1-9「夢」
野宿する事となり、見張り番を決める話になった。
睡眠中というのは当然ながら最も無防備になる時間だ。
だからこそ誰かしらが起きて、敵襲や緊急事態に備える必要がある。
何を警戒し、どう待機するのがベストかをラウルたちから聞いている中で不意に疑問が浮かんだ。
「そういえば、さっきまで出しっぱなしだった我の魔力で近辺に魔獣はいないのではないか?」
《魔法封じの腕輪》を貰うまで、竜人の膨大な魔力を放出し続けていたらしい。それで大抵の魔獣は本能的に距離を置いていたはずだ。ならば、わざわざ見張りを立てる必要もないのではないかと思ったのだ。
「確かにそれも一理ある。だが、夜行性の魔獣でサクラの魔力に気付かなかった者もいるかもしれないし、サクラの魔力が落ち着いた事で様子を見に戻ってくる輩もいるかもしれない」
「ならば今だけ腕輪を外すか?」
「生存圏を奪われる事を恐れて一か八か襲ってくる可能性もあるな。弱い魔獣でも黙って死を享受するやつはいない。そういうやつは死に物狂いで向かってくるから厄介だぞ」
窮鼠猫を噛む、というやつか。確率としては低いかもしれないが万が一に備える事も必要なわけだ。油断を許さない所がプロというものなのだろう。
「よく分かった。我が油断しすぎていたようだ」
「いや。サクラの考えも分かるよ。実際、何かが起こる事はまずない」
「それでも一人の油断が仲間を危険に晒す事になると思えば、手は抜けないのさ」
ラウルとニーダが互いに頷き合う。その姿に一しきり感心していると、苦笑しながらルーナが口を挟んだ。
「……まぁ、つい皆で寝ちゃう事もあるんだけどね」
「ば……っ! そりゃ昔の話だろうがよ!」
慌てた様子で訂正を入れるニーダ。その横でラウルは頬を掻いて誤魔化していた。オチをつけたのはルーナなりの配慮だろう。本当に気が利く者達だ。
「さて、あまり長話をしていても寝る時間が無くなるな。見張りは我が最初でよいのだったな」
「あぁ。一番手を任せて悪いな」
「逆だろう。一番手を任せてくれてありがとう、だ」
見張り番の順序を決めたのはラウルだった。順番は我、ラウル、ニーダ、ルーナとなっていた。だが二番手、三番手の見張りはどうしたって休憩時間が分散される為、辛くなる。更に言えば、我の魔力放出の影響が残っている一番手の時間が最も魔獣が出る確率が低いと予測される。つまり、見張りに不慣れな我を一番楽な順番に回してくれたわけだ。それに気付かない我ではない。
「参った。大人しく休むよ。だが、ちゃんと時間になったら起こしてくれよ」
「もちろんだ。夜更かしは美容の大敵故な」
冗談を交えながら、ラウルたちは順に横になっていった。
やがてすぅすぅと微かな寝息が聞こえ始め、焚き火の爆ぜる音と入り混じる。
天を見上げれば、無限にも思える星の瞬きが視界を覆う。
無数の音が存在しているというのに、とても静かな夜だった。
揺れる火を眺めながら、ふと考える。
この世界で夢を叶えるにはどうしたらいいか、と。
まず目的を整理しよう。
当然最終的な到達点はスーパーロボットを開発し、自ら操縦する事だ。
今の竜人の身体であれば、あと七百年は猶予がある。時間的にはとても恵まれていると言っていい。
では、我が求めるスーパーロボットとは何だろうか。
まず当然、人型である事。ここは絶対に妥協できない。
次に種類について。
これはアニメやゲームの話になるが、一口にロボットと言っても種類は多々ある。
いわゆる軍事目的に作られるリアル系ロボット。これはこれで浪漫はあるし、エースパイロットが乗る特注機はスーパーロボットと言ってもいい性能を誇る機体も存在する。
だが、あくまでその世界に存在する他の兵器と比較しての話だ。
我が真に求めるスーパーロボットとは些か趣が異なる。故に、リアル系ロボット路線は却下だ。
次に魔術的要素で動くファンタジー系ロボット。
これもスーパーロボットの一種であり、今の世界で作るならば最も現実的なロボットだろう。
全身によくわからない宝玉のようなパーツが組み込まれていたり、生物っぽい外見であったりする事が多い。
製造の難易度を考えれば、この路線が最善と言える。
だが。
やはりこれも却下だ。
ファンタジーロボットの魅力が分からない訳ではない。独特のかっこよさ、魔術が組み込まれるが故に生まれる斬新な兵装、科学のみではあり得ない展開などは非常に胸を熱くさせる。
だがしかし。我……否、『私』が転生してまで造り上げたかったロボットはそれではないのだ。
本丸への中継ぎとして、一先ず造ってみるという考えもあるだろう。しかしそれも気が乗らない。
最初に生み出す機体は特別なものだ。そこに妥協は極力挟みたくはない。
やはり、純然たるスーパーロボット。科学技術で作られ、ファンタジーめいた技術に頼らず、一騎当千で特別な機体。目指す到達点はそれ以外に存在しない。
大きさは最低二十メートルは欲しい。理想を言えば百メートル越えだが、そこまでを望むのは流石に身の程知らずだろう。
武装については、物理とビーム兵器どちらも必須。種類の豊富さは然程求めないが、内蔵兵器である事は求めたい。全身のあらゆるところに武器が仕込まれている。それもまたスーパーロボットの魅力だ。
飛行機能、深海や大気圏外での活動能力は絶対ではない。勿論、あるに越したことはないが後付けのパワーアップという手段もある。故に、最初の完成品に求める必要はない。
そしてここからは絶対に拘りたいポイントだ。
まずは材質。特に装甲に用いる金属は極めて重要だ。ただの鉄や鋼ではいけない。そもそも巨大ロボットを作る時点でこれらの金属では不可能なのだが、そんな現実的な理由ではなく、浪漫が足りない。無敵のボディに説得力を持たせるだけの最硬で最強の金属!
これを探すか生み出す必要がある。前世でもこの課題は最後までクリアの兆しが見えなかった。だが、幸か不幸かここは異世界。もしかしたら未知の金属が眠っている可能性はある。
そうだ。異世界にしかないものを使う事に拘りは無い。硬度を維持するのに魔力が必須だとかそういった理由があれば別だが、物に世界は関係無い。
次に動力源。
これも重要なポイントだ。圧倒的なパワーを引き出すには莫大なエネルギーが必要不可欠。ただの電気では足りないし、魔力を用いるのは断固拒否。理想は科学的に扱える新エネルギーの発見だが、これも前世では最後まで解決に至らなかった問題だ。
そういえば、魂の発見はこの動力源を探す過程で見つけたのだった。
続いてコクピット。あるいは操縦方法と言い換えてもいい。
大量のスイッチとレバーでガチャガチャ動かすタイプが一番『らしくて』いいが、それだけで人型の機械を自由自在に動かすのは中々に難しいものがある。
そこでこれを補助、あるいはメインに置き換える手段が脳波コントロールとモーショントレース技術だ。脳波を読み取り細かい動きを補助したり、パイロットの動きをトレースして人間さながらに動く。技術的にはさほど難しいものでもない。ただ、浪漫を優先するならばやはりレバーとスイッチ操作に拘りたいところだ。なので操縦方法の結論はもう少し先延ばしにするとしよう。
最後に、これは現実的な観点から考えなくてはならない問題だが、妥協しても良い点はあるか。
まず個人での開発に拘らない事。そもそもパーツの一つを作るにしても我一人では叶わない。金属の加工は専門の鍛冶職に依頼するしかないし、組み立ても人手を募る必要があるだろう。
次に開発に際しては魔法の使用を認める事。この世界に科学が存在しない以上、これも避けては通れまい。金属の加工とて恐らく魔法は使われるのだ。
最終的に完成したスーパーロボットが科学技術で再現可能な構造をしていればいい。そこに至るまでの過程は無視する。
よし。
終着点については考えがまとまった。
あとは如何にそこへ辿り着くか。
揺らめく火の先に、まだその答えは見えなかった――
【お願い】
読んで頂きありがとうございます!
これにて一章終了です。二章から本格的にタイトル通りに色々な物が生まれていく……はず!
ご期待頂けると幸いです!
また、この先は週二回(水・土)更新を予定しています。ご了承願います。
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