んで灰にした。


 「よし!」


 呪いの書類が灰になったことを確認した私は再び走って部屋まで戻る。机の上に便箋と以前趣味で買い求めた異国の朱色の墨と筆。筆に荒々しく墨をつけると心に湧き起こる激情のまま筆を動かした。


 『滅』


 子供に婚姻届なんぞ送りつけてくる変態幼女趣味男は滅びろ!!!!


 悪夢の日々が終わり、ようやくあの変態を追い出せたと思ったら毎日毎日毎日!!!!手紙と共に婚姻届を送りつけやがって!!!


 私は知らなかった。あの男が私の溢れんばかりの拒絶の手紙をまさか満面の笑みで受け取りあまつさえ加工し額縁に入れて部屋に飾っていることを。

 

 「ミリーは照れ屋だなぁ」「寂しさの裏返し」だとか勘違いを爆発させているとか手紙を受け取るたびに悶えて喜んでいるとか。

 己の所業がまったく相手に堪えておらず、手紙の返信なんてせずに無視するのが一番無難とはいわないが反応を示すよりかはよっぽど良い方法だってことに私が気づくのはかなり後のことになる。


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