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サクラ・ライゼンは諦めない~スーパーロボットが作りたいので魔法世界も魔改造していきます~  作者: アラタアケル
第一章『サクラ・ライゼンは妥協しない』

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1-5「竜の巣」

「さて、と」


 既に絶命し、地表に倒れた魔竜を見上げる。

 我は今、再び人間の姿に戻っていた。竜の姿に不満があったわけではない。戦う必要が無くなり、意識が前世に傾倒したところで自然と人化していたのだ。


「さすがはサクラさん……すみません、足を引っ張ってしまって」


 駆け寄ってきたラウルが賞賛と同時に頭を下げてきた。

 彼らにも活躍の機会をと思っての行動だったが、気を遣わせてしまったようだ。


「いや、お主たちの連携も見事だった。己を卑下する事はあるまい」


 すっかり委縮している様子のラウルの傍に、遅れてニーダとルーナも合流してきた。


「いやぁー、取り敢えず依頼達成だな! 何とかなって良かったぜ」

「本当に……サクラさんのお陰ですね」

「そうだな。改めて礼を言わせてくれ」

「構わん。それよりもこの魔竜はどうするのだ?」


 討伐依頼というからには何か証明するものを持って帰るのだろうか。隠居生活しかしてこなかったせいでこの世界の一般常識が分からない。純粋な興味で訊ねてみた。


「そりゃ貴重な竜だ。全部残さず持って帰るさ」


 宝の山でも見るかのような目で魔竜の遺体を身ながらニーダが答える。

 竜の素材は貴重か。人魔の違いがあるとはいえ、少しばかり怖気だつ。

 とはいえ、よくよく考えれば前世では臓器移植など死者の身体を活用する事はあった。人間も竜も変わらないのかもしれない。

 しかし。

 改めて魔竜を見上げる。人の身の数倍の体躯を誇る存在。これを持ち帰る?


「これだけの巨体を全部か? まさか我の手助けを期待したりはしていまいな?」


 到底現実的ではなさそうな案を聞き、一つ思い至ったのは我への協力。同じ竜の身となれば持ち運びも安易なのは間違いない。だが、それを期待されるのは不満がある。魔竜退治に協力したのはあくまで人身の安全と、彼らへの義理立ての為。これ以上はその領分を超える。それは彼らも理解しているはずだが。


「そんなまさか! そこまで手を煩わせるつもりはない!」

「安心してください。ちゃんと用意はしてありますから」


 慌てふためくラウルに対し、ルーナが落ち着いた物腰で何やら懐から取り出したものを見せてきた。

 手提げカバンのようだ。何の変哲もない普通のカバンに見える。


「それは?」

「マジックバッグです。ご存じありませんか?」


 ご存知ない。だが、状況と名前から何となく推察は出来る。


「それに魔竜が入るのか」

「ええ。こう見えてこれもかなりレア物なんですよ。魔竜くらい余裕で入っちゃいます」


 どこか嬉しそうにルーナが説明する。察するに容量に差があるものらしい。その中でもかなりの大容量の品、といったところか。

 我が見ている前で、ルーナがマジックバッグを魔竜に近づける。するとスルスルと魔竜の巨体がバッグの中に吸い込まれていった。


「なんともまあ凄いものだな」


 仕組みや構造が気になるが、聞いたところで魔法だからとしか返ってこないだろう。


「おい、あっちに巣がある。調べようぜ」


 声に反応し顔を上げると、いつの間にか離れていたニーダが横穴を指差し手招きしていた。

 どうやら魔竜の巣があるようだ。我と一緒で雨風を凌ぐ洞窟に巣をつくっていたらしい。何故、依頼の魔竜を退治しただけでなく巣まで調べる必要があるのか。理由は想像できるがあまり心地よいものではなさそうだ。その証拠にニーダの声はトーンが低く、応えるラウルやルーナの表情も硬い。

 我もまたそれ以上考える事はやめ、ニーダに促されるままに全員で洞窟の方へと向かった。

 暗い洞窟内をルーナが照明魔法を灯して探索を行っていく。

 しばらく進むと、やがて大きな広間が顔を見せた。広間の壁際は何か物がごちゃごちゃと積み上げられていた。


「これは……」


 壁際に積み上げられたそれが何なのか確かめに近づく。前を行くラウルたちの表情が一層険しくなっていた。

 そこにあったものは、骨。人か動物かも分からないほど乱雑に積まれ、まともに形が残っているものは一つも無いように見えた。


「クソッ」


 ラウルの悪態が聞こえ、彼の手元を見やる。そこには人間の頭蓋骨が、それも小さな子供と思われるサイズのものが握られていた。犠牲者を悼んでいるのか。


 魔竜は悪だったか。

 いや違う。

 魔竜に悪意は無かったはずだ。ただ生きる為に食を求めたに過ぎない。この近辺でなく人里を襲ったのは、人間の味をどこかで覚えていたか、あるいは我と狩場の取り合いになるのを避ける為だったかもしれない。

 どちらにせよ、魔竜にとってのそれは生存競争の一環でしかなかったはずだ。

 それを討伐する冒険者が、もし名声や金銀財宝を求めていたとしても誰も咎められはしない。それもまた生きる術であり、戦うに足る理由に相違ないのだから。


 だがしかし。

 あるいは、だからこそ。

 彼ら《草原の導き手》が犠牲者を悼み、被害者を想い馳せ参じた事が誇らしかった。

 良き冒険者と出会えた。その事実が胸を温かくさせていた。


 暫しの間、朽ちた遺骨に向かって黙祷を捧げた後、再び広間の中を調べだす。

 骨だけでなく、様々な物品があちこちから見つかり、一先ずそれらを広間の中央へと集めた。

 めぼしいものをあらかた集め尽くす。

 ボロボロに朽ちた服から、それなりの金額になりそうな宝石のついたアクセサリー、破れた革袋に入っていた金貨、使い込まれた剣や斧といった武具まで幅広い品が揃っていた。どれもこれも襲われた人々が所持していたものだろう。


「集めたはいいが、これはどうするのだ? 持ち主に返すのか?」


 一先ずラウルたちを手伝ったはいいが、これをどうするのか。問いかけてみたものの、ここにある以上持ち主は既に骨になっている可能性が高いだろう。


「そうだな。返せる相手……もしくは家族がいるならそうしたいと思う」


 ラウルも現実は認識しているようだ。それを遮るようにニーダが一歩前に出てきた。


「だがな、そういう回収を目的とした依頼じゃない限り、討伐対象の持っていた物は討伐者が所有権を得られる事になってんだ。サクラさん、何か欲しいものでもあれば気にせず持ってってくれていい」

「あぁ、そうだな。魔竜を討伐したのはサクラさんだ。好きにしてくれていい」

「元々私達は魔竜討伐の報酬だけで十分だしね」


 三人の話を聞いて、私は暫し品定めを行った。とはいってもほとんどはフリだ。

 ニーダがラウルの話を遮ったのは、我に後ろめたさを感じさせまいと言う配慮だろう。であればその意思を汲もうと思ったまで。

 実際の所、目の前にある品々に魅力を感じる物は何もなかった。


「いいや。特に欲しいものもない。これらは主らに任せよう」


 首を振る我に対し、ニーダは尚も詰め寄ってくる。


「遠慮する必要はないんだぜ? 売ればそれなりの金になるはずだ」

「生憎、金を必要とする生活をしてこなかったものでな」


 ニーダと我の会話を、ラウルは一歩引いた位置から聞いていた。何やら思案している様子だったが、やがてその視線が我の方へと向いた。


「サクラさんはこの後どうするつもりなんだ?」

「お、おい。ラウル?」


 不意の問いかけ。

 思わず息を呑む。それは正に、今の我にとって最も考えるべき事柄だった。


 竜人チェリーのままであれば、今日の出来事は長い人生の中の些細なイベントの一つでしかなかっただろう。彼らと別れ、再び生きている実感のない虚無で怠惰な惰眠を貪る日々に戻るだけだった。

 それが悪い事とは思わない。生き方は人それぞれにあり、大罪を犯すようなものでない限り否定されるべきではないはずだからだ。


 だが。


 前世の記憶を取り戻した今ならどうか。そのような生き方に価値を見出せるか。

 答えは否。

 我は既に前世の夢を思い出している。叶えられなかった夢。諦めきれなかった夢。そして転生してまでも叶えようとした夢だ。

 今、胸の奥底から湧き上がるものがある。

 それこそが失意のままに燻ぶり続けた我が夢に他ならない。


「これからもあの山で暮らすつもりなのか?」


 我の返事を待ちきれなかったのか、再び問いかけられる。あるいはその答えを察しているからか。

 ラウルの問いに、我はゆっくりと首を振った。

 そして睨みつけるほどにラウルを見つめ、大きく笑みを作る。


「お前たちのお陰で我は夢を思い出したのでな。無為に時間を過ごす余裕がなくなった。

 我も人里に降りようと思う」

「夢か……いいな。差し支えなければ、どんな夢か聞いても?」

「ククク、聞きたいか? 聞きたいのだな!? よいよい、存分に聞くがよい!」


 一度は頓挫した夢。

 そうだ。

 まだ終わっていない。


「我が夢は――」


 ここからだ。

 もう一度、始めよう。


「――スーパーロボットのパイロットになる事だ!」

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