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23.恋は何色(1)

 恋をしていると自覚してから、なんだか調子がおかしい。

 仕事中もぼーっとしてしまうし、ケアレスミスが増えたし、上の空になって話しかけられても反応できないことがたびたびある。


 そして、気がつくといつもレイさんのことを考えてしまっている。

 どうして今まで自分の恋心に無自覚でいられたのか、今となっては不思議なくらいだった。


 今日は木の曜日で、普段ならレイさんと遅い時間のランチを食べる日だ。

 でも夏至祭が終わるまでは忙しくて一緒にランチを食べられなさそう、とあらかじめ言われている。

 残念だけど仕方がない。


 わかってはいるけれど、森の木陰や舗装道路(ペーブメント)に、いつのまにか長身のローブ姿を捜してしまっているのだった。




「……いたわ」


 ようやく仕事が終わり、遅いランチを取ろうと本部棟へ歩いていたら、隣接した屋外訓練場にレイさんの姿を見つけた。

 にわかに信じられず、立ち止まって思わず二度見してしまう。


 いや、あれは間違いなく彼だ。

 あの長身。夏なのに目深に被ったあのフード。あの長いアッシュブロンドの前髪。


 訓練場で見かけるのは初めてだった。

 他の騎士と手合わせをしている最中らしく、訓練用の鉄の剣がぶつかり合う硬質な音が絶え間なく聞こえてくる。


 あの鉄の剣は総務部が最近思い切って新調したものだからまだ真新しい。

 刃を合わせるたびにキィン、といい音がして、剣を振るう騎士たちもなんだか生き生きと楽しそうだ。

 うん、総務部はいい仕事をしている。


 レイさんは騎士たちの中で一人だけフードを被っているのに、あんなに前髪が長くて視界も悪そうなのに、難なく手合わせに勝ってしまった。

 はじめて会ったときも一撃で魔物を倒していたから、きっととても強いのだろう。


 地面に尻もちをついた相手の騎士に手を差しのべ、立つのに手を貸してあげるレイさんはかっこよくて、思わず見とれてしまう。


 ふと、その姿が誰かと似ている気がした。見たことのある誰かのような……。

 でも、あんなにかっこいい騎士なんて、他にいたかしら?


 レイさんと他の騎士たちは、タオルで汗を拭きながらぞろぞろと訓練場を引き上げていく。

 急に胸の鼓動が速くなった。

 訓練が終わったのなら、もしかして、今日は一緒に食堂でランチを食べられるかもしれない。


 けれど訓練場の端にある屋根付きのベンチに腰を下ろした騎士たちは、そこで食事をするようだった。

 テーブルにたくさん並べられていた茶色い紙袋をめいめいが手に取り、中のサンドイッチをぱくつきはじめる。


 だが、レイさんは最後まで生真面目に鉄の剣の手入れをしていた。

 一人の騎士が、そんな彼の腕を引っぱって呼んだ。

 小柄で長い金髪の女性騎士だ。


 レイさんはすぐに剣をしまって、その女性騎士と一緒に並んでベンチに座り、彼女の差しだしたサンドイッチを食べはじめた。

 二人は、とても楽しそうにおしゃべりをしている。


 仲の良さそうな様子に、ズキン、と胸が痛んだ。


 すぐにその場を離れ、一人で本部棟の食堂へ行った。

 ……別に、レイさんが他の女性と仲良くしたって全然構わないわ。

 私はただのご飯友達だし……。


 今日のメニューにはサンドイッチもあったが、なんとなくそれを避け、オイル漬け魚の冷製パスタを注文した。

 でも、美味しいはずのパスタの味は、なぜか塩辛さしか感じなかった。


 △△△


 午後の仕事はびっくりするほど(はかど)らなかった。

 こんなことでは駄目だと思い集中しようとするのだけど、レイさんとあの女性騎士の仲の良さそうな姿が脳裏にこびりついて離れない。

 私は悪い病気にでもかかってしまったのだろうか?


 休憩時間になっても自分の席でうつむいて書類を見つめていたら、フローラルな香りが漂ってきた。

 見上げると、私の教育係メンターのモード先輩が分厚いファイルを抱えて立っている。

 彼女は三本の指を立てて言った。


「三回目」

「え? 何がですか?」

「あたしがここに立ってからのエルウッドさんのため息。何かあったの?」


 私はそんなにため息をついていたのか、と顔が熱くなる。


「あ、いえ、なんでもないんです。それ、チェックする備品のファイルですか?」

「ええ、そうだけど……」


 モード先輩はちらりと私の机を見た。

 処理すべき書類が、すでにどっさりと積み上がっている。


 今日も夜まで残業ね、と思いながら受け取ろうとしたら、先輩はファイルをぽいっと自分の机に置いて、私の手を取った。


「また今度でいいわ。ねえ、ちょっと外に出ない?」

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