千年の魔女、戦地へ赴く
殿下の屋敷の外は、既に物々しい雰囲気だ。
ズラリと兵士と軍馬が並び、殿下に敬礼の構えを取る。
この兵士達と共に、私はこれから殿下とオルレアさんと北の都市へと向かう。
殿下に連れられて、私も共に馬車の中へと案内された。
「少しの時間も惜しい。すぐに出発する」
殿下がそう言うと、集められた兵士達はテキパキと動き出す。
バーゼルに攻められている北の都市へは、丸1日程かかるらしい。
動き出した馬車の中で、殿下はドカリと腰を降ろす。その隣にオルレアさんが座り、殿下と対面する形で私も腰を落ち着けた。
「しかしヒオライリスさん、本当に分かっているのですか? 私達はこれから戦争に向かうのですよ? 私は殿下の護衛が使命……貴女の安全にまで気は回りません」
「……はい、私のことは気にしないで下さい」
ついさっき、屋敷の中での会話を思い出す。
『私も連れて行って下さい!』
そう言ったが、当然二人には最初は断られた。
二人にとって私は、バーゼルから迷い込んだか亡命して来た娘。戦う力なんて何一つ無い、今は屋敷のメイド見習いに過ぎない。
足手まといになることはあっても、役に立つことなんて無い。
でも何か、些細なことでも役に立てることがある筈。そう必死に訴え続けることで、同行を許可してもらえた。
「もう良いオルレア。どのみち、北の都市が落とされてはこの国に未来は無い。早いか遅いか、ソレだけのことだ」
「し、しかし殿下……」
オルレアさんは、私がついて行くことに最後まで反対し続けた。
きっと、私の身を案じてくれているんだ。
バーゼルから逃げて来た私を、何も聞かずに受け入れてくれた二人。
北の都市で、何か返せる物がある筈だ。
「そんなことよりも、私達が到着するまで北の都市が持ち堪えられるかどうかだ。魔女の魔法により既に壊滅状態だと聞く、もしもう一度、魔女の極大魔法が使われでもしたら……」
「……」
考えてはいたけど、敢えて口にしなかった可能性。
でも可能性としては十分に考えられる現実。
馬車内の空気が一気に重たくなったのが分かる。
でも――
「大丈夫だと思います」
二人の視線が同時に私の方へと向けられた。
「街を壊滅させる程の大魔法なら、連続では行使出来ない筈……少なくとも、私達が到着するまでにもう一度行使することは不可能です」
いくら魔女と言えども、そんな強力な魔法は何度も使えない。
例外の魔女も存在するけど、私の後にバーゼルと契約した魔女……あの時、私を殺そうとした行使された魔力から察するに間違いないと思う。
「魔女について、やけに詳しいようだな」
疑われてる……よね?
やっぱり、私はまだ殿下に信頼される程の人間じゃない。ソレは分かっている。
「以前まで、バーゼルに住んでましたから……多少は」
私も魔女だから。
そう言ってしまえば楽になれそうだけど、言えない。もしかしたら、今すぐにでも追い出されてしまいそう。仮に追い出されても恨むことなんて無い。でも、二人をこのまま死ぬと分かっている場所に行かせることは、もっと嫌だ。
「だが、そう言ってもらえれば少しだが気持ちは楽だ。とにかく今は、我々は北の都市へ向かうことしか出来ないのだからな」
問題は到着した後。
北の都市に援軍が到着したとなれば、バーゼルの魔女は間違いなく2度目の魔法を行使してくる。そうなれば、都市は終わりだ。殿下やオルレアさんも無事では済まない。
そんな事は殿下達も勿論承知している話で、今もどうやってバーゼルの軍を追い返すかの案をオルレアさんと出し合っている。
結果、やはり戦況を変えるには魔女を討つしか無いとの結論に至る。
魔女の命さえ奪うことが出来れば、バーゼルは軍を引き上げるだろうという話だ。
「オルレア、魔女の討伐はお前に任せる」
「はっ!」
オルレアさんしかいない。そう言わんばかりに、殿下は迷いなく言った。
オルレアさんも、当然のように返事をする。
この2人の間には、絶対的な信頼関係が構築されているみたい。
そう思うには十分なやり取りを、私は前に座って眺めていた。
そして私達の乗る馬車は、丸1日をかけて目的の場所へと辿り着いた。




