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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第四章『ミリー・サンディルムには切らせない』

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4-9「買い出しと協力」

 さて、料理を作るとミリーに啖呵を切ったはいいが、何を作るべきか。

 むしろ何が作れるのか。


 ひとまず材料を見ながら考えようと、ランテの市場を物色していた。

 この世界、意外と料理の材料となる野菜や肉、調味料の類は豊富にある。ただし醤油や味噌といった和風調味料と、内地故に海産物は無い。氷属性の魔道具が無いので、そこまで流通が発達していないのだ。一部の氷魔法の使い手がそういった業種を担っているそうだが、そうした仕事を請け負う人自体希少な上、国を跨ぐ必要があるので前世の感覚だと法外な金額がかかるらしい。

 そういうわけで和食や魚料理は候補から除外される。


 そういえば、調理器具も考える必要があるか。マジックハウス内のキッチンを使うつもりだが、あそこには基本的なものしかない。ましてや冷蔵庫などは元から存在しない。

 いや、冷やすだけならレイニーに氷魔法を頼めばいい。毎日とはいかないだろうが、今回だけなら快く受け入れてくれると信じよう。


 そうなると料理の幅は多少広がる。

 定番なのはプリンだろうが、作り方を覚えているかというと自信がない。

 だが、デザートを用意する路線は悪くなさそうだ。

 作れるものは限られているので、迷う余地なく答えは決まる。


 とはいえ、デザートだけではいけない。問題はメインだ。

 試行錯誤している中で、ちょうど視界に入るものがあった。トマトだ。厳密には前世で言うトマトによく似たものだ。


 最近気づいた事だが、転生による影響か、我の口調がこれで固定されてしまっているように、前世と共通する物の名前の認知にも不具合が起こっている。前世の言葉で認知しているのだ。口から出る言葉は現地の言葉として発せているので支障はない。

 あくまで我の頭の中で、全ての物が前世の言葉で表されているという話だ。


 欠損している記憶もある事だし、そもそも死の間際まで思い出せなかった事から見ても、完全な転生には至らなかった事は明白だ。お陰で様々な不具合が起きている。

 実験も無しに一か八かで行った手段なのだから、こういう事態に陥るのも当然だろう。

 最も大切な根幹の部分は守れているのだから良しとするしかない。


 思考が逸れたが、トマトはトマト。程よい酸味と旨味が美味しいこの野菜、そのまま齧っても美味しいがひと手間加工すれば様々な料理に使える。


 そういえば、ル・ロイザやランテを散策したが見た事のない種類の料理があった事に思い至った。

 あれならばそれなりに驚いてくれるかもしれないな――



 ――市場で食材を買い揃えた我は、滞在している宿に移動した。

 そこは冒険者向けの安宿ではなく、旅人や商人が利用するような宿だ。一応今の身分は冒険者な我らがここを選んだのは、客数の少なさとミリーの薦めによるものだ。客数が少ないのは、直前にリリディアとの戦争騒動があったせい。それを知ったミリーから、応援もあってここを選ぶよう進言を受けたのだ。何でもル・ロイザからランテに足を運んだ際に、何度か泊まる事があったようだ。

 こういった場合、領主とその娘に対して普通は町長の屋敷に泊まるか最高級の宿を用意されるのが普通だと思うのだが、元傭兵のサンディルム卿はそういったもてなしは好まなかった様子だ。


 宿に戻ったのは、マジックハウスをレイニーから預かる為だ。

 午前中も忙しなくしていたレイニーだが、午後は宿で我の魔道具製作に尽くしてくれている。

 ノックをして部屋に入ると、ちょうどレイニーは魔道具の器に慎重に一文字一文字を刻んでいるところだった。

 声をかけるのが憚られる程の真剣さに、黙ってマジックハウスだけ預かろうかと考えていると、我の気配を感じ取ったのかレイニーが振り返った。


「おっと、邪魔をしてすまんの」

「サクラ? いえ、別に私は大丈夫だけど……どうかした?」

「なに、キッチンを使いたいのでマジックハウスを借りようかと思っての」

「あぁ、それならここのキッチンを借りればいいわ。許可は取ってあるから」


 何という事だ。既に先の展開を予見して動いていたと言うのか。流石は我らがレイニーだ。仕事が出来過ぎである。


「すまんが、少々協力も頼めるかの?」

「私を当てにされても困るんだけど」


 レイニーの調理の腕は知らないが、あまり得意ではないようだ。万能な印象があるレイニーだが、そういえば屋敷ではメイドが多数いたし家事の心得はあまりないのかもしれない。


 まぁ、わざわざ藪を突いて確かめる意味はない。

 ひとまずは勘違いを訂正する事としよう。


「いや、調理の手伝いではない。後で氷魔法を使ってほしいのだ」

「氷魔法……? それで美味しい物が出来るなら別にいいけど」


 レイニーが首を傾げる。氷魔法を用いる理由に検討がつかない様子だ。

 それならそれで驚かせがいがあるというもの。敢えて細かい説明は省くことにする。


「では後で呼ばせて貰うでの。よろしく頼む」


 レイニーの協力を取り付けた我は早速、宿の厨房へと向かった。

 宿の調理師に説明と礼を述べ、買ってきた食材を並べて調理に入る。




 ――調理に集中していると、時間はあっという間に過ぎていった。ふと外を見ればもう既に辺りは暗くなっていた。想定以上に時間がかかっている。

 それも仕方あるまい。まともな調理など百年以上ぶりなのだ。しかも記憶を頼りにレシピを思い出しながらなので、手際良く出来るはずもない。

 それでも何とか失敗する事無く形にはなったので良しとする。

 人様に提供する物だ。味見は怠らない。百パーセント前世の味を再現できたとは言わないが、概ね満足できる味に仕上がったと自負する。


 そういうわけで、二人を食堂へと呼んだ。我ら以外に客は一組だけで、互いに離れている為、こちらに注目が集まる事もない。


「二人とも、待たせたの」

「ううん。その分お腹空かせたから大丈夫!」

「前置きはいいから。味が落ちる前に早く出して」


 快活に笑うミリーに対し、レイニーが厳つい表情で急かしてくる。まるで腹を空かせた野獣だ。余裕が無い。


「お、おお……なんか気迫が凄いの」

「それだけ楽しみにしてたんだよー。ねっ?」

「ま、まぁ……そう思うならそれでもいいわ」


 レイニーも大人げなさを自覚していたのか、気恥ずかしそうに視線を背け、口調を落ち着ける。


「そういう事なら悪い気はせんの。ではご賞味あれ、だ」


 おべっかであれ何であれ、期待を向けられて嬉しくないはずがない。

 おだてられるままに出来立ての皿を二人の前に並べていく。

 目の前に置かれた皿の中身を、二人は食い入るように見ていた。


「なにこれ!? 赤い糸?」

「ナポリタンだ。そういえば、この辺では麺料理は見なかったと思っての」


 我が作ったのは、ごく一般的なナポリタン。我はロボットアニメは元より、特撮作品にも見識がある。特に食事シーンというと特撮作品の方が多く見られる気がするのは我だけだろうか。必然的に印象に残る料理も多くなる。


 ル・ロイザの酒場や食堂は幾つか見て回ったが、記憶にある限り麺料理は一度も見なかった。なので珍しがられるのではないかと踏んだのだが、当たりだったようだ。


「メン……」

「見ての通り、細長く形成した食品だの。まぁ、物は試しというやつだ」


 見てくれこそ珍しかろうが、それ以外はそこまで奇抜な物でもない。味で意外性を出そうとすれば事故になる可能性も大きい。その点で、麺料理は実に最適な一品だったと言えよう。


「これ、竜人の料理なの?」

「ん? あぁ……それはまた違う……かの」


 ミリーの問いに曖昧に首を振る。物珍しさから、竜人の料理と思われたようだ。竜人は他人種に比べて非常に閉鎖的だ。それ故に竜人の主食を知る者はほとんどいない。ミリーが勘違いするのも致し方ない。前世がどうのと喋るよりは、その勘違いを肯定しても良かったが、敢えて嘘をつく理由もないと返答を濁す。


「そうなんだ? 昔、パパやママと旅してた頃にも見なかったからてっきりそうなのかと思った」

「なんでもいいわ。冷める前に食べましょ」

「うむうむ。我も頂くとしよう」


 料理そのものだけでなく背景や出所に興味津々のミリーと違って、レイニーはもう待ちきれないといった様子だった。我としては下手に追及される前に話を逸らして貰えて助かる。

 レイニーの言に乗っかり、食事タイムに洒落込む事とした。


 初めての麺料理。食べ方に四苦八苦している様子の二人だったが、我が手本を見せる事ですぐに手慣れた様子で食べ始めた。一口、二口と食べ進めるごとに二人の勢いが増していく。

 気付けばあっというまに皿の上は空っぽになっていた。


「最初どうやって食べるのかと思ったけど、面白ーい!」

「これは……とてもいいものだわ」

「うんうん。トマトがこんな風に使えるなんて知らなかったよ。これはちょっとサクラを見くびってたかも」


 どうやら二人とも満足して貰えた様子だ。ミリーほどではないが、料理をする喜びが理解できる。

 だが、一つだけ惜しい事があった。


「ふっふっふ。その発言は少々早いと言わざるを得んの」

「え?」


 まだ終わってはいないのだ。何せ、我はデザートから先にメニューを決めていた。

 メインディッシュは間違いなくナポリタンだが、主役が来るのはこれからだ――

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