三章:仲間
ふわりと風が頬を撫でる。頭や背中には、やわらかい絨毯のような感触がした。
ゆっくりと目を開けると、そこはいつか見た夢と同じ景色だった。以前と違うのは、わずかに空を暗い雲が流れているくらいだ。
「(夢の中でも時間は流れるものなのかな…)」
夢について詳しいわけでもないので、ぼんやりとそんなことを考えながら立ち上がる。見渡すと、どこまでも続く草原が広がる。
「今日は…あの唄は聞こえてこないんだな」
適当にあたりをつけると、俺は以前出合った白い女性を探す事にした。
「お、いたいた」
10分ほど歩いて、ようやくその女性を見つけた。彼女は変わらず白装束を身にまとい、美しい髪を風に流れるままにしていた。
「ども」
声をかけると、彼女はゆっくりとこちらへ振り向いた。今回は突然意識が落ちる心配は無さそうだ。
「色々話したい事があるんですけど、いいですかね?」
「えぇ、どうぞ」
優しげに微笑む白い女性。その表情は、どことなく沙耶に似ていた。
深呼吸をしてから、何を尋ねるか頭の中で固める。一体何者なのか、なぜ俺の夢の中に現れるのか、そんな疑問がいくつも浮かんだが、とりあえず無難な質問を始めた。
「とりあえず、名前を教えてください。…俺は」
「知ってます。海原悠斗様…ですよね?」
「っ!…えぇ、そうです」
驚いたが、自分の夢ならば名前くらいは、と無理やり理由をつけた。いつまた意識が落ちるかわからないんだ、とにかく色々聞かないと…。
「私は佳耶と申します」
穏やかに一礼してきたので、慌ててこちらも頭を下げる。…マイペースさも沙耶に似てないか、この人。
「それで聞きたいことというのは、この前言おうとしていた事なんですが…。『助けて』というのは、一体何のことなんですか?」
「はい。それは、あなたの考えている通り、沙耶のことです」
やはりか。あのタイミングとなると、それ以外考える事が出来ない。
「それで、具体的には何をすれば」
「あの子の…沙耶の、願いを叶えて欲しいのです」
「沙耶の…?」
静かに佳耶は頷いた。
「願いっていっても、そもそもあいつと会ったのもつい最近だし、あまり話さない子で、検討もつかないんですが…」
「いずれわかる時が来ます。そして、その時あなたがどうするかは、お任せいたします。あの子は、とても不憫な子。しかし私にとって、とても大切な子なのです」
「あなたは、一体沙耶の…」
「それもいずれわかることでしょう」
そう言って優しい笑みを浮かべた。
「さぁ、そろそろあなたの場所へ戻ってください。あの子を…沙耶を、よろしくお願いします」
「ま、待ってくれ、まだっ―――」
腕を伸ばそうとして、俺の意識は再び闇の中へと落ちていった。
「―――はっ!?」
目を開くと、布団へ横になったまま天井へと腕を伸ばしている自分に気がついた。こぶしを握りながら、佳耶の言葉を反芻する。
「いずれわかる…願いを叶えてほしい…か」
ただでさえよく解らない状況だというのに、ますます解らなくなってきた気がする。しばらく上げたままのこぶしをふらふら揺らしながら考えていたが、結局考えはまとまらなかった。
そういえば、今日あの3人が来るんだっけ。…夢の話ではあるけど、話したほうがいいかもしれないな。なんだかんだで信頼できるのは確かだし。
幼馴染ってのは大切なものかもしれないなぁ…と考えていると、ふと体の横に違和感を感じた。
「ん…ぅ…」
なにやらもぞもぞと俺の布団で動く気配を感じて左に顔を向けると、沙耶の寝顔がそこにあった。どうやら、また布団の中にもぐりこんできた様だ。この季節にくっつかれると少々暑い。
「今日はエアコンしっかり止めておいたんだけどな……」
ぼやきつつも、沙耶の寝顔を見てるとそんなのはどうでもよくなった。
時計を見ると、まだ起きる時間には早い。ずれた布団を沙耶へ掛けなおすと、俺も寝直すことにした。
10時。ピンポーン、と呼び鈴が鳴り響くのを聞いてドアを開けると、佳奈以下2名がそこに立っていた。
「おはようございます!宣言通り来ましたぁ!」
「よぅ、間違いは犯してないか?」
「ごめんね、せっかくの休日なのに」
3者3様の挨拶に軽く返して、家へと上げる。「はい、一応これ差し入れね」と佳奈が上がり際にコンビに袋を手渡す。中身はペットボトルのジュースやお茶と、お菓子数袋。さすがだ、用意がいい。
「それで、沙耶ちゃんは何か思い出したのか?」
亮介が横に並び、尋ねてくる。それに対して俺は首を振る。
「ただ、手がかりと言っていいのかはわからないけど、一つ気になる事はできたな」
「ふむ。どんなのだ?」
「それは…」
「キャーーーッ!可愛いですぅぅぅ!!」
突如響き渡った嬌声が俺の声を遮った。リビングへ行くと、ソファに座っていた沙耶へ頬擦りをする三咲…と、鬱陶しそうにしながらされるがままの沙耶の姿があった。
「これだけ可愛ければしょうがないですよねぇ。悠斗先輩がさらっちゃうのも無理ありませんっ」
「だからさらったんじゃないって言ってるだろが!」
「ウフフ~、ふにふにすべすべ~♪」
ダメだ、まるで聞いちゃいねぇ。とりあえず首根っこを掴んで無理やり引き剥がすと、かなり残念そうな顔をして渋々ソファへと腰を下ろす。佳奈もその横へと座り、俺と亮介はイスへと腰を下ろした。
「…でだ。一応三咲への状況説明を」
俺は沙耶を拾った経緯を話した。そして、その後佳奈と亮介に相談をしたことも。三咲は以外にも真剣な表情でそれを聞いていた。
「…まぁ、そこまでは俺も知るトコだな。それで、さっき聞きそびれた気になることってのが、俺は気になってんだけど、もちろん教えてくれるよな?」
3人の目が俺に向いて、話を続けてくれと催促をしてくる。「あくまで夢の中の出来事で、確かなことではない」と前置きをしてから、俺は沙耶へ会う前から今日まで不思議な夢を見たことを説明した。白い服を来た女性と、今日見た夢で彼女に『願いを叶えてほしい』と頼まれたことを。
その間、沙耶はソファに置いてあった漫画をじっと読んでいた。
「――てトコだ。もう一度言うが、夢での出来事だ。けど、俺にはどうも偶然には思えない」
「確かに…。会ってから出てきたのなら、単なる夢で済みそうなんだけど…」
「会う前に見たのですものねぇ。関係があるって思いますぅ」
佳奈と三咲はうなづきながら答える。亮介は「そうだな…」と前置きをしてから、
「状況はわかった。それで、俺たちや部長に何をしてもらいたい?」
俺の答えを見透かしてるように亮介はそう振ってきた。3人の顔を改めて見回して、一呼吸置いた。
「情報は明らかに少ないけど、この夢を見た理由や、何より沙耶のために。原因を突き止めるために力をかしてもらいたい」
「もちろん、そのつもりだよ!」
「あたしが入ればちゃちゃっと解決ですよ!」
「主にお前の兄貴には期待している」
「あたしはー!?」という叫び声を無視して、横に座っている友人へと目を向ける。
「サンキュな。正直自分ひとりだと頼りないんだ。情けない話だけどさ」
「な~に言ってんだよ、相棒!この貸しは飯おごってもらえばOKだぜ~」
ビシッと親指を立てて、いつも通りに軽く返事をする亮介。まったく、この3人を見てるとわずかでも説明するか悩んだ俺がバカみたいじゃないか……。
早速今後の作戦方針を立て始めた3人を見ながら沙耶の横へ来ると、ポンと頭に手を置いた。
「よかったな、沙耶。きっと家に帰してやるからな」
漫画へと目を向けたままだった沙耶がこっちを向いて、一瞬きょとんとしていたが、小さく笑みを浮かべた。
さて、最後に更新したのが7月。今回の投稿が2月。換算すると実に7ヶ月ぶり。いやはや、すごいねこれは。なぜ今になって書き始めたのか俺にもわかりません(ちょ
しかし、これだけ空くと話の内容を覚えていても、キャラの正確がうまくつかめなくなってきます。漫画のように表情が一発でわかるようなものではないので、自分の中で構成しなおすに大分苦労しました。というより、そこがなかなか纏まらなかったからこれだけ空いてしまった、というのも確かな気がします。自分のあとがきまで読んで「あ~、こんな感じだったっけな~」という感じで書きました。わかる人には、どの辺りから書き始めたかわかってしまうかもしれませんね…。
予定よりも少々早めにまとめるかもしれない、と考えつつありますが、一応書き上げるつもりです。完成作品の少なさが、表現の貧困さにつながっているような気がしますし、なにより目的がはっきりしてるから書きやすい(マテ
稚拙な文章ですが、必死で頭を回して書き直しつつこの子達をしっかりゴールへ導きたいです。
最後になりましたが、新規の方も、「ようやく書き始めたのかこの阿呆は…」とか思って下さっている方も、読んでくださってありがとうございます!