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第三話 試練と確信

犬の整体師として一歩を踏み出した智樹は、次第に飼い主たちの信頼を得るようになっていく。

痛みから解放され、再び歩けるようになった犬たちの姿に、喜びの涙を流す人々。

その光景は、かつて心に傷を負った智樹自身をも癒していった。


しかし、評判が広がる一方で、整体という行為に対する誤解や偏見もまた、智樹の前に立ちはだかる。

「それは本当に医学なのか」「一時的な気休めではないのか」――

周囲からの疑問と、専門家としての責任との狭間で揺れる中、智樹は改めて自分の施術に向き合うことになる。


そして訪れた、ある老犬との出会い。

それは彼にとって、“技術”を超えた“信頼”の意味を試される時間だった。

智樹の整体院は、SNSでの評判と口コミにより、次第に遠方からも多くの飼い主が訪れるようになっていた。


彼の施術は「奇跡の手」と呼ばれ、

犬たちが再び元気に走り回る姿を見た飼い主たちがSNSにその喜びを投稿していたからだった。



そんな中、ある日、智樹の元に動物病院の獣医師である村上という人物が訪れる。


村上は地元で腕の良いと評判の獣医師であり、智樹の噂を耳にし、不安を感じていたのだった。



「整体なんて科学的な根拠もない施術が犬の治療に役立つのか?」と、彼は智樹に疑問をぶつけた。


「あなたの施術に頼りきってしまい、必要な医療を見逃してしまうリスクもあります」


村上の冷たい視線に、智樹は一瞬ひるんだ。


しかし、智樹はこれまでの経験や、施術後の犬たちの回復を思い出し、自分の施術が飼い主と犬にとっての「二度目の幸せ」を取り戻すものであると信じていた。


彼は村上に対して丁寧に応えた。



「私も、整体がすべての解決策だとは思っていません。ただ、少しでも犬たちが楽になれるよう、飼い主さんと協力して、慎重に施術を進めているつもりです」


その真摯な言葉に、村上も少し驚いた表情を見せる。

その後も智樹は村上の指摘を胸に留めつつ、自分の施術に向き合うことを決意した。


数日後、智樹の整体院を訪れたのは、フレンチブルドッグの「チョコ」とその飼い主だった。


チョコは脊椎疾患を患っており、腰の部分で神経が圧迫されて歩行が不安定になっていた。

痛みも伴い、座るのも辛そうで、飼い主も長年の病状に疲れ切っていた。



智樹はまず、チョコの歩き方や姿勢を細かく観察し、どの部分に負荷がかかっているかを見極めた。


フレンチブルドッグは体型的に腰に負担がかかりやすく、特にチョコの場合、腰の筋肉が異常に硬くなっていることに気づいた。

智樹は慎重にチョコの腰に手を置き、ゆっくりと圧をかけながら、筋肉をほぐし始めた。


施術は非常に繊細な作業だった。


圧を加えすぎるとチョコが痛がるため、智樹はチョコの表情や体の反応を見ながら、呼吸に合わせて軽く圧をかけ、腰の筋肉を少しずつほぐしていく。


特に背骨を支える周辺の筋肉が凝り固まっていたため、そこに小さな円を描くようにマッサージを施し、血流が流れやすくなるよう意識した。


次に、智樹はチョコの後脚に移り、神経の負担を軽減するために後脚の筋肉を柔らかくほぐしていった。

軽くストレッチを加え、脚の可動域を広げることで、歩行時の負担を減らす工夫を施した。


智樹は飼い主に対してもアドバイスを行い、「家でも後脚のマッサージを軽くしてあげてください」と助言した。



施術が終わると、チョコは最初は不安そうに足を踏み出したが、やがて自信を取り戻し、飼い主の方へと歩み寄った。


腰の痛みが和らいだのか、チョコは歩き方も自然になり、飼い主はその様子に涙を浮かべながら、「チョコがまた歩けるなんて…本当にありがとうございます」と深々と頭を下げた。



その日の夜、智樹は自分の施術について深く考えていた。

村上から指摘された言葉が胸に残る一方で、自分の施術が犬たちのためになっているという確信もあった。

智樹はふとSNSを開き、飼い主たちが投稿してくれた「施術後の変化」や「犬たちの笑顔」の写真を見つけ、自然と微笑みがこぼれた。


「飼い主と犬がもう一度幸せな時間を過ごせるなら、やはりこの仕事を続ける価値がある」


智樹の整体院は今や「犬と飼い主が再び希望を持てる場所」として少しずつ広まり、多くの飼い主から感謝のメッセージが寄せられていた。


村上の言葉をきっかけに、智樹はさらに施術の安全性を意識し、飼い主や獣医師とも協力しながら、一歩ずつ自分の道を進んでいくことを決意する

第三話では、智樹が“整体師”として社会の中で立つための覚悟と葛藤を描きました。


彼の前に立ちはだかったのは、犬を想う獣医師の正義でした。

それは敵意ではなく、命に向き合う者としての「本物かどうか」を見極める視線。

この章で描きたかったのは、そうした“専門家同士のぶつかり合い”の中にも、

信頼や連携が芽生えていく可能性があるということです。


犬に触れる手は、目に見える治療だけでなく、飼い主の希望や後悔、不安も受け止めています。

だからこそ、智樹の手は、ただの技術ではなく、「心の橋渡し」であってほしいと願いながら執筆しました。


本作を通じて、読者の皆さんが“言葉を持たない命の声”に、少しでも耳を澄ましてくださったなら嬉しい限りです。


第四話では、さらに多くの飼い主と犬たちとの出会いが描かれます。

どうぞ次回もお楽しみください。


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