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夢の奇跡  作者: 雨宮柳
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序章:夢

風が流れている―――

目を開けると青い空が広がっていた。わずかな薄雲とのコントラストがとても綺麗だ。

ゆっくりと体を起こして見回すと、辺りは見渡す限り青々とした草が広がっていた。他には何も見えない。

――いつの間にこんなところに来たんだろう?――

記憶を辿ってみるが、まったく思い当たらない。むしろ、地球上にこんな場所があったのか、と思うほど綺麗だ。

「~~♪ ~~♪」

不意に綺麗なメロディーが聞こえてきた。どこか懐かしく、そして切ない唄。

思わず聞き入ってしまいそうな、不思議な声。

――誰か唄っているのか?――

その声に引き寄せられるように俺は歩き始めた。

5分程歩いただろうか。青々とした草が広がるばかりの景色の向こうに、かすかな人影を見つけた。歌はそこから聞こえているらしい。少し歩みを速めてその人に近づいていく。

次第にはっきりしてくる人影は、腰までの流れるような白い髪に、白い透き通るような肌。白装束を身に纏った真っ白な女性だった。

「あなたは……?」

俺が尋ねると、彼女は唄を止めてゆっくりとこちらへ振り向くと、優しく微笑みかけた。

もう一度質問をしようと口を開いた。瞬間、いきなり意識が暗闇へと引きずりこまれていくような錯覚を覚えた。腕を伸ばしてそれに抗おうとするが、落ちるような感覚は止まらない。

意識が消える直前に、俺は彼女の声を聞いた。

「……を、お願いします」




「いだっ!?」

鼻に焼けるような痛みを感じて目が覚めた。体を起こすと、床に倒れているのに気がつく。どうやら寝てる間にベッドから落ちたようだった。

赤くなった鼻をこすりながら、俺はさっき見ていた夢を思い出していた。

あの白い女性は一体…。それに、最後に言っていた『お願いします』というのは、何に対してなのだろう。

夢の内容を真剣に考えるほどバカなことはないが、それでも俺にはあの夢がとても大事なことに思えた。何か、とても大切なことを伝えていたような。

あ、大事といえば。

思い出して時計を見る。壁の掛け時計の長針と短針は、無常にも正確に時間を示していた。

8時20分。

「ヤバイ、遅刻するっ!」




自転車のペダルを思いっきりこいで高校を目指す。

俺こと海原悠斗かいばらゆうとの通う坂上さかじょう高校までは自転車で20分程。大通りも無く、信号や車に足止めされる心配がないので、必死になれば10分近く短縮することができる。しかし、田舎特有のこう配の多さが原因で。

「……ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ」

ものすごい速さで息が切れる。運動部にでも入っていれば高校までくらい何でもないだろうが、形式上の部活参加、しかも文系に入っている俺にはフルマラソンするくらい過酷だ。おまけに今は7月、気温は今もなお上昇し続けている。

腕時計を確認。8時35分。後5分でSHRが始まろうとしていた。

無理だ…間に合う気がしない。いっそこのまま適当に時間をつぶして、何気ない顔で一限目から出るか。

一瞬そんな誘惑がよぎったが、頭を振って考えを飛ばす。

それこそ無理だ。あの担任はここぞとばかりに説教をするに違いない。そして罰として居残り掃除とかやらせることだろう。

「今こそ俺の力を見せるときっ!うなれ、俺の筋肉たちーー!!」

意味不明な事を叫びながら、俺は更に加速させて高校へと向かったのだった。




「お~い。悠斗、生きてるか~?」

教室の机で突っ伏していた俺に、一人の男子が話しかけてきた。

加宮亮介かみやりょうすけ。小さい頃からの仲で、すべての学校を一緒に過ごしてきたやつだ。

「どうせまた寝坊したんでしょ?」

次に呆れ顔で近づいてきたのは三枝佳奈さいぐさかなだった。亮介と同じく幼馴染みで(佳奈いわく悲しい腐れ縁)、こいつとも同じ学校をずっと過ごしてきた。

「ほっとけ……」

必死で走っている生徒を抜き、遅刻を決めた生徒の列をかわして、ドリフトをかけて駐輪場へ自転車を止めた俺は、車輪止めにぶつかった反動を利用して自転車から飛び降りた。着地と同時に膝を半分ほど曲げ、地面を蹴ると後は教室まで一時も足を止めなかった。どうやって下駄箱をクリアしたのかは覚えていない。ちゃんと上履きになってるということは、きちんと履き替えたのだろうが。

結果、担任の入室と同時に反対のドアから入ることが出来た。まさに間一髪だった。

「まぁ、百合ちゃんのSHRサボったら後でどうなるかわからないからな~」

「確かに……」

二人はうんうんと頷いている。

百合ちゃんとは、俺たちの担任である嶋野百合しまのゆりのことだ。よく小学校教師になりたかったと言っているが、そのせいか遅刻や欠席をすると居残り掃除や廊下にバケツを持って立たせる、など古い罰を課せられる。

「それでも人気あるのは、やっぱり綺麗で優しいからよね」

「美人だからな、百合ちゃんは。普段は厳しいけど、話せば相談に親身になってくれるし、罰の後はジュースおごってくれるし。おまけに細かい所によく気がつく。――く~、歳が近かったら俺は絶対放っておかないのにー!」

「勝手に言ってろ、アホ」

いや歳なんて関係ないのか!?などと言っているバカは放っておいて、俺は佳奈の方を向く。

「そういや、今日の一時限なんだっけ?」

「確か数学だったかな?…それよりも悠斗」

「ん?」

「やっぱり、これからは起こしに行こうか?」

「もう小学生でもないんだからいらねぇって」

小学校までは毎日のように佳奈が俺の家まで迎えに来て、一緒に登校していた。それが無くなったのは中学1年生の半ば過ぎた辺りだったかな…?

別に毎朝起こされるのが嫌だったわけじゃない。むしろ嬉しかったくらいだった。

それを俺から止めさせたのは、単純な理由だ。単に俺が恥ずかしかっただけ。

「でも、最近ぎりぎりなのが多すぎるよ。ちゃんと朝ごはん食べてる?」

「いや、食べてないな」

「ダメだよ、ちゃんと食べないと。朝食は一日で一番大切なんだよ?」

「昼食で一度に取るから大丈夫」

「ダメ!三食きちんと分けるの!」

「お二人さん、夫婦喧嘩は程ほどにしとけよ~」

『誰が夫婦だ(よ)!』

現実世界に戻っていた亮介がため息混じりに言った言葉に対して、俺と佳奈の声は見事にハモった。間に妙な空気が流れる。

「はいはい、そういうことにしてやるよ~♪」

「ちょっと、違うって言ってるでしょ……って、待ちなさいー!!」

背中を向けて去っていく亮介に、佳奈は駆け寄って必死に説明しながら、二人は廊下へと出て行った。

俺は二人が出て行くのを見届けてから、外へと目を向けた。窓の外には触れられそうな程近いところで木の葉がその新緑を広げていた。ふと、今朝見た夢を思い出す。

「ホント、一体あの夢はなんだったんだろうな」

脳裏に夢の中の白い女性と、最後の言葉が何度も巡る。しかし結局何かが浮かぶことは無く、二人が戻ってきてすぐに数学教師が教室へ入ってきた。




放課後。開放感に包まれた教室の中を亮介がこちらへ近づいてきた。

「これからゲーセン行かねぇか?」

「わり。今日は買出し行かないとならないからパス」

「ん、そうか。一人暮らしってのも大変だな」

「もう慣れたよ」

ほとんどからっぽのかばんを掴むと、俺は騒がしい廊下へと出て行く。

俺の両親は小さい頃事故で二人とも死んでしまっている。唯一の家族である兄貴も俺が中学2年生の頃に上京して、それから3年間、ずっと一人暮らしを続けている。

それが悲しいと思うことは無かった。家事は面倒だけど、それでも高校へ来れば話し相手はいくらでもいるし、何より佳奈がしょっちゅう家に来る。孤独であるとは滅多に思わなかった。

電気代や食費、学費も親戚の叔父と叔母に出してもらっていて、不自由があるわけでもない。とはいえ、すべて世話になるわけにもいかないから、休日はバイトをしてわずかでも足しにしている。

平日は学校と買出し、帰ったら家事。3年間ずっと続けていて慣れたが、青春とは程遠いかもしれない。もし両親が生きていれば、兄貴が家にいれば――部活も遊びも、もっと充実していたかもしれない。

「っと、いかんいかん」

何を感傷的になってるんだが。それよりも今日の買出しのことを考えないと。

手帳を取り出し、あらかじめ決めておいた買い物リストを見直した。




6時過ぎとはいえ、日も長いのでまだ真っ暗になることはないので、街頭の少ない場所でも問題ない。

しかし、俺の心はどんよりと暗く落ち込んでいた。歩く足が重い。片手にぶら下がったビニール袋も心なしかいつもよりグッと手に食い込む。

――あの後、駐輪場に行った俺は、自分の自転車を探した。今朝はドリフトで滑り込んだのでタイヤ痕がくっきり残っていてすぐに置いてある場所がわかった。だが――

「ない……俺の自転車がないっ!?」

タイヤ痕の吸い込まれていってる車輪止めから、自転車が跡形も無く消え去っていた。誰かが移動させたのかと一つ一つ確認していったが、どこにも見つからなかった。

要するに、パクられた。

「最悪すぎる……」

鍵をかけなかった俺も悪いが、持って行った輩に腹が立つ。どこのどいつか知らないが、見つけ出したら

タダじゃおかない。

「……ん?」

脳内シミュレートで犯人を締め上げていた俺の目に、ふと道端に倒れてる何かが映った。

近づいてみる。やけに大きいものだけど、誰かが粗大ゴミでも不法投棄したのか?

薄暗くなってきてよく見えなくなってきていて、もう一歩で触れられそうな場所まで近づいてようやく「それ」を確認することができた。

「お……んなのこ……?」

それは小さな少女だった。道の端で、小さく丸まって倒れている。しゃがんで口元へ手を近づけると、かすかに暖かな呼吸を感じた。死んでは……いないみたいだ。

もう一度少女の格好を見た。腰まである白い髪に白い透き通るような肌。そして白いワンピース。そこまで確認して、俺の中でイメージがつながった。

今日一日、ずっと頭から離れなかった映像と。

「似てる……あの、夢の中の女性と……」


さて。あとがきに何か書こうと思ったら、意外と書き込むことが無さそうです。というより、ついつい書き過ぎそうで怖いです。

とりあえずこの作品のプロット構想時間でも書いてみますかね…自分でも驚きの速度でしたから。

なんと、2時間でした。そこからメモ帳に打ち込んでプラス30分。キャラ設定から起承転結まですべて出来上がっちゃいました。

やたらと長い夢を見まして、その中でやけに印象に残ったネックレス(ペンダント?)と白い髪の綺麗な女の子。それを追いかける何人もの男たちから山の中を逃げ回る。

…とまぁこんな感じでした。自分で書いていて、何でこんな形になったのか全然わかりません。

夢の内容を話すほど無意味なことは無いと、どこかで言われた記憶があるのでこのくらいにします。自重しときます。

文法がラノベやAVGに偏っているので、どうもそちらの書き方になってしまってますが、許してください(苦笑

それでも、出来るだけ丁寧に書いていきたいです。自分の誤謬でどこまでしっかり表現できるかわかりませんが、精一杯書かせていただきます。

さてさて、結局長くなったので最後に。

ここまであとがきを読んでいただいて本当にありがとうございます。

もし感想をいただけたらとてもうれしいです。短い一言でも、長い感想であっても、等しく自分には有り難いものです。

それでは、次は第1章でお会いできることを祈っております。

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