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千年の魔女、迎えられる

 

「…………」

「…………」


 急ぎ王都へ帰る馬車の中は、酷く揺れていた。

 沈黙が続くせいで、馬車の走る音が嫌に耳に入ってくる。

 チラチラと殿下の様子を伺ってみるけど、何か考え込んでいるのか、腕を組んでずっと目を閉じたまま。

 あの後、私は全てを打ち明けた。

 私がバーゼルと契約を交わしていた魔女であり、障壁であの国を護っていた張本人であること。そして唐突に契約を破棄され裏切られ、命を狙われて逃げ延びたことを。

 すると殿下は、バーゼルの兵士達が完全に撤退したことを確認してから、私とオルレアさんを連れてすぐに王都へ戻る決断をした。


 ただ、それからずっと馬車の中は重苦しい雰囲気で包まれている。


 やっぱり……私は追放されるのだろうか、それとも処刑? 処刑は嫌だなぁ。不老だけど、ちゃんと死んでしまうし。

 いずれにしても、長年敵対し続けている敵国と契約していた魔女である私を、このまま野放しにしておくことなんて有り得ないよね。


「あ、あの……殿下――」

「今は黙っていろ」

「はい」


 見かねたオルレアさんが口を開いても、こんな感じ。

 まさか良心で助けた女が魔女――それも元敵国の。

 誰だってショックだよね。

 どんな罵詈雑言も甘んじて受け入れよう。

 この2人からは、それだけの恩をもらったのだから。


 ◇◇◇


 兵士は引き連れず、私達だけで帰って来た甲斐もあり、夕方に戻って来ることが出来た。

 馬車を降りた先は――王城だった。


「ついて来い。既に早馬は出してある。玉座の間にて陛下がお待ちだ」


 殿下の御屋敷でずっとお世話になってはいたけど、お城には入ったことがない。

 バーゼルのお城と比べても遜色ないくらいには立派なお城だ。

 殿下を先頭にオルレアさんと続き、一番後ろを私がついて行く。

 ビシッと門の衛兵が敬礼しているのを横目に、私は初めてこの国の王城へと足を踏み入れた。

 ふかふかの絨毯が敷かれた廊下を歩き、やがて大きな扉へとたどり着く。


「ロワライア殿下、お戻りになられました!」


 そんな大きな声と共に扉が開け放たれて、前へ進む。

 広い玉座の間には、ズラリと人が並び視線を向けてくる。でも、その表情は決して明るい物ではないような感じ。


「ロワライア! よくぞ戻った、それで? 北の都市ジーゼルハリスを護りきったと言うのは本当なんだな?」


 この人がこの国の王様みたい。

 うん、確かにロワライア殿下に似ている。カッコいいオジサンと言った感じだ。殿下も、年を重ねればこんな風になるのかな。


「はい。都市は壊滅的な攻撃を受けましたが、防衛には成功。バーゼルの軍は全て撤退していきました」


「おお!」


 周りから驚きと称賛の声が上がるけど、すぐに困惑の色が見え始める。


「しかし、またいつ魔女を連れて攻めてくるか……」

「いっそのこと北の都市を放棄して、新たに砦を建設したみては」

「そんなことに何の意味がある?」

「しかし、いったいどうやって魔女を連れたバーゼルの軍を!?」


 と、不安や疑問の混じった様々な話し声で玉座の間は騒がしくなる。


「陛下! やはり我が国に魔女を迎え入れるのは最優先事項! すぐにまた、私が国外へ赴き魔女様を探して参ります!」


 綺麗な人。

 王様の横に控えるように立っていた女の人がそう発言する。

 殿下と同じ金色の髪で、顔立ちも少し……殿下や王様と似た面影がある。もしかして王女様だろうか。

 バーゼルがまたいつ攻めてくるか分からない。それまでに魔女を探して契約を取り付けなければと、急ぎ出発しようと歩き出す。


「待て、魔女を探しに行く必要は無い」

「な……兄上! 何を言うのです! 魔女の力は絶大! あの北方都市ですら、魔女の力の前では一夜で崩落したのですよ!? なんとしてでも魔女……いや、魔女様を我が国にも迎えなければ!」


 やっぱり殿下の妹君だったその人は、必死に魔女の重要性を話す。

 積極的に戦争を仕掛けてくるバーゼルやその他の国から自国を護るためにも、魔女の力は必要だと。


「必要ない。必要ないのだ、妹よ」


 訳が分からないと言った妹君の顔。そして私を見る殿下。

 殿下の視線に導かれて、この場の皆の視線が私に集まってくる。


「陛下、この娘こそ魔女。バーゼル軍を撃退し、北の都市を防衛して下さった魔女様なのです」


 と、仰々しく私を紹介する殿下。


「え!? あの、殿下? これはいったい」


 バーゼルと契約を交わしていた魔女だからと、てっきり罵詈雑言を浴びせられるんじゃないかと思っていただけに戸惑う。

 そして、薄々と話の流れが見えてくる。


「その、メイドの娘が魔女……?」


 殿下の屋敷でメイド見習いとして働いている私の今の装いはメイドそのもの。とても魔女の威厳ある衣装ではない。


「その者はたしか……お主が保護したと言っていた娘ではないのか?」

「はい。バーゼルより亡命して来た娘だと思っておりましたが、その正体はどうやら魔女だったようです。その力、この目でしかと見届けました。私だけではなく、側近のオルレア、更には北の都市の住民や多くの兵も目撃しております」


「なんと……」

「そんなまさか」

「しかし、そうでもなければバーゼルの軍を追い返せまい!」


 集まっていた偉い人達が騒ぎ始めたかと思えば、どよめきが上がる。

 ヨロヨロと、王様が玉座から立ち上がったからだ。

 そしてゆっくりと、王様は私の傍までやって来る。


「い、今の話は本当か? 本当にお主は魔女で、北の都市を救ってくれたのか?」


 ガシッと肩を掴まれる。

 くわっと目を見開く王様の迫力に圧倒されそうだけど、私は魔女。

 魔女として、自分の身分を隠すことはあっても偽ることは出来ない。


「は、はい。私の名は――ヒオライリス・シャントリエリ。その……今はどの国とも契約を持っていない、魔女です」


「おおっ!!」

「本当に魔女様!?」

「ようやく我が国にも!?」


 視界の端で、先程まで大きな声を出していた殿下の妹君がへなへなとその場に座り込む姿が見える。

 泣いているみたい。


「し、失礼を承知でお訊ねする。貴方様が契約によりもたらしてくれる恩恵をお教え願いないだろうか?」


 魔女が国と契約することでもたらす恩恵は様々。

 国を豊かにする魔女も存在すれば、今のバーゼルのように積極的に戦争に参加してくれる魔女もいる。

 でも、私の契約は今も昔も変わらない。

 そしてその恩恵を問われれば、私は魔女としての立場をもって答えなければならない。


「私はヒオライリス・シャントリエリ。千年の魔女です。私と契約を交わすのなら……この国、そして一族千年の繁栄と安寧を約束しましょう」


 メイドの衣装ではあるけど、魔女として威厳のある態度で言えた筈。


「せ、千年!? 百年の間違いではないのか?」


「わ、私は不老の千年の魔女です。他の魔女とは違って、千年単位の契約しか受け付けておりません……」


 やっぱり千年なんて大きな契約、そう簡単には交わしてくれないのかな。

 バーゼルが特殊な国で、この反応が普通なのかも知れない。


「それでヒオライリス嬢、貴方は何を望まれる? 魔女として、この国に求める物は何だ? 知っての通り我が国は小国。貴方の求める物を我が国が所有しているかは分からない」


 一歩前に出たロワライア殿下。


「差し出せる物なら何でも差し出す。叶うのなら、我が国は、貴方との契約を結びたい」


 と、付け加える。


 王様、そして殿下の妹君も深く頷いている。


 玉座の間に集まっている人達が、私の返答をジッと待つ。

 期待と不安、そんな色んな感情が混ざった視線が集まってくる。どんな無理な物を要求されるのかと怯えている人もいるみたい。

 勿論、私が求める物だって、今も昔も変わらない。


「私はただ……安らぎを求めます。千年の間、この国が私の居場所になってくれることを求めます……」



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