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03 おうちデートと言う名の勉強会

 親がいない家に連れ込む。なかなかにハードルが高いデートだが、相手は残念ながら親友である。とはいえこれはデートの予行練習なので、悠斗は真面目に目の前の課題を片付けていた。


「ほら、さっさとやりなよ」

「絶対これ違うって!」


 騒ぐ涼真の口に、仕方が無く悠斗は用意しておいたせんべいを突っ込んだ。


「んぐっ」

「うるさい」

「せんべいって……! デートなら別のがあるだろ、別の……!」

「僕がせんべい好きなの知ってるでしょ」

「……女子達、絶対にクッキーとかそういうのが好きだって思ってるぞ」

「歯ごたえないのはちょっと。それに涼真は甘いの苦手でしょ」

「まぁ、そうだけどさぁ……」


 何か言いたげの涼真はしばらく悠斗を睨むように見てくる。悠斗はその視線を無視し、課題のプリントを進める。

 ごつり、という音が悠斗の耳に届く。悠斗はほんの少しだけ顔を上げれば、涼真は机に伏せていた。


「さっさとやりなよ。後で苦しくなるのは涼真だよ」

「……おー」


 しぶしぶと頭を上げ、涼真はようやく投げていたシャープペンシルを手に取った。



 三十分、涼真の集中出来れば良い方だと思ったが、まさか一時間もぶっ通しで課題を片付けるとは思わず、悠斗は内心、涼真のやる気に感心してしまった。


「疲れたぁ」

「少し休んでれば? そこに漫画あるし読んでても良いよ」

「お、やりぃ」


 さすがに疲れただろう涼真はぐでり、と机に頭を乗せた。頑張った涼真に、悠斗はつい甘やかすようなことを口にしてしまう。

 涼真はぱっと顔を上げて笑みを浮かべるも、すぐに顔をしかめた。


「どうしたの?」

「悠斗も休めよ。ずっとやってんじゃん」


 確かに。涼真が一時間も課題を進めていたということは、悠斗は一時間以上、休憩も取らずに進めていたということだ。

 涼真に言われ、悠斗はようやくシャープペンシルを持つ手を止めた。


「そうするよ」


 すっかり氷が消えてなくなった薄くなった麦茶を飲み、悠斗は一息つきながらせんべいを一枚とる。ほんの少しだけ力を入れ、半分に割り、ぼりぼりとかじるように咀嚼しながら涼真を観察する。

 涼真は悠斗の漫画がしまわれている棚の前に移動して、さっそく読む漫画を選んでいる。別に今回が初めてではないし、涼真の家にも同じ漫画があると言うのに何故そう迷うのか。


「あ? なんだよ」


 じっと見ていると、涼真はようやく悠斗の視線に気付き、顔を大きくしかめた。


「いや、何度も来てるのに何でそんなに悩むのかなぁって」

「なんでそんなに悩まねぇんだよ。むしろ」


 そんなことを聞かれても。

 こればかりはどうしても考えが合わないのことを悠斗はしっかりと理解した。


「ってかさ。こういう家でのデートって何すんの?」

「健全なものだと勉強とかでしょ」

「……何で付き合ってまで……」


 意味が分からない、と言いたげの涼真に悠斗は残り半分のせんべいをまた半分に割りながら答える。


「ばっか。だから言っただろ、健全なって。相手は女の子。僕達よりもずっと力は弱いんだよ? 力で押さえつけられたら例え付き合っている相手だろうと怖いもんだろ?」

「あー……」

「もちろん下心はあるにしたって、まずは女の子にここは安全だって思わせなきゃ。だから最初は健全に、一切の下心がないって思わせる」

「……まさか悠斗」

「ちなみに今のは想像」

「お前の想像力どうなってんの? 妄想?」

「軽く妄想は入っているかも」


 最後だけ茶化した悠斗に、涼真は呆れたように笑った。

 悠斗は誰かと付き合ったことはない。だからこれらのほとんどは想像でしかない。とはいえ、ちょっとした経験談が入っているのは黙っておくべきだろう。

 この女のような顔のせいで、何度、自分よりも大きな男に触れられてしまったか。

 その時のことを思い出してしまい、悠斗は嫌な寒気を覚え、小さく体を身震いさせた。


「悠斗?」

「……何でもないよ。ちょっと冷えすぎただけかも」

「ああ、冷房すげぇ効いてるもんな」


 今日も外は噎せ返るほどに暑く、日差しは鋭く皮膚を焼こうとする。だからついつい冷房の温度を低く設定していたわけだが、鳥肌が立つほどになるとは思わなかった。

 悠斗はそのあたりに投げていたカーディガンを羽織る横で、勝手知ったるや、涼真はエアコンのリモコンを手に取った。


「ちっと上げるわ」


 そして当たり前のように温度を上げてくれるのは有難い。しかし、この部屋の主は悠斗であって涼真ではない。

 なんとも言えぬ思いをつい抱く悠斗をそのままに、涼真はリモコンを適当な場所に投げ、棚から漫画を取り出した。せめて元の場所にリモコンを置いてほしいが、それを言う前に涼真は何故か悠斗の隣にどかりと座った。


「え、何」

「仕方がねぇから俺が壁になってやるよ」


 壁に。

 悠斗は一瞬何のことか分からなかったが、すぐに冷気が直接当たらないようにと移動してくれたことに気付いた。

 本当に仕方が無いと言わんばかりに大きく肩をすくめる涼真に、悠斗はつい、呆れ混じりに息をついた。


「知ってる? 女の子って寒がりな子が多いんだよ」

「まじで?」

「そう。つまり、今の行動はとても好かれる、と思う」

「おお!」

「しかもさ。さりげなく隣に座れたでしょ」

「確かに!」

「だからって手をいきなり出したら幻滅される」

「えー……むずくね? だってさぁ、家に来てくれるわけじゃん」

「ほら、さっき僕が言ったでしょ。安心できる場所って」

「あー……そっかぁ」


 涼真は感心したように何度も頷いた。

 本当に分かっているのか少し不安にもなる一方、あまりにも涼真が素直に聞き入れてくれるので、悠斗は心配が上回ってきてしまっていた。

 涼真は大事な親友だ。変な相手と付き合ってしまったが最後、騙されたり、おかしなことに巻き込まれないかとついありもしない未来を悠斗は想像してしまった。


「あのさ、涼真。もし誰かと付き合うことになったら僕にもちゃんと紹介してよ」

「当然だろ? 何言ってんだよ」


 意味が分からないと言わんばかりに顔をしかめる呑気な涼真は、あ、と小さく声を漏らした。


「なんか、海行きたくね?」

「……デートって言えば、って感じだね。けどプールじゃなくって海なんだ」

「泳ぐって言ったら海じゃん」


 突然何を言い出すかと思えば。

 涼真のマイペース過ぎる思いつきに、悠斗は大きく息をついた。しかも、だ。


「……デートで泳ぐつもりなんだ」

「は?」

「ううん、何でもない。海ね、海。いつ行く? 明日はバイトなんだっけ」

「そうそう。どうすっかなぁ」


 デートの予行練習だというのに、海でただ泳ぐとは。明らかに友達と遊びにいくのと変わらないことをしようとする涼真に、悠斗はもう一度息をつきながら、スマートフォンを手に取った。

 涼真はせっかく選んだ漫画をそっちのけにスマートフォンを操作し、予定を確認し始めた。

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