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04 海はやっぱり欠かせない

 青い海、青い空。人が込み合う海水浴場。

 親子連れもいれば、友達同士で来ているであろう男子達や女子達の集団。その他にもやはりいる二人組の男女の姿も見える。


「俺よく分かんねぇんだけどさ。ビキニと下着って何が違うわけ?」

「僕に聞かないでよ」

「意味分かんねぇ」


 悠斗だって意味が分からない。確かに男の海水パンツだって、物によっては下着とそう変わらないものだってあるわけだが、それにしたって女子達のビキニなんてかなり際どすぎる。

 何、あの布面積。意味が分からない。


「でさ、海のデートって何すんだよ。泳ぐのは当然として」

「話したり、海の家で一緒に食べたりとかじゃないの?」

「今みたいに?」


 涼真の言葉に、悠斗は大きく頷いた。

 悠斗達は今、海の家の隅っこで向かい合って焼きそばを食べていた。まずくもなければ、おいしいとも思わない、味が濃い目の焼きそば。それから、よく冷えたコーラ。

 ごった返す海の家の中には付き合っているであろう二人組が同じように、そして楽し気に会話をしながら食べている。悠斗はさりげなくその姿を観察しながら、大きく項垂れた。


「もうさぁ、デートが何か分からなくなってきた」

「分かる」


 もはや哲学の域だ。デートとは何か。


「話すって言ってもさぁ、女子って何の話すんの」

「たぶんあれじゃない? 有名人の話とか、ドラマとか」

「最近の流行りとか?」

「そうそう」


 今の流行りは何だっただろうか。

 悠斗は調べてみるか、とスマートフォンに触れそうになり、止めた。そして変わりに涼真に悠斗は聞くことにした。


「今って何が流行ってるんだっけ」

「何の流行り?」

「ええ、ジャンル?」


 そうだ、流行りと言っても食べ物なのか、音楽なのかで話題は大きく変わってくるものだ。食べ物ならば食べ歩きをしたおかげで、今の流行りには追いついた。しかしそれ以外について、悠斗にはさっぱりだった。


「音楽、とか?」

「音楽かぁ。それならこれとかだな」


 涼真はスマートフォンを操作して画面をこちらに向ける。そこにはとあるアーティストのMV動画が並んでいた。


「へぇ、今はそれかぁ。どんな歌?」

「めっちゃかっこいい。けどすげぇ高音だから歌えないんだよなぁ。あ、カラオケ行こうぜ」

「やだよ」

「ほら定番だろ、たぶん」

「それでもやだ」


 カラオケ。というより、ああいう場所に行きたくないだけだが涼真には一回も話したことはない。

 だから涼真は仕方が無いと言わんばかりに首を大きく左右に振って、わざとらしく大きく息をつくだけだった。


「そっかぁ。お前、音痴なのかぁ」

「うん、だから行かない」

「行こうぜ」

「話聞いてる?」


 涼真はどうやら、悠斗の下手だと勝手に想像している歌を聞きたいらしい。

 別にああいった場所ではなければ良いだけの話なのだが、なんとなくニヤついて悠斗を見てくる涼真を見ていると、どうしても素直に話したくなくなってくる。

 どうやって、こいつを黙らせようか。なんて悠斗は残りの焼きそばを片付けようと割りばしを掴む。と、横から声をかけられた。


「あのぅ」


 涼真はすぐにぴしり、と固まった。話しかけられていないのに、だ。

 なんとも愉快な反応につい、悠斗は薄く笑みを浮かべながら声が聞こえた方へと顔を向けた。


「はい、なんですか?」


 そこには二人組の女子がいた。おそらくは同年代ぐらいだろう二人は、そろってビキニを着ており、惜しげもなく肌を晒していた。

 二人してまっすぐに悠斗を見つめ、涼真には一切目を向けていなかった。


「二人で海に来たんですかぁ?」

「そうですよ」


 少しばかり間延びしたような話し方をする女子が、ぱっと大きな笑顔を浮かべた。


「あたし達も二人で来たんです。せっかくだから一緒に遊びませんか?」


 一緒に。それは涼真も入っているのかどうか疑わしいところでもある。

 悠斗は横目で涼真の様子を見れば、顔を大きくそらしている。

 なんて初心な反応をしているのか。

 呆れてつい、悠斗はため息をつきかけた。


「えっと……、駄目、ですか?」

「あ、もしかしてもう帰るところだったり……?」


 遠慮がちに聞いてくる二人に、悠斗は困ったように笑みを浮かべた。


「すみません。僕達デート中なんです」

「お、おいっ!」


 慌てて悠斗の口を塞ごうとする涼真に対し、目の前の女子二人のうち一人は顔を大きく歪め、もう片方は大きく目を見開いて両手で口を覆った。

 言葉の通りの三者三様の反応に、悠斗は噴き出しそうになりながら涼真の手を掴んだ。


「ん? どうしたの?」

「どうしたって……お前なぁ!」

「けど、嘘じゃないよね?」


 これはデートだ。頭に予行練習がつく。

 黙った涼真の反応に、女子二人は嘘ではないことを悟ったのだろう。顔を大きく歪めた女子が慌ててスマートフォンをわざとらしく見る。


「あ、ごめんなさぁい。ちょっと電話来たみたいで。行こ」

「あ、えっと、す、すみません!」


 スマートフォン片手に、片方の女子が足早に離れていく。もう片方の女子は大きく頭を下げて、慌ててその後ろを追いかけて行った。

 なんともあまりにも違う反応が面白いが、あまりにも違いすぎる反応に本当に仲が良いのかと悠斗はつい心配になってしまう。


「……おい、悠斗。いい加減に手、離せよ」

「あ、ごめん」


 まだ泳いでいないのに、もう疲れたような声を出す涼真に言われ、悠斗は慌てて手を離した。


「お前さぁ……」

「ああ言った方が手っ取り早いだろ? 涼真なんて役に立たないし」

「うっせぇな……!」

「そんなんでよく彼女欲しいとか言うよね」

「し、仕方がねぇだろ!」


 顔を真っ赤にして言い返す涼真に、悠斗ははいはいと言って気が抜けてきたぬるいコーラを飲む。全くおいしくないし、先ほどのこともあったせいか、悠斗の機嫌は右肩下がりだ。今すぐにでも帰りたくなる。

 そんな悠斗の機嫌を察してか、涼真はわざとらしく声を張り上げた。


「これ食ったら泳ごうぜ! せっかく来たんだしさ!」

「……だね。競争する?」

「おいおい、俺に勝負をしかけるなんて怖いもの知らずか?」

「大丈夫。足攣れって念じておくから」

「おい馬鹿! 止めろって!」


 けども大袈裟な涼真の反応に、ついつい悠斗は冗談交じりに相槌を打ち、小さく肩を揺らした。

 確かに泳いでいる途中に足を攣るとか、冗談でも念じてはいけないことだ。悠斗はしかし涼真の反応が面白くて、続けてどんなことを言ってやろうかと思案する。

 にしても、と悠斗は涼真を改めて見る。

 悠斗は涼真が羨ましい、と思っている。背の高さは同じぐらいだが、日に焼けやすい肌もそうだし、筋肉だって悠斗よりもある。男らしく声だって悠斗よりも低い。女顔と揶揄される悠斗に比べ、涼真はまさしく男らしい顔つきだ。

 本当に、羨ましい。どうしてあの女子二人は涼真へと目を一切向けなかったのかさえ不思議に思うほどだ。


「……なんだよ」


 じろり、と涼真は悠斗を見る。騒いだせいもあって、全体的に赤みを帯びる涼真を前に、悠斗は何故か喉がなった、気がした。


「……太った?」

「くっそ! バレた!」

「筋肉じゃないんだ」

「ちょっと筋トレさぼっただけなんだって」


 くそぅ、と涼真はごつり、とテーブルに頭を乗せる。

 悠斗はその頭に手を伸ばしかけ、すぐに下ろし、涼真の皿とコップを少しだけ遠ざけた。

 こうなった涼真はしばらくは動かないだろう。悠斗は小さく息をつき、眩しい外へと目を向けた。

 涼しくもない潮風が通り過ぎる。というのに、足元は妙に冷たく、寒かった。まるで氷の上に立っているかのような感覚だ。

 いや、この感覚はあの頃から変わらず感じていた。だからこの寒さには慣れて、むしろあって当たり前のことだった。というのに、何故今、改めて寒いだなんて思ったのだろうか。

 夏だから。この暑さだから。それとも――。

 悠斗は残りのおいしくない、ぬるいコーラを一気に飲み込んだ。そして手を伸ばし、涼真の頭に向け、強めにデコピンをくらわすのだった。

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