千年の魔女、邂逅する
「わ、私は、大国バーゼルからやって来ました」
どうにか絞り出した声。
チラリとオルレアさんの表情を窺うと、目尻が細まったのが分かった。
「バーゼルから……?」
明らかに声質が低くなった。
そうよね。自分が親切で助けた女が、今まさに自国を侵略している国からやって来ただなんて口にしたら、そんな表情にもなるわね。
私は黙って頷くことしか出来ない。
この国の人たちにとってバーゼルという大国は、それだけ憎むべき存在。オルレアさんの表情を見たら、そんなことは聞かなくても分かってしまう。
私が『大国バーゼルと契約していた魔女』だと言えば、追い出されてしまうだろうか? いや、もしかしたら命の保証すら無いのかも知れない。
「私はバーゼルと――」
だとしても、他人の親切に甘えて自分を偽ることは出来ない。
私は、大国バーゼルの……あの愚かな国王とは違う。自分を助けてくれた相手を裏切ることはしたくないわ。
『私はバーゼルと契約していた魔女』
そう告白しようと口を開く――だけど。
「そうですか、バーゼルから」
オルレアさんの言葉によって遮られてしまう。
まるで、私に最後まで言わせないようにした、そんな感じ。
「何か事情がお有りなのでしょう」
そう言いながら、オルレアさんは立ち上がった。
そして扉の方に視線を向けて言葉を続ける。
「丁度、ロワライア殿下もお戻りになられたようですので、お話はまた後程にでも」
確かに、この部屋へと向かってくる人の気配を感じる。
暫く扉を見つめていると、部屋の扉がカチャリと開かれる。
「お帰りなさいませ。ロワライア殿下」
開いた扉から姿を現した男性に、丁寧な所作で腰を折るオルレアさん。
なるほど、この人がこの国の第一王子。ロワライア殿下みたい。
思わず見惚れてしまいそうになるほど綺麗な金色の髪。
そんな髪の色に負けないくらいの、これまた吸い込まれそうな金色の瞳をしている。
整った顔立ちをしていて、私が長い年月を生きている魔女じゃなかったら惚れているかも知れない。
「あぁ。そうか、目を覚ましたのか」
「はい。先程お目覚めになられましたが、まだ体力は完全に回復していないかと」
金色の瞳が私を見ている。
申し訳ない気持ちでいっぱいになり、堪らず目を逸らしてしまう。
「あ、あの! 助けていただき、ありがとうござい――わわっ!?」
立ち上がってお礼を言おうとしたけど、ロワライア殿下に押し戻される形でベッドに再び寝かされてしまう。
「まだ万全では無いのだろう? 礼なら、しっかり元気になってからにしてもらおうか」
「は、はい」
正直、体力はちゃんと回復していると思う。
でも、バーゼルで裏切られた一件を引きずってしまっている精神面を見透かされているみたい。
言われた通り、もう一度休んでからちゃんと自己紹介とお礼を言わせてもらおう。
「何かあればソコのメイド、オルレアに言ってくれればいい」
殿下の言葉に従うように、オルレアさんがペコリと腰を折る。
「この屋敷内では好きに過ごしてくれれば良いが、オルレアの目の届かない所には行くな。それだけ守ってくれれば、傷が癒えるまで居てくれて良い」
やっぱり、完全に信用されている訳ではないみたい。
そりゃそうよね。二人からして見れば、私はどこからやって来たのか分からない奇妙な女。
オルレアさんは、私の監視役でもあるみたいね。
「ありがとうございます」
それだけ言って再び横になる。
殿下は軽く笑ってから、部屋を出て行った。
完全に信用されていないのは勿論だけど、それでも二人から嫌な感情と言った物は感じ取れなかった。
この二人と、仲良くなれたら良いけど……私がバーゼルと契約していた魔女だと打ち明けたら、それは叶わないのかな。




