エピローグ:神の計算違い
エピローグ:神の計算違い
天界の配給窓口は、今日も相変わらずの忙しさだった。
「はい、次。聖槍のセット。……次!」
担当の神は、下界を眺めて舌打ちした。
「おかしい……。
私の計算では、あの事務屋の男は今頃、聖剣の勇者の後ろで荷物を運んでいるはずだったんだが」
神のシナリオは完璧なはずだった。
同時期に、同じ街へ、主役の勇者と脇役の事務屋を転生させる。
勇者に華々しく魔王を討たせるため、言葉が通じない場所でも困らないよう『翻訳』を、道中の大量の荷物に困らないよう『倉庫』を、そして常に勇者の隣で汗もかかずに控えていられるよう『適応』を――。
男に与えたスキルセットはすべて、勇者が「快適に冒険するため」の、最高のサポートツール(荷物持ち用)だったのだ。
ところが、どうだ。
神が授けた「勇者のための便利機能」を、男は「国家規模の物流システム」へと変換してしまった。
神が選んだはずの主役(勇者)が、事務屋の前で深々と頭を下げ、活動資金の融資を乞うている。
「馬鹿な……。荷物持ちどころか、主役のスポンサーじゃないか」
さらに神を驚かせたのは、男が選んだ「居場所」だった。
男は、かつての暗殺未遂という痛烈な教訓を経て、砂漠という「難攻不落の要塞」を本拠地に据えていた。
そこは、魔物にとっても過酷すぎる環境。
だが男には『適応』があるため、そこは冷房の効いた書斎と変わらない。
砂漠という土地自体には領土的価値がないため、どの国も奪いには来ない。
しかし、道としての価値は、彼が引いたパイプラインによって跳ね上がった。
何より、その用心深さが神の理解を超えていた。
砂漠を越える者は男のインフラを使うため、その動向はすべて監視下に置かれる。
インフラを使わない者は砂漠に阻まれて目立ち、恩恵を受けている砂漠の民から即座に報告が上がる。
『翻訳』スキルは、今や勇者の通訳ではなく、砂漠に面する国々をつなぐ「中立緩衝地帯のハブ」として、巨大な利権を調整するための外交兵器となっていた。
「三方よし、か……。敵すらも自分の利益の一部に組み込み、勇者たちのスポンサーになった男を、もはや誰も襲う理由がない」
魔王は、男が育て、供給し、投資した勇者たちの「兵站の暴力」によって、抗う術もなく追い詰められている。
「事務屋に魔王は倒せない、と言ったのは私だが……間接的に倒すなんて、聞いていないぞ」
魔王はまだ健在だ。
しかし、男が見出し、投資し、磨き上げた「原石」たちの勢いは止まらない。
砂漠を起点に整備された圧倒的な物流網。
そこから絶え間なく、かつ迅速に供給される完璧な兵站。
飢えることも、渇くことも、武器が欠けることもない勇者軍を前に、魔王軍は戦略的に、かつ確実に追い詰められていた。
(完)
蛇足:異世界転生のチートの「おまけ」部分のみ与えられら、どうなる?というところから発想しました。




