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前世の話な上シリアスです。
激動に揺れ動いていたあの時代。誰もが何かと戦っていた。それは人それぞれ違う。剣を持たない生きるための戦いもあった。剣を持ち敵と命のやりとりをする戦いもあった。
これは、戦場で戦った者たちの記憶。
後に英断を下した英雄として名を残すことになる男と戦場で命を散らすことになる名もなき男が戦場で対峙していた。
英雄は侵略者として、男は祖国を守る名もなき兵の一人として。
時代を動かした男。戦場に散った男。
だが、本当の意味で歴史を動かしたのは………。
『………これ、で………すぐには、うごけ、ねぇ、だろ?』
『お前は………』
交差した剣は一人に数日は動けない傷をそしてもう一人には致命傷を与えていた。
灰色の瞳が満足そうに驚愕で目を見開く男を見つめる。
『へへっ……これ、で攻め込むのは、遅れる、だろ?』
『おろかな、いくら俺の足を止めようとも戦局は覆らん。貴様の祖国は滅びる。それにこの程度の傷ならせいぜい三日あれば動ける』
男の言葉に灰色の名もなき兵はただ笑う。
『三日、か……。それで、十分だよ。三日もあれば、あの人なら、あの人達なら……きっと、最良の道を選んでくれる。俺の………いや、この戦場で散った命全てが生み出した時間、決して、無駄、しない』
言葉を吐くごとにごっそりと命が零れていくようだった。それでも、兵は言葉をつむぐことをやめない。
文字とおり血を吐きながら兵は命の代わりに想いを伝える。この戦の無益さを一番知りつつも心のまま弾劾することも止めることもできずにいる男の背を押すように。
『あんたは………いいのか?ほんとう、に、このまま、愚王の意のままに、動いて………戦いを、とめないままで』
『なにを……』
『しがらみ、も立場も、忘れて、心のまま、動いても、いいんじゃね~か?迷いを抱えた、まま、壊すより、迷いを吹っ切って守ったほうが、よっぽ、ど楽だぞ』
ごほりと血の塊が兵の口から零れる。膝に力が入らずそのまま倒れていく。だが、その灰色の瞳はしっかりと男を見据えていた。
『男なら、てめぇの心のまま、走れ!』
兵の言葉に男の身体が震える。迷いに揺れる瞳を睨みつけながら兵の意識は暗い深遠に落ちていく。音もなにもない永の眠りへと。
『やくそく、まもれなくて、すいません………』
後は頼みますと呟き、”彼”の意識は途切れた。
記憶が途切れ、夢が消え、そして………同じ記憶を持つ二つの意識が目を覚ました。
「………夢、か」
幼さを感じさせる声に似つかわしくない重みの篭った呟きに外で控えていた従者が声をかけて来る。それに適当に答えながら部屋の主は小さくため息を零した。
同じ時、同じ記憶を夢に見たのは互いにまだ、幼い子供。
追憶を抱える二人はいまだ、互いの存在を知らない。