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02 定番は食べ歩きか

 夏休み到来。

 早速、平日の昼間に堂々と待ち合わせた悠斗と涼真はすぐに木陰に移動した。


「前回の失敗を踏まえて。ちゃんと調べました」

「変に真面目だよなぁ」


 呆れたように言う発案者の涼真を無視し、悠斗はスマートフォンに映したメモを涼真に見せた。


「こういう感じのルート作ってみた」

「お、食べ歩き?」

「そう。良いでしょ」

「あ、これ食いたかった奴。腹すかせてこいって、こういうことだったのか。やるじゃん」


 時刻は昼を少し過ぎたところ。休日ならまだまだ混んでいる場所でも、平日ならば少しは空いている、はずだと悠斗は予想した。

 そして結果、悠斗の予想は当たった。



 まず、この暑さだ。飲み物が必須である。今話題の果物ジュースを片手に休日よりは少ない、それでも人がごった返している通りを練り歩く。

 ほぼチーズの揚げ物。香ばしい香りに串焼き。肉汁たっぷりのサンド。合間にまた違うドリンクを買って、続いてポテト。

 スイーツは全てパスした。悠斗と涼真も、そろって甘いものは苦手だったからだ。 


「くっ……! お前、なんでじゃんけん弱いんだよ!」

「うるさいな! ありがと!」

「どーいたしまして! くっそ、次は奢れよ!」

「そうするよ。あ、じゃんけんは無しだよね?」

「は? するが? 漢気じゃんけん」


 そして唐揚げだ。じゃんけんをしてどちらが奢るのかを決めるのだが、ここは男らしく買った方が奢るという方法を取った。

 だがその結果、あまりにも悠斗が弱すぎる為に涼真が今のところ全て支払っているという状況になっていた。それはさすがに文句が出るが、頑なにじゃんけんをすると言う涼真に悠斗は大きく肩を落とした。

 次こそ勝たねば。しかしどうやって。

 悠斗は出来たての唐揚げが刺さった棒を受け取り、その場を離れながら大口を開けてかじりつく。


「やっぱり唐揚げだよね」

「分かる」


 うまいうまい、とお互い言いつつ木陰に移動する。

 そして、悠斗ははた、と気づいた。


「ねぇ待って。これってデート?」

「絶対に違う」

「待ってよぉ……! せっかく考えたのに!」


 いや、けどやっていることは同じなのだ。問題は何だ。雰囲気か、会話か。


「やっぱりあの漢気じゃんけんのせいで破綻してる気がする」

「いつもやってるしな」


 冷静に相槌を打つ涼真に、悠斗はじろりと睨む。


「涼真がデートって何って言ったからやってるんだろ!」

「おー、悪い悪い。ちょっとどっか涼もうぜ。それにさすがに腹いっぱいになった」

「他人事だと思って!」


 声を張り上げる悠斗に、涼真は大きく肩を揺らしながら笑い声をあげた。

 もとはと言えば涼真のデートとは、なんていう事を聞いてきたのが悪い。そしてそれに本気で乗っかってしまったのは悠斗ではあるが、それはそれだ。


「もお! 次は勝つから!」

「おお、楽しみにしてるわ」


 そうだ。結局は最後に勝てば良いだけの話である。というか、次で最後なのだが。

 悠斗はじゃんけんに勝つために、一先ずはスマートフォンにじゃんけんの必勝法を検索した。それに気づいた涼真はさらに大きく笑い、腹を抱えながら強く悠斗の背を叩いた。



 そして今日の食べ歩きの最後。コロッケを注文し、悠斗と涼真は向き合い、大きく拳を振り下ろした。

 見えたのは手のひらと拳。

 悠斗は思わず、手のひらから拳を握りしめた。


「よし! 勝った!」

「やっとかよぉ……!」


 涼真は脱力するように両腕をだらりと下げ、大きく息を吐きだした。

 ようやく奢る必要がなくなったから喜ぶだろうと思ったが、予想していた反応とは違ったので悠斗はつい、じっと涼真を見てしまった。


「おい、早く払えよ」

「あ、うん」


 涼真に促され、悠斗は急いで財布から硬貨を数枚取り出して会計をし、コロッケを二個受け取る。すぐに邪魔にならないように脇に移動し、片方を涼真に渡した。


「あのさ、次から奢り方変える? それか、奢るの止めるか」

「ばっか。これが面白いんだろ?」


 分かってないなぁと言わんばりにしかめっ面を見せた涼真は大きな口を開けてコロッケにかぶりついた。


「うまっ。早く食えよ」

「僕が奢ったんだけどなぁ」

「ようやくな」


 涼真の余計な一言に、悠斗はむっと顔を口元を歪めつつ、同じようにコロッケにかぶりついた。

 ほろり、としたじゃがいもとうまみたっぷりの肉が待ってましたとばかりに溢れ、口の中が火傷しそうになる。


「これ、また食べよ」

「だな」


 今日はたくさん食べた。

 話題になっているもの。写真映えするもの。なんだかんだと未だに流行っているもの。けどもやっぱり落ち着くのはこういった話題も写真映えもしないようなものだったりする。しかも値段だって手頃だ。

 そう、結局のところ悠斗はほとんど涼真にあんな高い物ばかりを奢ってもらったのだ。

 デートの予行練習ということで食べ歩きをした。そしておそらくこういう時は、男が奢るか、順番に奢るかのどちらかになるかもしれないと悠斗は考えている。

 涼真からすればある程度は予行練習になっただろうが、悠斗からすれば全敗だ。

 であれば、次だ。


「次、どうしよう」

「お? もう次、考えてくれんの?」

「僕が納得しない」

「あっそ。あ、でも。金あんまかかんねぇ奴にしろよ」

「分かってるって」


 涼真にはたくさん金を使わせてしまった。だから次のデートは金がかからないものが良いだろう。それにこの夏の暑さから逃げられる場所だと最高だ。

 最後の一口を口の中に放りこみ、悠斗はうん、と小さく頷いた。


「明日暇?」

「おー、暇」

「じゃあ、僕の家来ない?」

「やべぇじゃん。家に連れ込むとか」

「あ、でも。勉強道具は持ってきてよ」

「はあ?」


 信じられないと言わんばかりの涼真に、悠斗はにこりと笑った。


「家で勉強会。ある意味定番でしょ?」

「デートじゃねぇって。それ」

「これもある意味おうちデートって奴でしょ」


 よく分からないけど。

 悠斗はさらに文句を言おうとしてくる涼真に対し、何と言って説き伏せようかとすぐに思考を回し始めるのだった。

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