Ⅸ
嘘くさい爽やか笑顔を浮かべた彼はヤッパリ油断ならない男でした……(涙)
にこにことうそ臭い笑顔を浮かべる少年の視線が私の方に向く。
びっく!と見るからに震える私にますます笑みを深めつつ少年はフォークにベーコンを刺すと当たり前のように私に差し出す。
こ、これは。
世間様で言う所の「はい、あーん」という甘酸っぱくもどきどきな甘い行為だと悟り、意識が飛びかけた。
口をあけて魂を飛ばす私に敵はにこにこと笑いながら「妹ができたらこうやって食べさせてあげるのが夢だったんだ」と言っていたが、絶対に嘘だ!
策略だ!陰謀だ!よこしまな想いが私には透けて見えている!
「ミリー?」
フォークを差し出したまま「ほら」と笑顔で脅し、いや、促す少年。
い、嫌だと目で訴えても笑顔でごり押しされて撃沈。
あうあうと口を開閉させて涙目で周囲の助けを求めるが・・・・。
「げほげほ!」
「もぐもぐ」
「ぐっ!」
いまだに咳き込む兄に幸せそうに食事を続ける母に「兄妹」発言をしたため口出しできないらしい父。
助け皆無!
「ご飯が冷めちゃうよ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
ええい!ここは腹を括る!戦場で敵に特攻するかのような心境で私は身を乗り出し勢いよく「はい、あーん」を受け入れた。
私は見てない。蕩ける様な瞳で私に恍惚の視線を向ける少年の姿なんて見てない。
前世と現世において一番の苦行とも言える時間を耐え抜き、どうにかこうにかベーコンを嚥下した。
はぁ・・・これで・・・・おわっ。
「はい。あ~~ん」
「・・・・・・・・・・」
ですよね。一回で終わらせてくれるほど甘くないですよね!ちくしょう!
甘い甘い笑顔で少年がすかさず差し出してきたフォークに私は涙を止められなかった。
結局、「兄妹みたいに仲良くしよう」を免罪符にされ食事が終わるまで「あ~~ん」を付き合わされた。させられた。最後の方は膝抱っこまでされた。・・・っていうかそこまでする兄妹がいるかぁ!!!(超意訳)と叫んだがなぜだか実の兄が「いや!おにいちゃんはいつだってミリーを膝抱っこして「あ~ん」をしたいぞ!!」と馬鹿発言し、「だってさ、はいミリー「あ~~ん」」とますます奴を付け上がらせた。
お兄様のお馬鹿~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!
その時間は文字とおり悪夢のような時間だった・・・・・。
食事を終え、速攻に自室に逃げ帰りベットにもぐりこんで私は悪夢の時間の終わりにむせび泣いた。
「ふふ。次の食事が楽しみだな~~~~」
食堂においてそんな危険発言がされていたなどちっとも知らず、私は安堵するやら羞恥に転げまわるやらせわしなかった。