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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第一章『サクラ・ライゼンは妥協しない』

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1-8「森の中で」

 鬱蒼と生い茂る森の中、舗装などされていない獣道を歩む。

 先頭を行くラウルは迷う様子がない。太陽の位置も分からない中でよく道が分かるものだと感心しながら、方角の見極め方や獣道の歩き方など冒険者の心得を学んでいく。


 そう。

 学びながら歩けるほど、我らの旅路は順調だった。順調すぎた。

 止まることなく歩き続け、日が暮れる頃にようやく野宿の準備をすべく歩みを止めた。

 緩やかに流れる川を見つけ、その畔の開けた場所に簡素な寝床を作る。

 焚き火を囲い、ラウルたちの携帯食の干し肉と黒パンを分けてもらった。


 着るものもそうだが、何から何まで頼りっぱなしだ。せめて狩りの一つでもして貢献したいところだったが、ここまでの道中で魔物一匹遭遇しなかった。


「この分だと明後日にはル・ロイザに戻れそうか」

「思ったより早いね」

「もう二日は多くかかると思ってたんだがな」


 ここまでの道程を振り返り、《草原の導き手》の三人が思い思いに感想を言い合っている。


「流石と言ってよいのかの。我もここまでスムーズな旅になるとは思っておらんかったぞ。

 こうも魔物が出ないのはあれか……魔竜が狩り尽くしでもしていたのかの?」


 ちなみに我が狩り尽くしたという事は無い。確かに近隣の山林で獲物を狩って暮らしていたが、冬眠に近い日々を送っていた我は食事を摂らない日の方が多かった。一度に食べる量もせいぜいが猪一頭くらいの体積だったはずだ。生態系を崩すようなレベルの行いはした記憶が無い。


 ポカン、と三人が我の方を見て口を開けていた。

 次いでその開かれた口から声が漏れる。


「……あ」

「そうだったぁぁ!」

「心当たりがあるのか。どういう事だ?」

「サクラさんの魔力ですよ! ずっと出しっぱなしだから魔物も皆恐れて隠れてるんです」


 そういえば、最初に魔竜と我と勘違いされた理由もとてつもない魔力を感じたからだと言っていた気がする。つまり我は知らず知らずの内に周囲を威嚇していたわけか。


「しまったな。慣れてしまって忘れていたよ」

「だな。サクラさんの人となりですっかり気を抜いてたぜ」


 ラウルが頭を掻きながら困ったように呟く。

 ニーダはおかしそうに笑っていた。


「……思ったのだが、我はこのまま街に向かって大丈夫なのか?」


 三人は慣れたから気にしなくなったという。ならば、初対面の者に我はどう映るのか。

 少し考えれば想像はつく。


「かなり……まずいかな」


 ベテランの冒険者が脅威を抱くレベルというから、一般人が見たらどれほどのものか。

 どうやら街に入る前に片付けねばならない問題があったようだ。


「……重ねて聞くが、魔力の放出というのは簡単に抑えられるものなのか?」

「魔力感知と合わせて、魔力の制御は魔力操作の初歩の初歩だな」

「冒険者なら確実に使えますし、一般人でも大半が使えるものですね」


 つまり我は一般人以下か。それは『できそこない』と呼ばれても仕方ないな。

 しかしこのままだと竜の姿でなくても無用な混乱を招く事になるのか。どうにかせねばなるまい。

 だが今まで魔法に関してはからっきしだった。前世の記憶という原因は判明したものの、だからといって改善する方法が見つかった訳ではない。むしろ改善できる可能性が消失したと言ってもいい。


「そうか……困ったな」

「あ! なら、あれを使ったらいいんじゃないかな。ラウル、いい?」


 ルーナが何かを思い付いたようにパッと顔を上げた。


「あぁ、あれか! そうだな、サクラさんさえ良ければ試して貰いたいものがある」


 ルーナに促されるままにラウルがマジックバッグから何かを取り出す。

 それは綺麗な装飾の施された輪っか状のものだった。


「これは……腕輪か?」

「《魔法封じの腕輪》です。これを着けると体外に魔力を出せなくなるんです。

 元々は魔竜討伐の際に使えるかもって持ってきたものなんですけど」


 魔竜に嵌められる大きさとは思えないが、と口から出かけたが指くらいになら何とか入りそうだ。

 体外に魔力が出なくなるという事は、体内の魔力には影響が無いという事だろう。それで魔竜対策になったのかとも思ったが、竜の吐くブレスは魔法だ。それを封じ込められるなら、攻撃手段の一つ……それも最も広範囲の攻撃を封じられる事になる。確かに使う価値はあったのだろう。

 そしてこれならば、制御できない魔力も強制的に体内に封じ込められるというわけだ。ブレスも元々使えない我としてはデメリットなく、メリットのみを享受できそうだ。


「なるほど。我はどのみち魔法は使えないし、丁度いいな。

 すまぬが、対価は報酬から差し引きという形でよいか」


 今は手持ちがない。それは彼らも理解している。

 だから後払いで頼もうとしたが、ルーナから拒絶するように掌を差し出された。


「これくらいサービスさせてください。そんな高価なものではないですし」

「あぁ。元々それも魔竜戦で使うつもりだったものだ。気にする必要はないさ」


 ラウルも頷いてルーナへの同意を示す。だが、値段の大小に関わらずこれ以上好意に甘えるのは流石に負い目を感じざるを得ない。


「しかしだな……それでは我の立場がないではないか」

「サクラさんは魔竜の脅威がどれほどのものか実感がないんだな」

「それはそうかもしれん……はぁ、分かった。この話は街に着いてから再考しよう」


 譲り合いは終わりそうにない。ここは一旦頭を冷やす必要があると思い、話を終わらせることにした。

 ルーナから腕輪を受け取り、左手首に装着する。

 特に何かが変わったような印象は無かった。我が魔力オンチだからか腕輪の効力が発揮されていないのか判断に困るところだ。


「……どうかの? ちゃんと魔力は隠れているのか?」

「バッチリだ。これならむしろ竜人とさえ気付かれないだろうな」


 ラウルからお墨付きをもらう。見た目が人間と変わらない事で、竜人である事も隠せそうだという。悪目立ちするのは本意ではないし、変に実力を誤解されるのも面倒だから都合が良かった。


「それは助かるな。市井で暮らすなら人間として見られる方がいい」

「そういえば、夢があると言っていたよな。すーぱーろぼっと? だったか。

 せっかくだからどんなものなのか聞かせてくれないか」

「うむ! もちろんだ。よくぞ聞いてくれた!

 スーパーロボットとはな――」


 ニーダが聞いてきてくれたので、つい嬉しくなってしまった。思わず立ち上がり、スーパーロボットが何たるかを彼らに説く。


 科学技術の集大成、圧倒するビジュアルとダイナミックな威圧感。特殊合金でどんな攻撃も寄せ付けない無敵のボディ。全身に備わる多種多様な火器が織りなす死角なき制圧力。無骨な兵器とは一味違う、派手で荒唐無稽な必殺武器。絶望的な状況さえたった一機でひっくり返すパワフルさ。変形によってあらゆる地形に対応できる汎用性。合体して無限のパワーアップも可能という拡張性。時にパイロットに人外レベルの能力を強いるピーキーな性能であったり、とてつもない代償を求める事さえある選ばれし者にしか扱えない特別感。

 纏めるならばデカい、強い、かっこいいの贅沢盛りとも言える浪漫。

 一つ一つを掘り下げて語ればキリがない。話の内容は尽きることなく、我の口は饒舌に動き続ける。


「そ、その……つまり凄いゴーレムみたいなものか?」


 黙って聞いていたラウルが問いかけるように口を挟んできた。

 気付けば夜の闇がだいぶ深まっていた。

 お陰で少しばかり冷静さを取り戻す。白熱して語り過ぎていたようだ。


「うむむ……我としては全く違うものと言いたいのだが……理解を求めるには難しいか」

「ごめんなさい。サクラさんがとても大きなことを考えているのは分かるんですが」

「よいよい。理解しようとしてくれただけで十分だ。

 ラウルたちの夢も聞いてよいかの」


 好き放題話すだけでは不公平だ。それに彼らが冒険者をやっている理由にも興味があった。


「あぁ。俺たちは皆の規範となるような冒険者になりたいんだ。

 最強じゃなくてもいい、これが冒険者の姿だって胸を張って言えるような存在に」


 堂々と語るラウルの姿が眩しい。

 彼らが《草原の導き手》を名乗っているのもその夢からきているのか。


「ま、魔竜討伐なんて危険な依頼をかっこつけて受けたのもその一環ってこった」


 ニーダは不満そうに語る。だが言葉とは裏腹に表情はどこか楽しそうだ。

 ラウルもそれが分かっているのか、苦笑しながら手を合わせる。


「勝手に決めたのは悪かったって何度も謝っただろ」

「……その夢、叶いそうだの」


 そんな姿を眺めながら、我は思った事をそのまま口に出していた。


「そう言って貰えるのは嬉しいけど、まだまだだよ」

「いや、少なくとも我にとってはもう既に立派な先達よ」


 そう。彼らのお陰で冒険者が如何様なものか垣間見る事が出来た。それは尊敬の念を覚えるに足るものだった。


「そう……か。それなら良かった」

「ありがとうございます、サクラさん」

「……一つ、気になっていたのだがな」


 しみじみと噛み締めるように呟くラウルの隣で、ルーナが丁寧にお辞儀する。その様子を見て、我はつい言葉を紡いでいた。


「何か?」

「ともに魔竜を倒し、今はこうして互いの夢を語り合う仲だ。

 我らは対等であるべきではないか」


 魔竜を倒す程の竜人だから。客人だから。

 理由は色々あるだろうが、彼らと我の間にはある種の壁があるように感じられた。自然な事ではある。まだ出会って半日足らず。完全に打ち解ける方が不自然だ。


 だがしかし。

 その僅かな時間でも過ごした密度は高かったはずだ。彼らが信頼に足る人間たちである事も十二分に理解できた。ならば、間に聳える壁は不要だと思ったのだ。


「それは……」

「まぁ、そうだな。サクラ……のポンコツぶりもだいぶ分かってきたしな」


 ニーダにポンコツ呼ばわりされてしまった。それは魔法が使えない事を馬鹿にしているわけではない。あまりにも世俗に疎すぎる事を心配するような言い草だ。


「なぬ!? ……いや、我は正確に己を認識できる人間だ。それくらい甘んじて受け入れよう。好きに呼ぶがいい」

「はは……そう言ってくれるなら甘えるとしよう」

「呼び捨てはしにくいから、サクラちゃんでもいいかな」

「多少こそばゆいが……まぁ良い」


 ラウルやルーナからも同意を得られた。確かに距離が縮まった事を実感し、誰ともなしに笑い合う。

 そうして夜は更けていった――

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