千年の魔女、契約を交わす
「……それだけ、たったそれだけで良いのか?」
「はい。しかしそれだけと言いますが、千年です。貴方方王族には、子に孫に、さらにその子孫にまでこの契約を引き継いで頂かねばなりません」
それだけと言ってしまう王様に、この契約が案外難しい物だと説明をする。事実、大国であるバーゼルでは当代の国王によりこの契約は破棄されてしまった。
もたらされている恩恵が当たり前の物となると、人間は更により良い恩恵を求めてしまう。
実際のところ、魔女との契約は百年が丁度良いのかも知れない。心変わりすれば、その時にまた違う魔女と契約すれば良いんだから。
私との契約を遵守する自信が無いのなら、安易に契約は交わさないで欲しい。
もし次、再び契約が破棄されて裏切られるようなことがあれば、私は人間を嫌いになってしまう。
「むぅ……」
千年という縛りの大きさに、王様が考え込む。
そして私は更に、私がもたらす恩恵について詳しく説明することにした。
「千年の繁栄と安寧とはつまり、私の結界がこの国を千年の間守護し続けると言うことです」
それこそが私の魔法。
しかし結界と言っても、制限はある。
基本的に私の結界は、外からの魔法的な飛来物を完全に無効化することが出来る。
そして人間や魔物を通さないようにすることも出来るけど、人間を通さないようにすると……この国の人々も出入りが出来なくなるため、ソレはしない。
このことを説明した上で、私は言葉を続けた。
「この結界は勿論、私が死ねば消失してしまいます」
私は不老だけど、不死身じゃない。
ありとあらゆる魔法は使えるけど力は人並だし、剣で突かれれば痛いし、普通に死んじゃう。
「そして私は、他国の侵略に一切の助力を致しません」
場の空気が一気に変わるのが分かった。
この国が他国を侵略することに口出しはしないけど、助力もしない。
しかし、他国がこの国を侵略して来た時は、私はこの国を護るために力を使う。
それが私との契約の全てだ。
このことを全て承知した上で判断して欲しい。
私が全ての説明を終えると、また静まり返る。
戦争に協力しない魔女は、契約する価値なんて無いのかも知れない。
さっさと他の魔女を探した方が国のため。そう思っている人だっているかも。
既に私はこの国が好きだ。でも、ここが私の居場所じゃないのなら、私は別の国を探すだけ……。
「何も迷うことなどありません、陛下」
殿下の妹君が、陛下の隣に並ぶ。
「その通りです。彼女の人柄も、私はここ暫く見ておりましたが、ヒオライリス嬢は我が国が求めていた魔女様に違いありません。きっと後悔しますまい」
「う、うむ。そうだな、その通りだとも」
王様、殿下、そして妹君までがそう言ってくれて、ついこみ上げる物を感じてしまう。
「おぉ!」
「ならば、とうとう我が国にも魔女様が!」
「なんと言うことだ!」
「これは夢ではあるまいな!?」
王様達の言葉を聞いて、途端に騒がしくなる人達。
「我がエーデルシア国王。我がエーデル王家は、ヒオライリス・シャントリエリ。貴方様と千年の契約を交わしたく思います」
王様がその場で跪く。
本来なら有り得ない光景だけど、魔女との契約とはそういうことだ。
魔女を迎え入れ、国王と同じ――若しくはソレ以上の立場として国に迎えると言うこと。
そして殿下、妹君も同じように跪くと、遂にはこの玉座の間に集まっていた全ての人がそのまま跪いた。
今、この玉座の間で立っているのは私だけになってしまった。
後は私が一歩前に出て、国王へ手を差し出せば良いのだけど……。
『貴様のような魔女などこの国に必死ないわぁぁぁ!! 死ねっ! 死ねえぇ!』
バーゼル国王に浴びせられた言葉が頭の中で蘇り、手が止まってしまう。
いや、きっとこの国は違う。
チラリと横に目を向けてみると、皆と同じように跪いたオルレアさんの姿が目に入る。
この国を信じてみよう。
勇気を出して、手を伸ばす。
「受け入れましょう。私、ヒオライリス・シャントリエリは、貴国との契約を交わします」
私の手を取った国王が、立ち上がる。
「この国の千年の繁栄と安寧を、約束致します」
玉座の間が歓声に包まれた。




