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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第五章『ティルティ・メルバランは受け入れない』

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5-10「二十層・キャラバンズ」

 『地獄への路』攻略は続く――


 幾つか階層を超え、ついに我らは二十層へと到達しようとしていた。

 現在、冒険者が到達した最深部は二十三層だという。


 地図など情報が揃っていたのは十五層まで。以降は各個人の技量と協力によってここまで到達した。

 とはいえ、その過程は然して特筆すべきものはなく。

 言ってしまえば至極順調な道程だった。


 そうして足を踏み入れたニ十層。

 降りて早々、屈強な肉体を誇示する男が待ち構えていた。

 男は我らに気付くと、いかにもな体育会系の笑顔で手を振ってくる。


「よお、見ない顔ぶれだな。新参か? ここまでよく頑張ったな」


 妙に人懐っこく絡んでくる輩だ。我が警戒していると、レイニーが一歩前に出た。

 どうやら彼について何か知っているようだ。なれば成り行きを見守るのがよいだろう。


「大丈夫。『キャラバンズ』よ。そうでしょ?」

「ああ。《泥土を駆る獅子》のビーターだ。休むならそこの突き当りを右に曲がりな」


 ビーターと名乗った男は振り返り、道を指さす。

 しかし、レイニーはそれ以上前に出ようとはしない。


「失礼だけど、冒険者証を見せて頂いても?」

「もちろんだ。ちゃんとしているようで安心したぜ」


 ビーターは頷き、冒険者証を懐から取り出した。レイニーはその内容を隅々まで確認し、首肯する。


「ありがとう。では利用させて貰うわ」


 レイニーの礼に合わせて我らも一礼する。

 そうしてビーターの横を通り過ぎていった。


「『キャラバンズ』とは何なのだ?」


 暫し歩き、ビーターに声が届かない程度の距離が離れた所でレイニーに問いかけた。

 レイニーは振り向き、教師のような口調で話し始める。


「こういった深い階層のダンジョンだと、攻略に数日がかりになる事も多いでしょ。

 そんな時、ダンジョン内で安全に休める場所を確保する事が大変なのはわかるわよね」

「そこで現れたのがキャラバンズ!

 あの人たちは休憩場所の確保とか、アイテムの売買をメインにダンジョン内に留まる冒険者ユニオンなんだよ」


 横からミリーも参戦してきた。

 つまる所、自らサポートを買って出るユニオンということか。

 確かに未踏破のダンジョンならば需要は必ずあるだろうし、攻略が難しいのならば堅実に稼げる手段とも言える。

 なるほど、よく考えたものだ。


「その分、多少割高ではあるけれど。命には代えられないし多くの冒険者にとって必要不可欠な存在となっているの」

「ちなみに冒険者証の提示を求めていた理由は?」

「キャラバンズを装う悪党もいるって事。休憩中の無防備な所を狙う……ね。

 昔、そういった問題が多発したからキャラバンズを担うには冒険者ギルドの許可が必要になったの。その許可があるかどうかも含めて、一番確実なのが冒険者証を見せて貰う事というわけ」

「ちなみにちなみに、複数の人に確認を取るのが基本だよー」

「なるほど。盗んだ冒険者証を使う不届き者がいるかもしれないから、か」


 冒険者証もまた魔道具の一種。本人確認の出来る魔法が組み込まれている。

 だが、それもキチンと使ってこそ意味があるもの。確認をなぁなぁで済ませるような事をしていては、足をすくわれても仕方ないというわけだ。


「そういう事。まぁ、泥土を駆る獅子はキャラバンズとして有名なユニオンだしよっぽど大丈夫よ」


 ビーターの案内どおりに進んだ先では、別の冒険者が見張りをする広間があった。

 どうやら、ここが休憩所として確保された場所のようだ。


 見れば我ら以外にも二つほど冒険者の集団があるようだった。我らにとっては先達でありライバルでもある相手だ。


 レイニーが見張りをしていた冒険者に冒険者証の確認をし、場所代を支払う。

 地上で一週間宿に泊まれるぐらいの金額だったようだが、安全を考えれば妥当と言えよう。


 流石にダンジョン内でマジックハウスは使えないので、マジックバッグに用意していた簡易寝具を用意する。

 ミリーとリィンは食事の用意、その補佐にティルティがつく事になった。


 寝具の用意はすぐに終わり、食事を待つ間に何をするかと少々迷った。装備の点検など、やる事はある。だが、食事が出来るまでの時間を考えると区切りが悪い。


 レイニーと話し合い、開き直って先に休憩を取る事にする。

 ちょうど広場の中央に腰を落ち着けられる場所が用意されていたので、二人並んで雑談にでも興じようという事になった。


「やぁ、こんにちは」


 座った所で声をかけられる。振り返ると、柔和な表情の男が立っていた。

 武器を所持している様子は無い。安全地帯とはいえ不用心だと思ったが、敵意が無い事を示す為だろうか。だとすれば、こちらも相応の誠意を示すべきか。無論、油断しないのは前提として。


「……何か御用かしら」


 レイニーはあからさまな警戒の目を向けていた。

 その視線に威圧されてか、男は若干たじろいだが、すぐに両手を挙げて無害を主張する。


「そう警戒しないで欲しいな。初めて到来した後輩に嬉しくなっただけなんだ」


 男の発言に、レイニーはわざとらしいため息を吐いた。話を続けてよい、という意思表示だ。


「申し遅れたが、僕は《曇天の散策者》のナボックだ」

「うむ。よろしくな。我はサクラだ。で、その先輩が我らに話しかけた理由は何なのだ?」


 我はレイニー程、ナボックと名乗った男を警戒してはいなかった。

 そもそも冒険者同士の交流は街中でも外でもよくある事だ。時に情報を交換し、時に共闘し、時に競い合う者たち。それが冒険者というものだろう。


「売り込みならよほど信頼できるものでないと手は出さないわよ」


 レイニーが警戒を強めていたのはどうやら不当な売り付けを懸念していたからのようだ。

 確かに、この未踏破のダンジョンで先行者の情報は得難い代物だ。その貴重性を理由に大金を要求される事もあり得るのかもしれない。


 だが、ナボックはレイニーの言葉に怒る様子もなく、困ったように乾いた笑い声をあげていた。


「はは……しっかりしてるなぁ。けど残念ながら、商材になるような物は無いんだ。

 先輩面しといて何だけど、僕らはそろそろ引き返すつもりだしね」


 ナボックが後ろへと視線を向ける。その先にはキャンプを片付けるナボックの仲間と思しき者達の姿があった。しかし、どうにもその動きは緩慢で意欲に欠けているように見える。


「攻略を諦めたというのか?」


 ナボックの言葉とその仲間の様子から事情を察する。引き返すとは、態勢を整えるという意味ではないのだろうと。


「直球だな。ま、そういう事になるね。一言で纏めるなら、力不足を痛感したのさ。

 それで帰る前に新しい冒険者の集団を見かけたから、置き土産の一つでも残してみたくなったと言うわけだよ」


 諦めはしたが、何も爪痕を残せない事も悔やまれる。

 そこで丁度現れた新参が我らというわけだ。

 彼らの大体の事情は理解できた。


「なるほどの。だが、我らも暇ではない」


 彼らの事情……それは言い換えれば我らを感情のはけ口にしようとしているに他ならない。ただ利用されるだけなら面白くない話だ。素直に頷けるはずもない。


「そうか。残念だ」

「早合点するでない。無駄話を聞く暇は無いが、有益なものか楽しい話ならよいぞ」

「まぁ、活かすかどうかは別として聞くだけなら構わないわ」


 だが、そこに価値があるのであれば話は変わる。互いに利益を交換し合えるのなら話を聞く意味も生まれてこよう。

 レイニーも賛同の意思を示す。それが正誤のどちらであろうと、取捨選択をするのはこちらだ。その選択肢を得られるだけの価値は認めると言っている。


 我とレイニーの返答に、ナボックは随分嬉しそうに笑って見せた。

 我らと少し距離を置いた場所に座り、話をする態勢を取る。


「ははは、ご期待に応えられるよう頑張るとしよう。

 じゃあまず、現在の到達階は知っているかな」

「地上では二十三層と聞いたけれど」

「今は二十四層に踏み込んだパーティが出たそうだよ。残念ながら、長く探索は出来なかったようだけどね」


 未踏の地へと足を踏み入れたものの、更なる魔境だったという事か。

 しかし、着実に進行しているというのは事実のようだ。

 我個人としては、最初の踏破者になる事に意義を持たないが、パーティの仲間であるティルティの望みである以上、二十四層が攻略されていない事を今は喜ぶべきだろう。


「長らく踏破されなかった二十三層を……どこの冒険者?」

「《絶崖の登頂者》の連中さ」

「Aランクのユニオンね……そこでも苦戦するレベルの敵が蔓延っているというのね」


 Aランクといえば、高難易度の依頼を安定して攻略できる強者に値するランクだったはずだ。そのユニオンでも苦戦するとは流石は前人未踏のダンジョンと言うべきか。


 それにしても、レイニーがいるお陰で話がスムーズだ。てんで他の冒険者の事を知らない我だけであったなら、一々聞き返す事になっていただろう。


「君たちはここまで来るのに苦戦したかい?」

「ふむ。主観では苦戦というほど手こずってはいないつもりだの」


 落とし穴に嵌った事は敢えて言及しないでおこう。敵対した魔物に苦戦していない事は事実なのだし。

 主観とは言ったが、客観的に見ても苦戦と呼ぶほどの戦いにはなっていないはずだ。


「それなら大丈夫かな。二十一層から、魔物の強さが跳ね上がるんだ。

 僕らはここまでは何とか来れたけど、二十一層はどうしても突破出来なかった」

「ほう」

「確かに、ここまで出会った魔物はせいぜいがBランクに届くかどうかの魔物ばかりだったわね」


 確かに、ここまでの道中は前人未踏と呼ばれているのが不思議になる程度の魔物しか出てこなかった。浅い階層が低級の魔物ばかりだったのもそうだが、階を跨ぐ毎に強くなる魔物と言っても、その差は緩やかなものだったからだ。


 思えば、このダンジョンの侵入条件がCランクの冒険者五人以上というのも、この辺りまでなら到達できると踏んでのものだったに違いない。


「話を聞くに、二十二層以降も強さは急激に増していくらしい。このダンジョンが攻略されるつもりがあるのなら、恐らく三十層くらいが最深部だと推測されている」

「際限なく敵が強化されていくなら、人類の到達可能深度がそこら辺だというわけね」

「そういう事。あと話せる事と言えば……魔物の情報は要るかい?」

「いや。もう十分だ」


 次の階層が楽になるとしても、目的はその更に奥となる。話を聞く限り、次の階層で苦戦するなら更に先を目指す事など夢のまた夢だろう。ならば真っ向から挑戦して実力差を確認しておくのがベターだと判断した。


「了解だ。あまり楽しみを奪うのも良くないからね。さて、僕の話はお気に召したかな」

「ええ。悪くなかった。礼を言うわ」

「参考にさせてもらうとしよう。もう帰るのか?」

「ああ。仲間の準備も終わったようだしね。それじゃ、君たちの冒険の無事を祈ってるよ」


 ナボックが後ろを見やると、彼の仲間たちは準備を終えて待機しているようだった。

 立ち上がり礼をし、彼ら《曇天の散策者》の帰路を見送る。

 その後ろ姿が見えなくなったところで、再び腰を落ち着けてレイニーと向かい合った。


「さて。どう思う?」


 今の話を受けての感想をレイニーに問いかける。


「どうもこうも、今後の指針が変わる事はないでしょ」

「辛辣だが事実だの。何があろうと行ってみるしかないというわけだ」

「それが結論になるでしょうね」


 予想通りの返答に、我は苦笑した。ナボックから聞いた情報は確かに興味深いものではあったが、気を引き締める以上の意味合いにはならなかった。

 であれば、自ら赴いて確認し、都度対応していくという作戦とも呼べない場当たり的な対応しか出来ないのだ。


 何とも言えない空気感を打破するように、ミリーたちが手を振りながら近づいてきた。


「二人ともー! ご飯できたよー!」

「さて、では明日への英気を養うとしようかの」


 何はともあれ、心身の栄養は必要だ。腹が減っては戦は出来ぬし、気分も落ち込む。

 ミリーの作る温かい食事に期待し、明日への意気込みを新たにするのだった――

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