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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第五章『ティルティ・メルバランは受け入れない』

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5-5「地獄への路・一層」

 『地獄への路』に挑む為の人数が揃った事で、早速ダンジョン目掛けて走り出す……事はなかった。

 我らの準備は万端だったが、ティルティ達の方はこれから始めるという状況だったのだ。散々勧誘に失敗し続けていたようなのでそれも当然か。物資の中でも最重要となる食糧はいずれ痛むものだし、薬の類も質が落ちていく。

 その為、二人の分の食糧や消耗品の買い込みと、ダンジョン探索の手続きで一日を消費する事となった。


 依頼を受けるわけではないのでパーティの結成に手続きは不要だったが、Eランクのティルティはそのままでは条件を満たさない。その為、ティルティとリィンの二人がユニオン《お嬢様と下僕》を結成し、そのユニオンと我ら《蒼穹の夢狩人》でパーティを組むという形を取る事にした。

 《蒼穹の夢狩人》に直接二人を加入させなかったのは、ユニオンの加入はともかく脱退は少々面倒な手続きが必要らしいという事からの判断だ。


 考えてみれば当然の話だろう。即席でその場限り、且つ共闘以上のメリットが無いパーティに比べ、ユニオンは明確なメリットが存在するのだから厳正な部分が出てくるのは必然だ。


 ともかく、そうして一日を経た我々はついに『地獄への路』の入り口と対峙していた。


 リ・マルタから小一時間ほど歩いた森の中にぽっかりと空いた洞窟。そこがダンジョンの入り口らしかった。

 大自然の中にあるわけではなく、周囲にはかなり人の手が入っている。未踏破のダンジョンに挑む冒険者を顧客にしようとする商人やらが集まっているらしく、さながら祭りの会場のような雰囲気を呈していた。


 洞窟の前には兵士が門番のように控えており、通行の確認を取っていた。

 ギルドカードを提示して難なく通行する。


 ――ダンジョン攻略の始まりだ。


 入り口こそ自然に出来た洞窟の様相をしていたが、中は人工的に整備された道と壁で形作られていた。

 歩きながら壁に手を添える。


「ふむ。思ったより明るいのだな」


 壁も床も天井も、僅かに光を放っているようだった。お陰で照明のようなものが必要ない。


「ヒカリゴケね。その名と見た目通り、淡い光を放つ苔……植物ね。視界の確保に道具も魔法も不要になるから比較的使われやすいのよ。デメリットはほとんどないし」

「なるほどのー」


 ダンジョン攻略の為に用いられる植物らしい。つまり、人の手で拡散されたものというわけだ。

 こちらの視認性が改善される分、身を潜める事は難しくなる。ほとんどないデメリットとはその事だろう。それを補って余りあるメリットが存在するのは明白だ。


「待った。何かいるね」


 先頭を歩くミリーが手を振り上げ一同を制した。

 どうやら何者かの気配を察知したようだ。


「魔物ですの?」

「お嬢様、お下がりください。ここは僕が」

「ティルティ!」

「……ティルティ様」


 ティルティの前に立ち戦闘態勢を取るリィンだったが、呼称でティルティに絡まれ、わやくちゃしてしまう。

 ミリーはそんなリィンも含め、誰も前に出られないよう制し続けていた。


「あたしが行くよ! ほら、見つけた順」


 自分を指差し、にっこりと笑顔を見せる。


「そんなルールあったかの?」

「ミリーが撃ちたいだけでしょ」


 恐らく事実であろうツッコミを入れるレイニーは、どうせ止める事は出来ないと諦めた様子だった。

 それを知ってか知らずか、リィンは構えた武器を仕舞い一礼する。


「ではお言葉に甘えて。その次は僕がいきます。早いうちにお互いの力量をある程度知れた方が良いでしょう?」


 代わりに、スムーズに交代性の流れを作ってくれた。ミリーの思うままにするのは危険だと察したのかもしれないが、そうでなくとも言っている事は正論だ。

 パーティの結成から時間が無かった事もあって、互いの情報は口伝でしか確認できていない。階層が浅い方が敵も弱いならば、実態を披露するのは早いうちがいいに決まっている。


「そういう事なら、三番手は私が」

「いいでしょう。私が四番手ですわね」

「ぬ? 我が最後か?」

「それが一番無難だと思うわ」

「むぅ。仕方あるまい」


 流れるように順番が定まっていき、気付けば出遅れた我が最後となってしまった。

 別段文句があるわけではないが、一番最後が良いと言われた理由は気になるところだ。


 そんな雑談に興じている内に、敵の気配が近づき正体が見えてくる。通路の先から現れたのは、無数の人影。

 わらわらと群をなす小柄な人型の魔物だった。餓鬼を思い起こす細ばった手足に、苔色の肌、目は怪しく光り、口は頬まで裂けたように大きく開いていた。

 それぞれの手には剣やら斧やら武器を持っている。

 総数は少なくとも二十はいるよう見えた。


「なんだ、ただのゴブリンかぁ」


 先手を請け負ったミリーが、つまらなそうにため息を吐く。どうやらあれが小鬼ゴブリンらしい。ゴブリンと言えば初心者でも戦える低級魔物の代表格だ。

 未踏破ダンジョンとはいえ、浅い階層では低級魔物も跋扈しているようだ。


「随分と数が多いですわよ!?」

「あれくらいならだいじょぶだいじょぶ」


 いくら低級と言っても数は力だ。ティルティが後退るのも無理はなかった。


「じゃ、いってきまーす!」


 だが、ミリーは揺るがない。皆の前に出ると低く屈みこみゴブリンの身長に射線を合わせ、ビームライフルの照準が当てられる。間もなくして躊躇なくトリガーが引かれた。


 ビシュゥゥゥゥン――


 迸る閃光が真っ直ぐ正面に迫るゴブリンの腹部を貫く。それは風穴の先にいたゴブリンにも及び、一撃で数体のゴブリンに致命傷を与えた。

 だが、ミリーはそれに満足する事無く照準をずらしていき、次々とトリガーを引いていく。

 複数の閃光が線を描いたかと思うと、あっという間に全てのゴブリンは無力化されていた。


 数は力。だが、その力が有効に働くかどうかはまた別の話でもある。

 ダンジョンの狭い通路ではどうしたって数が増えれば密集せざるを得なくなる。それは貫通性を持った強力な武器があれば、良い的も同然だ。


 全てのゴブリンが沈黙したのを確認したところで、ミリーは肩でビームライフルを担ぎながら振り返り、満面の笑顔を見せていた。


「あれはなんですの!?」

「サクラが作ったよくわからない魔道具よ」

「説明が雑すぎぬか」


 初めて見たであろうビームの威力に驚愕するティルティに、レイニーからあまりに雑な解説が浴びせられる。


「詳しい説明をしてもらいたいならもう少し分かりやすい魔道具にしてちょうだい」

「なら我が直接説明してやるわ」

「通じなくてもへこまないならいいんじゃない?」


 流石に苦言を呈するも、たちまち正論を返されてしまう。これまでの過去を振り返るに、説明したところで理解を得られる可能性は低そうだった。

 それで平気かどうかと問われれば、それもまたレイニーにツッコまれた通り。


 舌戦に強くない我は、そのまま引き下がるのみだった。心の中で、いつか挽回してみせると密かに決心しつつ。


「皆様はとても信頼し合っているのですわね」


 我らの掛け合いをティルティが微笑ましそうに眺めていた。

 しかして、それに頷きで返していいものかは迷ってしまう。それはレイニーも同様のようだった。


「どうかしらね。ミリーはともかく、サクラとは出会って間もないし」


 レイニーの言う通りだ。我らはル・ロイザで知り合った。当初はただの契約関係にある相手であり、ユニオンを立ち上げてからも然してイベントをこなしてきたわけでもない。


「そうだの。まだ互いに知らぬ事は多かろう。だから、正しく言うなら信頼し合おうと関係を深めている所、かの」


 現状で信頼し合っているなどと言われると、些か過分な気がするのも当然だ。

 だからこその謙遜であり、事実の羅列でもあったのだが、ミリーは呆れたように我らの返答にため息を吐いた。


「……って二人とも言うけどさー、その時点でもう十分信頼関係なんて出来てるんじゃない?」

「えぇ。傍からはそう見えますね」

「ミリーはどっちの味方なのよ」

「あたしは真実の味方だよー」


 同調するリィンやティルティと揃ってこちらを野次ってくる。傍目にはそう見えるか。

 いや、実際に信頼という目に見えないものは、当事者よりも周りの方が理解っているものなのかもしれない。そういう意味では、ミリーとの関係も思っている以上に進展しているのだろうか。


「……さて、場も和んだところで、次は僕の番でしたね」


 雑談に花を咲かせている内に、次の魔物と接敵していたようだ。ミリーとバトンタッチし先頭に立つのはリィンマルス。

 対峙する相手は狭い通路の向こうからバタバタと翼をはためかせ、近づいてきた。コウモリのような魔物だ。その数は十匹ほどか。


「あれはナイトウィングね。強い魔物ではないけど、血を吸ってくるから気を付けて」


 レイニーの注意通り、鋭いキバが見える。噛みつかれれば痛いだけでは済まなさそうだ。

 そんな相手を前に、リィンはまるで動じない。

 一見すると執事服に身を包んだだけの彼は、どこからともかく鞭を取り出した。地面を叩くように鞭をしならせ、特有の構えに入る。


 ナイトウィングの群がリィンの間合いに入ると同時に、リィンの腕が僅かに動く。ほんの少し震わしただけで、鞭はまるで生き物のようにナイトウィングの群に向かって伸びていった。


 ズバババババッ!


 瞬く間にナイトウィング達が地面に叩き落されていく。その後もリィンが数回腕を少し振るっただけで、全てのナイトウィングが地べたを這う事となった。


「お見事」


 あまりに鮮やかな手際に、思わず拍手をしてしまう。

 振り返ったリィンは柔和な笑みでペコリとお辞儀をした。どこまでも所作が美しい。流石は貴族のお付きと言うべきか。

 しかし、それはそれとして。


「主が鞭を使うのか」

「なにか?」

「いや、何でもない」


 鞭、というのはどうにも貴族的な者が使う印象が拭えない。言ってしまえば女王様的な。もしくは獣などの調教師だろうか。

 そんな先入観からついツッコんでしまったが、そもそも生きるか死ぬかの戦いに似合う似合わないで武器を選んだりはしないかと気付く。きっとリィンにとっては鞭が一番相性が良かったのだろう。


 などと考え込んでいる内に、下へと続く階段に行き着く。


「ようやく一層攻略か。先は長そうだの」

「確認されている最深到達地点が二十三層だとされていますからね」


 こんなところで躓いている場合ではなさそうだ。尤も、既に戦ったミリーもリィンも単独で十二分に結果を出している。

 まだまだ問題は無さそうだ。


 互いに意思を確認するように頷き合い、我らは二層へと足を踏み入れるのだった――

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