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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第五章『ティルティ・メルバランは受け入れない』

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5-21「お風呂」

 ティルティとリィンが帰った後、宿に残った私《レイニー》達もまたそのまま就寝する予定で準備をしていた。今後の予定を纏めたり武器や道具の手入れをしたり、するべき事は幾らでもある。

 とはいえ、それでせっかくの睡眠時間を減らすのは勿体ないしコストパフォーマンス的にも良くはない。どこかで切り上げようと考えていると、どたどたと騒々しい足音が聞こえてきた。

 音のする方を向くと、他の部屋を探索していたミリーが興奮した様子で戻ってきた。


「ねぇねぇ! めっちゃ大きいお風呂あったよ!」

「さすがティルティの手配してくれた宿ね」


 ミリーは扉の向こうを指さしながら興奮の理由を話す。どうやら大浴場があるらしい。お風呂付の客室とは随分と豪勢だ。確かに最上級の部屋ならあってもおかしくない。ティルティの感謝の気持ちが良く伝わってくる。


 はた、と自分やミリー達の姿を見やる。ダンジョンから帰還して街に戻る間に、ざっとは汚れを落としたもののやはりどこか埃っぽいのは否めない。この状態でよく宿泊を認めてくれたものだと今更ながらに恥じ入る。

 ミリーに感化されたわけではないが、ここはしっかりと汚れと疲れを落とすべきだろう。


「風呂か! よいな、疲れた体にはやはり風呂だの」


 魔道具の設計に精を出していたサクラも、話を聞き同意してきた。

 珍しく食いつきがいい気がするのは私の気のせいだろうか。

 サクラはスーパーロボットやそれに連なる物の開発や研究以外、寝食含めそこまで強い拘りはないのだとばかり思っていたが、程度の差があるだけで意外と色々なものを好んだりするのかもしれない。

 私も人の事は言えないとはいえ、熱中している中でも身なりを整えるだけの常識を保ってくれるのはありがたい。


「じゃあ皆で入ろー!」

「あー……いや、我は後にしておく」


 だが、ミリーの提案からサクラの態度が一転してしまった。直前までは乗り気だったと言うのにどうした事だろうか。まさか、常識人を気取る演技だったわけでもないだろうに。


「えー!? なんで?」


 ミリーも不満をぶつけてくる。言い方は悪いが期待を裏切ったのだからこれくらい言われても仕方あるまい。

 言われた当人であるサクラはといえば、少し返答に窮しているようだった。何か言い辛い理由でもあるのだろうか。なんでも快活に答える印象のあるサクラにしては珍しい事だ。


「……すまんの。あまり肌を人に見せるのは慣れておらんでの」

「せっかく皆で入れるお風呂なのにぃ」

「ミリー、無理を言わない。じゃあサクラ、先に入らせて貰うわね」


 親しき中にも礼儀あり。同じユニオンの仲間と言えど、無理強いはよくない事だ。肌を晒す事に抵抗を覚える感覚も分からなくもない。私だって見ず知らずの相手であれば同じ事を思うだろう。

 というわけで、むずがるミリーを脱衣所へと引っ張っていく。


 ミリーはぶつくさ言いながらも諦めたのか服を脱ぎ始めた。なんだかんだ言いつつもサクラの気持ちを尊重できる子なのだ。

 微笑ましく思いながら私もまた手早く脱衣を済ませる。


 そうして浴室の戸を開ければ、想像以上に広い湯船が私を待っていた。十人は余裕で入れそうなスペースがある。これはミリーが興奮してサクラを誘いたくなるのも分かると言うものだ。

 壁も凝った意匠が彫られており、観葉植物が配置されているがどれも決して主張しすぎず、主役である湯船を際立たせている。


 趣味の良さに感心しながら、まずは身体を洗おうと洗い場に向かおうとした所、背後でミリーがまっすぐ湯船へと駆け出していた。


「うひゃー! おっきー! そんでもって熱……っつ!」


 感動に打ち震えながら湯船に足を突っ込んだミリーは即座にその足を外に戻す。

 どうやら思った以上に湯の温度が高かったらしい。


「もうちょっと落ち着いたら? 大きいお風呂なんて珍しくないでしょうに」


 ミリーを窘めつつ、目線で身体を流すのが先だと促す。身体を流している内に湯の温度にも多少は慣れるだろう。


「いやいや、家のお風呂こんな豪華じゃなかったし!」


 私の隣に座ったミリーはお湯で身体を流しながら私に反論してきた。

 サンディルム卿の屋敷に行く事は度々あったが、流石に湯船を見た事は無い。だが、確かに貴族の屋敷と言えどここまで広い浴室は珍しいのかもしれない。


「そうだった? まぁ、どちらにしてもあまりはしゃぎすぎないようにね」

「別に誰に見られてるわけじゃないしいーじゃん」


 落ち着くように促すも、興奮状態のミリーには通じなかった。ぱぱっと汚れを洗い流したミリーはすぐに湯船へと再突入していく。

 流石に先ほどの熱さを警戒してか、直前でスピードを落としたかと思うと恐る恐るといった様子で足を近づけ、大丈夫と悟ったのか湯船にゆっくりと身体を沈めていった。


 私も洗ってばかりでは勿体ないかと、ミリーに続いて湯船に浸かる。


「はぁぁ……温まるぅ」


 恍惚そうに幸せを語るミリーに内心で同意する。

 疲れた体に熱い湯が心地よい。まるで全身の疲れが溶けて出ていくような感覚に、私は暫し脱力して湯船に身を任せる事にした。


 しばらく温かさに癒されていると、ミリーの方は段々飽きがきたのかバチャバチャと遊び始めた。止めるべきかとも思ったが、私に被害が及ばない内はいいかと思い直す。


 そうしているうちに、頭からお湯を被ったミリーはふと何かを思い出したように私に近づいてきた。


「ねぇ、レイニー。竜人ってさ、どっちかっていうと裸とか気にしないタイプじゃなかったっけ」


 どうやらまたサクラの事が気になりだしたらしい。

 ミリーに促され、一般的な竜人の知識を思い起こす。確かに竜人は竜の姿でいる時は実質全裸であるため、衣服の類にさほど執着しないと言われてはいる。だが、それはイコール裸で過ごしても気にしないという意味ではなかったはずだ。


「さすがに裸は気にすると思うけど……でもまぁ、ミリーが言いたい事も分かるわ」


 ミリーはサクラの語る理由に納得がいっていないのだ。肌を晒すのを厭うという理由自体は十全に理解できるものだが、それが本心だとはとても思えなかった。


「そっかぁ……じゃあ、別にサクラが珍しいとかそういうわけじゃないのか」

「気になるの?」

「レイニーは気にならないの? ぶっちゃけさ、サクラってどっか壁みたいのあるじゃん」


 本質をズバリと突いてきた。こういう所に遠慮しないのはミリーの長所だろう。


 普段はミリーの言う壁を感じる事は無い。仲間として良き関係を築けていると思う。

 だが、時折どこか違和感を覚えるのも事実だった。


「別に。本人が言ってた通り、肌を晒すのを気にしてるだけでしょ」

「ほんとにそう思ってるぅ?」

「……まぁ、心当たりがないわけじゃないけど」


 心当たり……それはちょうど今のように一緒に入浴するのを拒んだり、普段も就寝をともにする事を忌避している辺りを指している。

 他に、直近で言えば地獄への路の最下層で黄の本を見つけた時。私が感極まって思わず抱き着いた時だ。サクラは明確に拒みこそしなかったが、身体を緊張させているようだった。

 言ってしまえば、心でなく体の接近を嫌っているように感じていた。


「でしょー? あたしたち信用されてないのかなぁ」


 ミリーはそれを壁だと認識しているのだ。心身のパーソナルスペースが近いミリーならではの感覚だろう。

 私は少し違う。サクラが身体的接近を忌避するのには何かしらの理由があるのだと思っている。そして、それはおいそれと口に出来ないものなのだろうと。


 もちろん、サクラが如何にしてスーパーロボットなる珍奇な夢を見るようになったのか、数々の発想がどこからくるのか気になる点も多い。

 だが、それと仲間としての壁があるかどうかは別だと感じていた。


「それはないでしょ。サクラにそんな器用な事が出来るとは思えないし」

「ぶふっ……ちょ、言い方」


 私の纏め方がツボに入ったのか、ミリーは吹き出していた。

 一しきり笑った後、笑い疲れたのか浴槽にもたれかかり脱力しだした。


「でもまぁ、そうだよねぇ。サクラに裏があるなんてあり得ないか」

「そうよ。どう考えてもただのスーパーロボットバカでしかないんだから」


 ミリーも納得がいったようだ。

 暫しの間、穏やかな時間が流れる。

 お湯の温かさに意識を委ねていると、次第に思考が空っぽになっていく。


 それはある種の油断だった。


「……でもそれはそれとして寂しい?」


 不意に。

 ミリーから投げかけられた言葉が、私の脳みそに重くぶつけられる。


「なんでこっちに振るのよ」

「べっつにー? ふひひ」


 私の反応が面白かったのか、満足したようにそれ以上の追及はなかった。


 だが。

 気付いてしまった。


 そうか、私は寂しいのか。

 例えサクラに何か理由があろうとも。

 例えサクラの仲間意識に嘘が無いとしても。

 触れ合う事を避けるサクラのその態度に、寂しさを感じていたのか。


 自分の中にあったもやもやしたものの答えをミリーにズバリ的中させられた事が、何となく悔しくて。

 私はザバリとお湯を掻き出す勢いで湯船から出るのだった――

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