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29.騎士団長の娘(1)

 私は必死に状況を理解しようとした。


 ここは聖堂の塔の最上階で、『ルシアン王子がお呼びです』と言って私をここへ連れてきたのは、王族の間にいた近衛騎士。

 だがこの部屋にいたのは私の叔父で、私はここに叔父と一緒に閉じこめられてしまった。

 つまり、叔父は魔導士を使って近衛騎士に闇魔法をかけ、操っているということだ。


 あの金髪の近衛騎士はルシアン王子とレイさんと私が「ねずみとり作戦」について話しているあいだもずっと王族の間にいて、すべてを聞いていた。

 この作戦は、最初から叔父に筒抜けだったのだ。


 本部棟の鐘楼から、お昼の鐘の()が鳴り響く。


 私は両腕でぎゅっとショルダーバッグを抱きしめた。

 そして、ためらいがちに指摘した。


「叔父様……近衛騎士に闇魔法をかけて操ることは、重罪です……」

「それがなんだ? 発覚しなければ、していないのと同じことだろう」

「……騎士団のお金を横領することもですか?」

「ふん。騎士団は最初から私にその金を払うべきだった。私は騎士団に命じられた任務中に、一生治らない傷を負ったのだからな」


 眼帯をつけた叔父が、片方だけの目でギロリと私をにらむ。


 ルシアン王子の話では、十年前に叔父が任務を失敗し多数の負傷者を出したとき、『十分な準備と対策を講じていれば防げた被害だ』という声も上がっていたという。

 だが叔父はそうは考えず、騎士団を逆恨みしているようだ。


「できそこないの姪のくせに、私たちの周りをこそこそと嗅ぎまわり、よけいなことばかりしてくれたな……だが、それも今日までだ。騎士団の金を横領したのは()()()だ。おまえが聖堂から寄付金を盗み、すべての罪をかぶって捕まるんだ」

「え……」


 全身の血の気がざあっと引いていく。


 叔父は私を魔法で操り、私に横領の罪を着せようとしているのだ。


「私は経理部長だ。面白くもない仕事だが、私が書類にちょっと細工をしてやれば、おまえに罪をかぶせることなど造作もない。こっちには魔導士だっているしな。あの澄ました顔の第二王子にも、吠え面かかせてやろうじゃないか……そうだ、全員の前で『緑陰の騎士』レナードにおまえを断罪してもらおう。おまえもあの騎士のファンなんだろう? ハハッ、最後に顔を拝ませてやる」

「……叔父様……こんなことはやめてください。セリーナ姉様のためにも、きちんと罪を償ってください」


 彼は忌々しげに私をにらみつけた。


「黙れ! なんのとりえもないおまえが偉そうに、兄貴のようなごたくを並べるんじゃない! くそっ、ザックスはまだか!?」


 そのとき、扉の外から足音が聞こえてきた。

 鍵を開ける音がして、扉が開く。


 入ってきたのは、セリーナ姉様と、あの赤髪の魔導士だった。


「ふん。やっと来たか、ザックス」


 叔父が口の端を持ち上げる。

 ふたたび扉が閉まり、私は三人に取り囲まれる形になった。


 遠くの方から、パレード隊が奏でる音楽が聞こえてくる。

 私がここにいることはこの三人以外誰も知らない。

 私は完全に孤立無援だ。


 セリーナ姉様が私を見て、勝ち誇った笑みを浮かべた。


「あら、アシュリー、ごきげんよう。お父様から話は聞いた? あなたはこれから魔法をかけられて、騎士団を裏切る罪人になるのよ」

「セリーナ姉様……」

「そんなすがりつくような顔をしたって駄目よ。これはもう決定なの。だってあなた、屋敷を追い出したらのこのこ騎士団にやって来て、ただの事務員のくせにルシアン王子やレナード様にちょっかいを出して……本当に目ざわりなのよ! この騎士団はあたしがお婿さんを探すための、あたしのテリトリーなの。これ以上邪魔をしないで!」

「セリーナの言う通りだ。しみったれた騎士団だが、せいぜい俺たちの役に立ってもらわんとな」


 ぎゅっと拳を握りしめた。


 私は前騎士団長、アレン・エルウッドの娘だ。

 これ以上黙っているわけにはいかない。


「取り消してください」

「は?」


 叔父たちは冷たい視線を私に向けた。

 私はその視線に負けないように、一言一言、はっきりと口にした。


「騎士団は、人々を魔物から守るための大切な存在です。だからこそ父は騎士団であることに誇りを持っていました。私も、誇り高い騎士団の一員です。叔父様とセリーナ姉様だって……同じでしょう? さっきの言葉、取り消してください」


 一瞬、二人は思いがけないことを言われたように立ち尽くした。

 だが、すぐに叔父が怒鳴り声をあげた。


「うるさい、おまえに何がわかる! ザックス、早くこの小娘に魔法をかけろ!」

「承知した」


 赤髪の魔導士が私に近づいた。

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