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千年の魔女、側近を得る

 

 ――コン、コン、コン。


「ヒオライリス様、お目覚めでしょうか?」


 控えめなノックの音に目を覚ます。

 少し興奮が収まらないせいもあってか、昨日はあまり眠れなかった。寝つきも浅く、簡単に目を覚ますことが出来た。

 軽く返事をすると、カチャリと扉が開かれる。


 部屋にやって来たのはメイドさん。

 とても綺麗な銀髪の美女。オルレアさんだった。


「ヒオライリス様。朝食の準備が出来ておりますよ?」

「え、えっと……?」


 昨日、無事にこの国と契約を交わすことが確定した私だけど、疲れているだろうということで再び殿下の御屋敷へと帰ってきた。

 で、ベッドに入って今日になった訳だけど――


「あ、失礼致しました。私、本日よりヒオライリス様専属の護衛兼側近兼秘書兼メイドの――オルレア・シーナと申します。よろしくお願い致します」

「――?」


 相変わらず見惚れてしまいそうなくらい優雅な一礼だけど、そんな場合じゃない。


「え……オルレアさんはロワライア殿下専属のメイドさんじゃ……」

「はい。ですが本日よりヒオライリス様専属の護衛兼側近……メイドとしてお世話させて頂くこととなりました」

「どうして……」

「状況が変わりましたので。我が国にとって初めての契約魔女様であられるヒオライリス様は、国王陛下と同等以上の権力と立場を有されることになりました」


 昨日の王族の方々の態度から分かっていたことではあるけど、まさか既に殿下専属のメイドさんだったオルレアさんが私の専属になってしまうなんて、嬉しいけど少し複雑な気分。

 殿下からオルレアさんを奪ってしまったようで、申し訳ない気持ちが少しだけ込み上げてくる。


「勿論、ヒオライリス様の自由は保証致します。その上であらゆる危険因子からお護りするのが私の務めにございます」


 少し手厚過ぎる待遇なんじゃないかなぁ。なんて思うけど、この国にとって私は初めての契約魔女。国のためにも、私の身の安全は確保しておきたいということなんだろう。


「ではヒオライリス様。身嗜みを整えて、朝食にいたしましょう」

「……はい」


 オルレアさんが用意してくれたら衣装に着替えて、これまたオルレアさんが私の髪を整えてくれる。

 衣装も髪型もバッチリと決まってから、私はオルレアさんと共に部屋を出た。


 ◇◇◇


「あ……おはようございます。殿下」


 テーブルには既にロワライア殿下が着席していた。

 食事は既に並べられ、殿下はまだ手を付けていない。私のことを待ってくれていたみたい。


「ヒオライリス嬢……昨日はよく――眠れなかったみたいだな」

「は、はい」


 実はさっきもオルレアさんに『少し眠たそうなお顔をしています』と言われてしまった。そんなに顔に出てるのかな私。

 それよりも、殿下の傍に新しいメイドさんが控えている。オルレアさんの後任……だよね、どう考えても。


「このメイドは、新しく私専属のメイドとなったカトレアだ。オルレア程ではないが、かなり腕は立つ。十分に護衛としての職務もこなしてくれるさ」


 私の視線に気がついた殿下が、メイドさんを紹介してくれた。


「ははは、初めまして! ま、魔女様っ! カトレア・リースリンデと申します!! どうか、お見知りおきをお!」

「え!? は、はい! よろしくお願いしますっ」


 可愛らしい人。パッと見た感じでそんな言葉が浮かぶメイドさん。

 ガチガチに固まってしまった、オルレアさんとは比べるべくもないぎこちない一礼を見せてくれた。


「オルレアのことは気にしないでくれ。ヒオライリス嬢はこの国にとって最も大切な存在である魔女。ならば、この国で最も信頼のある者に護衛を任せるのは当然のことだ」


 席に着く私を見ながら、殿下がそう話してくれる。

 そして慣れた手つきで、オルレアさんが私に飲み物を注ぐ。

 なんだかこそばゆい扱いだけど、殿下がこれまで通りの言葉遣いでちょっとだけ安心。

 殿下にまでヒオライリス様だの魔女様だのと言われてしまったら、たまったものじゃない。

 もしかしたら殿下は、私のこんな性格を察してくれているのかも知れない。


「ありがとうございます」


 飲み物を注いでくれたオルレアさんにお礼を言うと、ニッコリと笑ってから私の斜め後ろに一歩下がる。

 テーブルを挟み、殿下と対面する形で朝食をいただくことになった。


 ◇◇◇


「パレード……ですか?」

「あぁ。我が国に魔女様を迎え入れたことを、大々的に国民に発表するために開催する。この国に魔女様が存在していなかったことを民も憂いていたからな」

「それって、つまり」

「勿論、主役はヒオライリス嬢だ」

「――ッ!?」


 思わず口に含んだ珈琲を吹き出してしまう。

 慌てず騒がずテキパキと、私の口をハンカチで拭うオルレアさんに、テーブルを拭き取るカトレアさん。


「その多くの国民が見ている前で、ヒオライリス嬢の結界魔法を行使してもらいたい」

「ま、まぁ、ロワライア殿下がどうしてもと仰るなら……」


 それが契約魔女としての務めなら。


「そして次に、王城のすぐ近くにヒオライリス嬢の宮殿を建設する予定だ」

「え……宮殿、ですか」


 私のためにどこまでするつもりなんだろう、この国は。


「いつまでも私の屋敷に住んでいる訳にもいくまい。メイド見習いでもあるまいし」


 たしかに。

 メイドならまだしも、いつまでもこの屋敷に世話になる訳にもいかないよね。


「その宮殿の警備や護衛を担当してもらう近衛騎士……つまりはヒオライリス嬢専属の近衛騎士も、ゆくゆくは選抜するつもりだ。場合によってはヒオライリス嬢にも選んでもらうかも知れん」

「……」


 なんだか、凄い期待されているみたい。

 私は、この国にとってソレだけの大切にされる存在なんだ。

 頑張ろう。この国が、私の千年の居場所になってくれるように、私も精一杯この国を千年の間護り続けよう。


「ヒオライリス嬢は――」

「ヒオラ」

「――?」


 私の名を呼ぼうとする殿下の言葉を遮るように口を開く。


「ヒオラです。ヒオラと呼んで下さい。殿下、それにオルレアさんには、そう呼んで欲しいんです。良かったら、カトレアさんも」


 つい立ち上がってしまった。


「ヒオラ様……このオルレア。万が一ヒオラ様の身に危険が迫った時は、この命に代えましても、ヒオラ様をお護り致します。なのでどうか、この国を……どうかよろしくお願いします」


 その場で跪くオルレアさんの姿を見て、殿下は頷いていた。


「約束します。魔女として、この国を千年……護り続けると」


 カトレアさんは、顔をくしゃくしゃにして大泣きしていた。



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