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6-9「試験の名」

 ミリシャがギルドマスターへ連絡しに向かって数分後、我らは個室へと案内された。

 ソファに座りのんびりと待っていると、また少しの間を置いて優男風の理人エルフが入室してきた。見覚えがある。彼がギルドマスターだ。


「やぁ、久し振り……というには少しばかり早い再会になったかな」


 理人とはエルフやドワーフなど幾つか種類がある。共通するのは人間にかなり近い容姿と、竜人ほどではないが人間を大きく超えた寿命を持つ事だ。

 従ってこのギルドマスターも見た目ほど若くはないのだろう。だからこそ、一ヵ月以上経った今も久しいという感覚がないのかもしれない。

 ……いや、一ヵ月程度なら実際に久し振りでもないのか。中々に濃い経験をしてきたせいか、我の方が実際の日数よりも長いように感じているのかもしれない。


「やっほー! ギルマスも元気してるー?」


 我の隣で、ミリーが同世代の親しい友人に話しかけるような気軽さで挨拶しだした。

 その余りの傍若無人ぶりに、ギルドマスターも困惑している様子だ。半ば呆れたように大きくため息を吐いて、重たそうに口を開く。


「君はもう少し年上を敬った方がいいね」

「ミリー……ミリシャと態度が違いすぎぬか?」


 流石の我もミリーの態度に呆れてしまう。確かにミリーは貴族めいた礼儀作法は苦手としていたが、ここまで相手の身分を考えない子供ではなかったと記憶している。少なくとも、先ほどミリシャと対峙した時は敬語こそ使わずとも相手を敬う姿勢があったはずなのだが。


 我とギルドマスターからの視線を受け、ミリーは少々気まずそうに苦笑いを浮かべていた。


「いやぁ、ミリシャさんはほら、大人のお姉さんって感じじゃん?

 ギルマスはさぁ、親戚のおじちゃんみたいな感じなんだよねー。ほら、パパの友達だし」


 なるほど。我は知り得なかったが、親密だからこその態度だったようだ。とはいえ、場を弁える必要性は考えてもらいたいところだ。事情を知らなかった我は面食らった。これが他の者であれば、ミリーを咎めるか冷や汗をかいていた所だろう。


 ギルドマスターもわざとらしく咳払いをして、場の空気を整えようとしていた。


「別に親戚のおじさん扱いはいいんだがね、親戚のおじさんにも敬意は払ってほしいところだな」


 やんわりとした注意を促される。怒っているというよりは戸惑っている様子な辺り、気心の知れた仲ではあるのだろう。


「まぁまぁ、それは今後の課題って事にしてさ。今はランクアップだよ!」


 注意を受けたミリーは悪びれた様子なく苦笑を浮かべて話を逸らそうとする。


「あからさまに話を逸らすな……まぁ、いい。二人ともBランクに上がりたいって話だったね」


 それ以上の注意は無駄だと悟った様子のギルドマスターがミリーの誘導に乗る。


「うむ。闘技大会に出る為に必要になったでの」

「サクラさんが出るのはまぁ分かるが……ミリーもねぇ」


 ギルドマスターが訝るように再びミリーへ視線を向ける。確かにミリーは冒険者ではあるが、好戦的な性格ではない……もとい、なかった。ビームライフルを渡してしまうまでは。尤も、今も射撃欲が出ているだけで戦い自体を楽しんでいるわけではなさそうだが。


 それに闘技大会への出場は我の要望によるところが大きい。無理強いをしたつもりはないが、事情を知らない者にとっては違和感を覚えるのだろう。

 どちらにしてもギルドマスターが怪訝に思うのも無理はない。


「何? あたしが出るのは不満?」

「いや、ミリーはそんな戦いに興味あるタイプじゃなかったろ」

「そこはほら、麗しき友情みたいな?」


 ミリーが我の腕を取り、引き寄せてくる。どこまで本気なのか、仲良しこよしの演出らしい。


「ははははは、今までで一番面白い冗談だったぞ!」

「ひっど!」


 決してミリーの言葉は嘘八百というわけではなかったが、わざとらしい演出が返って冗談に映ったようだ。信じて貰えない点は同情に値するかもしれないが、それまでの振る舞いのツケがきたとも言えよう。


「……あー、本題に戻ってもらってもよいかの?」


 ともあれ、ここらで脱線を正す必要があると感じ進言する。二人の漫才を眺めるのも楽しくはあるが、どこかで止めねば延々と続いてしまう恐れがあった。


「ああ、すまないね。さて、まずBランクに上がる条件について説明しよう。

 正直に言えば、Bランクの昇格試験が受けられる時点で能力的には十分認められてるんだ」


 本題に入ったと思ったら、いきなり衝撃的な言葉がぶつけられた。

 だが、改まって考えてみれば思い当たる節はあった。

 先のミリーとの話で、Cランクまではギルド内の試験で済ませられると言っていた。逆説的に考えれば、Bランク以降はそれが出来ないという事。

 それに我らが成し得た未踏破ダンジョンの攻略という功績。

 答えを導き出すには十分な材料は存在していたのだ。


「じゃあ、なんでわざわざこんな面倒な流れになってんの?」

「一つは、Bランクの適性試験を行える試験官が世界的に不足している点だ。Cランクまでと同じ試験をしようにも出来ないってわけだ。

 そしてもう一つ、Bランク以上となると、自身の弱点を理解している必要がある。普段は仲間同士で補い合えばいいが、それが出来ない状況下に陥ることもあるだろう。そうした時に臨機応変に対応できるのか、それを見定めなければBランクとは認められないってわけだ」


 我が冒険者になった時、中難易度の単独攻略が安定し、集団での高難易度への挑戦権が得られる者をBランクと呼ぶと聞いた事がある。ここで重要なのはそのうちの前者なのだろう。後者は一芸に特化していれば十分居場所になる。


 だが、前者の場合、一芸に秀でていようと中難易度の依頼の攻略は難しくなる。一芸特化なら特化なりに不得手を補う術を用いるか、万能を謳うなら本当にその万能さでどんな状況も打開できるほどなのか、そういった事象の確認が必要という話だ。


 大よその全容が見えてきたところで、リア・ベスタで試験が受けられなかった理由も見えてくる。

 いかに闘技大会の前とて、ランクアップ試験が受けられない事などあるのかと首を捻っていたが、つまるところ相応しい依頼の選出が出来なくなっていたと言う事だ。


「なるほどの。つまり、敢えて我らが不得意とする依頼をこなせというわけか」

「そういう事だ。それまでの功績は冒険者カードに記されているからな。そこからその人物が避けている依頼を判別し、その部類の依頼をあてがうのが通例だ」


 どうやって依頼の選別をするのかと思ったが、冒険者の身分証たるカードにそのような使い方があったとは驚きだ。思い返せばリア・ベスタで『地獄への路』踏破の証明が出来ていた事もそうした技術の応用なのだろう。


「話は分かったけどぉ、あたしたちの場合一体どんな依頼をぶつけられるわけ……?」

「我らに共通する苦手分野……魔法か?」


 我が苦手とする分野と言われれば自他ともに認めるのは魔法だろう。ミリーも普段は人間の姿なので忘れがちだが、獣人の血を引くが故に魔法を苦手としている。

 となると、物理に耐性のある魔物の討伐だとか魔法使いがいる事で優位になる依頼をこなせとなる可能性が第一に考えられた。


 我とミリーに別々の課題を出される可能性もあったが、どちらにせよ苦手分野が共通している事実は変わらない。

 どうせなら協力したいところだが、そこはギルドマスターの采配次第か。


 戦々恐々、あるいは胸躍るワクワクか、判別しがたい感情を胸にギルドマスターの次の言葉を待つ。

 すると、ギルドマスターは先ほどまでとは打って変わって真面目な顔つきになった。


「その事なんだが、先に言っておこう。この依頼は失敗しても昇格の合否には関わらない」

「え? 失敗してもランクアップしてくれるって事?」


 初手から中々に衝撃的な言葉が飛び出てくる。ミリーも意味が分からないという風に早々に疑問を投げ返していた。

 我もミリーが先に言わなければ思わず問うていたかもしれない。事前にあれだけ脅すような事を言っておいて、随分と油断を誘ってくれるものだ。返ってこの先を聞くのが怖くなる。


 ミリーの問いかけに、ギルドマスターはやんわり首を振る。


「違う。依頼の成否と昇格の合否は別の話になるという事だ」

「どういう事か、詳しく話を聞きたいの」


 つまり、試験としての本質は依頼を成功させる事とは別に存在するという事らしい。

 どうやらかなり変則的な難題をふっかけられそうだ。


 居住まいを正し、真剣に話を聞こうとする我らに対し、ギルドマスターは静かに、そしてハッキリとした言葉で概要を告げた。


「あぁ。まず端的に依頼内容を説明するなら……『コンラッド・デイブス護送作戦』だ――」

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